冒険者ギルド
冒険者ギルド
冒険者ギルドに向かって歩く。途中さっきの焼き鳥屋によって10円玉と焼き鳥を交換する。三本頼む、食べ尽くしても全然お腹に余裕はあるけど、財布に余裕が無いのでこれにて断念。五百円玉はあるけど銀じゃねぇし。これってアルミ?鉄?
教えられた冒険者ギルドはレンガ造りの二階建て、ほぼ箱形の作りになっている。木造のドアを開くと正面に受付っぽいカウンターとそこに座るそこそこの胸をお持ちの女性がいた。
「すみません。冒険者になりたいんですけど」地球だったら決して口にしないフレーズだ。
「はい、冒険者ギルドは初めてでしたでしょうか?」
ありえないフレーズからスムーズに会話が進む。
「はい」
建物を観察する振りをしながらチラ見する、Eカップぐらいだろう。Gカップをガン見した後だとそれほどに見えないが十分立派だ。
「失礼ですが読み書きは問題ありませんか?」
「それが、出来ないのですが」
やべ、そういえば全然考えてなかった。
「大丈夫ですよ。」大丈夫らしい。「口頭でも確認出来ますので。ではついて来て下さい」
そう言うと立ち上がった。カウンター横のドアを開ける。
「簡単な確認と、手続きをします」
後ろ姿をなめ回すように見る。細身で、足が長い。完全な地球でいう西洋体型。身長は170ほど、体重は56ぐらいか。歳は21かな。金髪が腰の上辺りまで伸びている。服は上半身はシャツにベスト、下半身はくるぶしまで丈のあるスカート、色は白黒でまとめている。
服装が何だか昔のヤンキーみたい。
部屋に入ると勧められるまま椅子に座った。机の中央には透明な水晶が置かれている。
「では、まずほ犯罪歴の確認を」そう言うと俺の反対側に座った。「ではこの水晶に触れて下さい」
そおっと、手を伸ばす。昔お菓子が買って貰えなくて近所の店でゴニョゴニョしたことがある。それが原因でしょっぴかれたり、、、
「はい、大丈夫ですね」大丈夫らしい。「ではこれで貴方は今から冒険者になります」
「そんな簡単にオッケーしちゃっていいの?」思わず聞いてしまう。
「大丈夫ですよ。そんな重大な犯罪歴では無いようですし」
バレてんのかい!
「それに冒険者は不足しているので、どんな方でもなってくれれば問題ありません。子供でも、女の子でも。それに、ギルドは報酬を払う役所だと思ってください。私共にとって大切なのは報酬を支払うか、支払わないかです。ギルドカードを持っていて依頼の条件を満たしていれば報酬を支払います」
結構ドライみたい。
「子供の冒険者なんているの?」
「いますよ、仕事はおもに薬草の採取ですとか、畑山仕事、解体とか」
「解体?」
「えぇ、魔物を討伐した後の買い取りですが、解体していただいたほうが高額で引き取ることが可能です。解体が億劫な場合は低額で買い取らせていただいて、討伐の向かない子供に解体を依頼することがあります」
なるほどね、良くできてる。
「そういう仕事はどんな子供でめ受けられるの?」ぶつかってきた子供を思い出したので思わず聞く。
「大丈夫ですよ。むしろ親がいない子供や他色々な理由で就労出来ない人たちの主な仕事です。解体出来れば問題ありませんし、出来なくてもある程度はレクチャーします」
「へぇ」
少しほっとする。
「ちなみに、そのまま大きくなって冒険者になることが多いです」
「そっか、ちなみにそういう子供って他の仕事には就けないの?」
「そうですね」少し困ったような顔をする。「地方にもよりますが、この村では大丈夫ですよ。お金を貯めるために冒険者にはだいたいなっているようですが」
「そういう親のいない子供は結構いるの?」
「それは、まぁ」ぽかんとした顔で言う。「2年前の反乱でやはり、あの時は魔物が結構市内まで入ってきたので」
「そっか」
さっきの子もそうなのだろうか。一人親族が居れば全然違う。じいちゃんが俺にはいた、 金なんか無くても帰る家があれば、待ってる家族がいれば。なんとかやっていける。
いきなり一人に成るというのは、、、
「あのぅ」受付嬢が俺の顔を覗きこむ。「失礼ですがどちらから?」
あっ、やべ。設定忘れてた。
「それが記憶が無いんだよ。」かなり大きな事件だったのだろう、知らないのは不自然か。 「気付いたらこの村にいた、名前とかはわかるんだけど」
「、、そのぅ」
不審そうにこっちを見てくる、記憶がが無い人の取り扱いマニュアルなど無いのだろう。
「大丈夫?」
心配されてしまった。よく見るときれいな顔をしている。
「えぇ、大丈夫ですよ。住む所もなんとか、あとは収入をどうにか」
「はぁ」今度は珍しそうな顔で見られる。
「早速ですが、俺でも受けられる依頼は、、」
