ヘンリエッタ
ヘンリエッタ
孤児院に近付くと子供達とセロンが遊んでいるのが見えた。
セロンは子供達と一緒にいるのが楽しい様で、寝る時までずっと一緒だった。
子供達と農作業をしたり、ギルドの仕事を一緒に受けて魔物の解体をしたり。忙しくしている様だった。
村に帰って来たら嫁に掛かりっきりでセロンをかまえないから、嫌な思いをさせるかと心配したが杞憂だったようだ。
「秋人!」
俺に気付いたセロンがそう言って俺に向かって走ってくる。
子供達もそれに倣った。
セロンがまず俺の首に抱き付いて。子供達は空いてるところに次々とぶら下がる。
「こらこら」
ぶら下がる子供達とセロンを引き摺りながら孤児院へと入った。
徐々に子供達は脱落、セロンだけがぶら下がったまま自分の部屋に入った。
ふぅ。と一息付いて椅子に座るけどセロンは降りずに俺の耳元で囁いた。
「大丈夫か?」
セロンの頭をナデナデする。俺はいつもと変わらないように振る舞ったつもりだったが、そうはいかなかったらしい。
「ありがと。ちょっとね」
セロンは俺の首から手を離して椅子に座った。
「俺のじいちゃんがセロンの村に行ったのは何年前だっけ?」
「ん?」
セロンが拳を安居に当てて考えるポーズ。
「二百年ぐらい前かな?」
じいちゃんは85歳で亡くなったけど。二百年前って、全然計算が合わないのな。『いったい、何歳の時にこの世界に居たんだよ!』って話になっちゃう。
でも、そもそも時系列が一緒とは限らないか。
それを言うなら、じいちゃんが本当に85歳だったとは限らないか?
あぁ、ダメだ!考えてるとどつぼに嵌まりそう。
でも、じいちゃんがこの世界に居たことがあるのは間違いない。セロンの村の『犬神様』が俺を見て、『ゲンの奴と同じ事を言うのだな』って言った。少なくともじいちゃんは昔のセロンの村に行ったことがあるはずだ!
ん?いや、犬神様が日本に行ったこともある可能性も出てくるのか?
あぁ~!わからん!
自分の頭をぐしゃぐしゃするが頭の中は晴れない。
その時、
『トントン』
と、部屋のドアを叩く音がした。
セロンが立ち上がってドアを開けるとこの間の幼女かドアの向こうに立っていた。
模造刀君と一緒にいた女の子だ。
「待たせてしまって申し訳無いな」
俺はそう言って椅子を勧める。セロンはそっと部屋を出ていった。代わりに入ってくるカナリアが俺と女の子の前にお茶の入ったコップを置くと、カナリアも小さく頭を下げて部屋を出ていった。
「こちら、王位継承権代23位のヘンリエッタ様でございます」
幼女と一緒に入ってきた女性が言った。
えーと、
「おお!こんにちは。今日はありがとな」
俺は出来るだけ優しく、ヘンリエッタと呼ばれた女の子見て言った。
その女の子は俺を睨み付けてくる。
イメージして欲しい。小さな女の子が口をへの字に曲げて睨んでくるのだ。可愛いもんだ。俺がそう思って微笑んでいるのを見た付き添いの女性は、何かを感じたのか大きな咳払いをした。
「ゴホン!!ヘンリエッタ様は今年21歳になられ!入れ墨をお考えでございます!!」
「えぇ!!!この子が21歳?!それは無いでしょ!!」
例えば中学生だと云われても全然違和感が無い。
「失礼ですぞ!!ヘンリエッタ様は今年にて21歳に間違いない御座いません!!」
付き添いの女性はそう言うが、このヘンリエッタと呼ばれた女の子の体はまさしく、『ツルツルペッタン』
頭の中で誰かが、『合法ロリババア』だぞ!!!って、叫んだ気がする。
そんな俺を見て何か察したのか、
『きー!!』
って顔で俺の事をヘンリエッタが睨んでくるが、涙が滲んだその顔は怖いというより、可哀想。そんな言葉が似合う。
「そっ、そうか。どんな入れ墨が良いんだ?ん?お兄さんに教えておくれ?」
優しく接したつもりが何故かヘンリエッタの顔は今にも泣きそうになってしまう!!
目の下にドンドン涙がたまって、、、、。
『ぶぇーん!!!』
泣き出してしまった。
ほら、やっぱり中学生じゃん。ただ単に、背伸びをしたいお年頃なんだよ。