「あぁ」気を取り直したようで最初の顔に戻る。一人百面相だな。「採取類のクエストか解体のクエストなら問題ありません。討伐系のクエストは審査があります」
「今すぐ審査を受けることは?」
「、、、出来ますが」 眉にしわを寄せている。「少し厳しいです」
「何が?」
「ちょっと大きな声では言えないのですが、今いる担当者が新人に厳しくって」
エルザは声を小さくした。
「怪我をしてもこちらで治療しますが」
「なら全然いいじゃん」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ、いいじゃん。その人、新人キラーとか言われてんの?」
受付嬢は下を向いて気まずそうにしている。コロコロと顔が変わる。冷たい感じの女性かと思っていたけどそうでもないみたい。
「いいね。最初の雰囲気より今のほうがいいよ、表情が豊かでさ」
俺がそう言うと少しびっくりした顔をする。
「審査の担当は誰でもいい。早く終わらしたいんだ」
こっちに来てから感じていた違和感、違和感というか。異常感。体が軽く、強くしなる。今までと違う、動けるという直感。それが心をせかした。体を全力で動かしたい。
「、、、ではギルドカードを発行します」キリッとした顔になる。キリッとした顔も素敵だね。「このオーブに手を置いてください」
はいと置く。
「オーブにあなたのスターテスが浮かびます」
おぉ!なんか浮かんできた。
「一緒に確認させてもらって良いですか?」
「あぁ、はい」
俺はこっちの文字数読めないもんね。
受付嬢さんはそう言って俺の隣に立ってオーブを覗きこむ。長い髪が俺の肩にかかった。受付嬢さんからいい匂いがするので空気を鼻からめっちゃ吸引する。古今東西、地球も異世界も女性いい匂いがするものですな。
「なにこれ。何をしたの?」
受付嬢さんの声が大きくちょっとびびる。
「えっ、何が?」喋りながらも呼吸は鼻だ。
「、、、えーと」受付嬢さんはオーブを見たまま思案している。俺はひたすら鼻呼吸する。
「じゃあ読むね」
読んでくれた内容はこちら。
1/99
HP120/120
MP45/45
力 37
敏捷28
体力35
魔力30
スキル
力上昇Le1
敏捷上昇Le1
魔力上昇Le1
体力上昇Le1
心肺能力上昇Le1
自然回復力上昇Le1
MP回復力上昇Le1
状態異常耐性上昇Le1
火耐性上昇Le1
火魔法効果上昇Le1
剛体Le1
龍眼Le1
感知Le1
「なんか色々有りますね?」
鼻腔を動かしながら受付嬢さんを見る。
「何処から何て言えば良いか」
「なんか変?」
「まず、レベル1でこの数値は異常」
「はぁ、そうなんですか」
ほかに言いようが無い。
「あと、スキル。こんなにスキルを保有してるのも異常というか、無理」
「はぁ、そうなんですか」
「あなた龍人?」
「人間です」
そんな種族がいるのかスゲーな。
「じゃあ、あなた法印は?」
「法印?」なんじゃそりゃ。
「あなた魔法はわかる?」
「わかる」
魔力で文字を書くやつだ。
「それを入れ墨として体に彫るの、そうすると空中に文字を書く手間をはぶけるの」
なるほど、めちゃめちゃ便利だ。トイレの水を流すためにいちいち文字を書かなくていいわけだ。
「それを法印って呼んでるの」なるほど。「それで法印は?」
「無いよ」
「無いの!無くてこれ?」
うわ、唾飛んできた。ちょっと嬉しい。
「龍の入れ墨ならあるけれど」じいちゃんに彫ってもらった入れ墨だ。
「見せてよ」真剣な顔だ。
「しょうがないな」
入れ墨を人に見せるのはこれが初めてだったりする。もったいぶって首の後ろを見せる。玉を持った龍の手があるはずだ。
「脱げ」受付嬢さんの目が笑ってない。
「今すぐだ」
こっちの世界の人達怖い。
金さんみたいに腕を曲げて、右腕と左腕を出す。受付嬢さんに背をみせるとTシャツを脱いだ。入れ墨を入れた以上もちろん何処かで誰かに見せたいという願望があるのだけど。こんな風に命令されて脱ぐとは。もっとかっこよく脱ぎたかった。
「、、、すごい」
受付嬢さんが言う。自然と笑みがこぼれる。へへ、嬉しいもんだね。
「じいちゃんが彫ってくれたんだ」
背中一面に龍の入れ墨がある。
「これはなに」
受付嬢さんの指が俺の背中をなぞる。ゾクゾクする。やべ、前屈みになりそう。
「龍、ドラゴンだよ」
指が上へ、下へと、右へ左へと動く。
「凄くキレイ」
もういかん、俺のあれが上へ上へと上昇しようとしている。火耐性は高いかもしれないが、女性耐性は低いままのようだ。
「ありがと」
俺はそう言って手を伸ばす。受付嬢さんの手を止めねば!
止めようと振り向くと、俺の背中をなぞっていたのはペンだった。
思わず目を細める。何処から出したんだよ。受付嬢さんは笑いをこらえているようだ。
そそくさと服を着た。
「で、どう?」
少しぶっきらぼうな言い方になる。
「法印が彫られてると思ったんだけど、、、こんなの見たことが無いし、何とも言えない」
言えないんかい!俺は見せ損か!歓び損か!
「能力上昇系の法印じゃ無い事は分かる。じゃあ召喚の法印かと思ったんだけど、レベル1でこの量の、龍の召喚の法印を彫ったら普通気が狂う」
こえーな。
「最悪魔人になる」
「なにそれ?」
「身の丈に会わない法印を彫ると何でかは分かってないんだけど人じゃあ無くなっちゃうの」
「で、魔人になるとどうなるの?」
「だいたい人を襲う」
「元には?」
「戻れない、というか必ず討伐されちゃう」
そりゃそうか。
「たくさんの冒険者の命と引き換えにね」
「何で人を襲うのかは、、」
「分かってない」
だよね。聞いてる余裕なんてないだろうし。
「じゃあこれは?」自分の背中を指差して言う。
「スキルの多さは法印だと思いたいけど違う。召喚の法印で能力上昇のスキルが発動するなんて聞いた事が無い」
「そりゃそうだよね。だってじいちゃんが彫った龍だもん。ただの入れ墨だよ」
「そうですか、おじいさんは法印は彫られないのですか?」
やべ、墓穴ほった?
「、、、いや、んー。なんか、そんなねぇ」受付嬢の目がめっちゃ厳しい!「んー、そんな感じ?」
鷹の様な目で見てくるが俺としてもどうしようもない。異世界から来ましたなんて説明できねぇよ。俺も受付嬢の目を見る。きっと、苦虫を食べてる様な顔だろう。でも、俺は負けるわけにはいきません!話したくても話せないのだ!異世界から来たなんてあんた信じないでしょう!
しかし鷹の目で見てくる。
「記憶、ありませんよ?」
もう勘して欲しい。
突然受付嬢は笑いだした。
「げっひゃひゃひゃ!」
下品だな。もう少し上品に笑えないのかね。最初のクールなイメージもはや皆無だな。
「いいよ、わかった。記憶は無いね」
さんざん笑うと少しは落ち着いたのか笑いをこらえながら言った。
「そうそう」わかってくれればいいよ。
「私はエリザ」そう言って手を伸ばしてきた。
「俺は新原秋人」
その手をつかんで握手する。よくわからん。
「久々に笑わせてもらったわ」
「そうですか」
なにこいつ、もう嫌い。
「名前はシンバラアキトでいいのね?」
「そうだよ」
握手していた手をほどく。
「じゃあ、ギルドカード発行してくるね。ちょっと待ってて」
そう言って部屋を出ていった。
なんだか疲れる人だった。なんとかギルドカードを発行してもらえそうだ。これで収入をどうにかすることが出来そう。藁の上で眠るのは嫌なので、なんとか頑張りたい。
しかしかなり面白い事を言っていた。法印だ、彫師としてこんなに興味深い事はない。自分にも彫れるのだろうか?墨は同じものでいいのだろうか?特別な道具が必要になるのだろうか。あとでエルザちゃんに聞いてみよ。
「お待たせしました」
エルザちゃんが入ってきた。
ギルドカードと紙の束を受けとる。茶色のギルドカードになんか書いてある。もちろん読めない。
「書いてあるのはレベル1って事と、名前と年齢と種族」
年齢勝手にわかんのかよ。オーブのせいかな?「あとはランクがFって事だけ」
読めないのを察して教えてくれる。
「無くさない様にね。身分証になるし、素材の買い取りとかに必要だから」
あっ、そういえば金塊どうしよ。
「あと、ギルド以外からの収入は納税の義務があるから気を付けてね、それ領収書ね」
今度説明するね。と紙の束を指差さして言う。
エルザは『じゃあこっち』と言って部屋を出る。審査のために場所へ案内してくれるようだ。
「ねぇ、俺でも彫師になれるのかな?」
「えっ、彫師になるの?」
「まぁ、そりゃあ」
こっちの世界でも入れ墨あるみたいだし。とは言いかけて焦る。
「いいじゃん!なりなよ!」
足を止めて振り向いて言う。
期待に満ちた顔で俺を見ている。可愛いなおい。
「でもその法印だとか彫れんのかな?」
「魔法が使えるなら大丈夫じゃない?」疑問系かよ。
「審査はないわけ?」
「んーと、税金さえ払えば大丈夫かな」
そう言ってまた歩きだした。
「例えばギルドも魔物の買い取りは出来るの、ギルドカードがなくなって。ただ、斡旋はギルドカード持っている事と審査を通ってる事が条件なだけで」
「へぇ」俺は後を付いていく。
「その代わりに安くなっちゃうけどね」
なるほどね。
木製のドアの前に来た。
「じゃあ続きはまた後で」
そう言ってエルザは引き返した。多分審査員をつれに行ったのだろう。
ドアを開けると外に出た。建物の中庭なのだろう、回りを建物がコの字型に囲んでる。出てきたのはコの字の縦の棒の部分。正面には建物ではなく林とアルプスが見える。
アルプスを眺めながら体を伸ばす。左右に体を捻ると木剣が壁に立て掛けてあったので近づく。木剣は西洋っぽい造りだった。日本刀のような片刃の峰の有るものではなく両刃の物だ。
リュックを置くと、手に取って、軽く振ってみる。腰の木刀より軽いな。ん?軽い?腰に差した木刀を見ると、木と木の間に繋ぎ目が、、、。木剣をもう一度置くと、左手で持って鯉口を親指できる。カチャっと小さな音を立てて刀身が出てくる。仕込み刀かよ。てか、じいちゃんの刀だ。きれいな刃紋が流れてる。
これでを審査で使う訳が無いので、腰から外してリュックと一緒に置いて、気を取り直して木剣をもう一度取る。
じいちゃんにつけてもらった稽古を思い出す。上級生とのケンカで負けて『じいちゃんみたいに強くなりたい!』って言ったらじいちゃんは『自分より小せえやつを殴るたぁ筋が通らねぇんじゃねぇか?ようし。ぶっ殺せ!』と言い出してえらい事になった。とはいっても、決して相手を殺しに行った訳ではなく。『子供のケンカにじじいは出れねぇ、おめぇがやるんだ!』と言われた。スパルタだった。
戦いかたは基本だけ教えてのケンカに殺法だった。『結局使いもんにならなきゃ意味がねぇ』と言って実践的な特訓だった。
素手対素手の特訓だけじゃなく、素手で剣だったり槍との模擬戦なんかもした。土佐犬をけしかけられた事もある。
結局、剣道道場とかに行っても剣道家同しのの戦いで勝つ方法しか教えてもらえないんだってさ。まぁ、そうなるよね。剣道の道場だから剣道やる人しかいないし。
でも、じいちゃんの友達の道場とかはあっこっち遊びに行って色々教えてもらった。じいちゃんとしか戦わないのも当然ダメだしね。
じいちゃんからも、他の道場でもわりとというか、大事にしろと言われたのは重心だ。
たとえば、体を後ろに反らせた状態でパンチをしてみて欲しい。相手に当たったとして相手は痛いだろうか?ってか、絶対痛くない。しかも、絶対当たらない。
そして、体を反らせた状態でお腹にパンチされたら避けられない。無様に転がるのが精一杯。そもそもパンチが見えないが。
とにかく重心は大事!戦うにしても!避けるにしても!重心も一緒に体全体で避ける。筋肉がしっかり付けば少しは重心をずらせるというか、動かせるというか、広げられるというか。
でも、パンチをしっかり打つなら重心はずらさないほうが強いのを打てる。そして、強い人ほど重心がぶれない。体幹ごとすっと動く。
重心を意識して右手に木剣を持つ。右半身を前へ出し左手を添える。左足を出すと同時に木剣を振り上げ、右足を出すと同時に木剣を振り下ろす。
スキルのおかげだろうか、やはり体が軽い。体重移動もスムーズだ。ここしばらくは体を動かしていなかったが、ブランクを感じない。
木剣を構えて受けの型をいつくか確認していると後ろのドアが開いた。
入ってきた男は金髪で青い目、堀の深いのいけすかない顔をしていた。精悍な顔立ちでさぞかしモテるだろう。
身長は俺より少し高いだろうか、体重は向こうのほうがかなり多い。筋肉の量が違う、肩と腕と剣を使ううえで必要になるのだろう筋肉がしっかり付いている。いい背筋も付いてそうだ。
新人いびりしているやつなんてどうせ大したこと無いだろうと思っていたけど甘かったか。ちなみにそいつの頭の上には数字の5が浮かんでる。
「じゃあ、紹介するね」
後から入ってきたエルザが緊張感の無い声で言う。
「審査員のバルザックさん」
略してバルサンだな。
「俺は秋人だ。あんまりいじめないでくれよ?」
「さぁ、どうだろうな」
バルサンは木剣が立て掛けて有るところまで行くと右手で木剣をつかんだ。
右利きかねぇ。右手のほうが若干筋肉の付が良い気がするし多分そうだろう。
こっちに向かって歩いてくる。あと十歩ほどのところまで近づく。
「じゃあ、いつでもいいぞ」
バルサンは右手に木剣を持ったまま何も構えも取らずに言った。
俺はさっきと同じ構えを取る、右半身を前にして右手で柄の鍔側を持ち、左手はその下の方を添えるようにして持つ。摺り足で前へと進むと左足を出すと同時に木剣を振り上げ、右足を出すと同時に木剣を振り下ろす!
ガッという音を立てて木剣と木剣がかちあう!スキルの力で踏み込む!行ける!と思ったのは一瞬、力負けしてバルサンの木剣が振り切られる!受け流してバックステップ。
バルサンは訝しげにこっちを見てくる。
「レベル1って聞いたんだがなぁ?」
そう言ってバルサンは構えをとく。
「てめぇ、さてはスキル刻んでんな?」
「だったらなんだよ?」
「金の力で冒険者?てめぇみてぇ奴が一番ムカつくんだよ!」
今度はバルサンから襲ってきた!振り下ろされる木剣を受け流し、返す刀で今度は俺が木剣を振り下ろす。が、バルサンはあっさりかわすと刺突をくり出してくる。かろうじてはじくと、次の一刀に反応出来ない!
無様に転がることで何とかかわす。それでも木剣の先ををバルサンに向けて立ち上がる。
「みっともねぇ。高い金払ってスキル刻んでこの程度」
バルサンには余裕がある。
そもそもこいつ上手い。重心が全然ぶれねぇし、対人になれてやがる。
舐めてかかるんじゃあ無かったか。
今度は構えて相手が踏み込んで来るのを待つ。
次も刺突だと、山勘で待機。
一歩一歩バルサンは近づいて俺が少し重心を下げると、ご名答!胴を狙った刺突が来る!
サイドステップしてギリ回避すると木剣を振り下ろす!
が!間に合わない!
「惜しいな」
バルサンが言う。簡単に避けられてしまった。
山勘当ててこれかよ!
「やるねぇ」
「格下が偉そうな口きくんじゃねぇよ」
これだけ強くて新人いびりとか意味わかんねー。魔獣はどんだけ強いんだ?
バルサンが踏み込んで来る、最初と同じ形でかち合う!ガッっと音を立てて俺の木剣が払われ、バルサンの木剣な俺の太股を狙う。木剣で防ごうとするが間に合わない!完全に後手!左太股に木剣が当たる!
「きゃ」
エルザが小さく声をだした。
バルサンは、俺の右太股へ振り下ろそうとする木剣を止めエルザを一瞥すると一歩下がった。
足から狙うとはいびる気まんまんだな!
打たれた左足はスキルの剛体のおかげかあまり痛くない、が。
しかし、こいつ立ち回りがキレイすぎる。一つ一つがあまりにお手本。それにエルザの声で動きを止めた事といい、、、。
唇と前歯の間に唾を溜める。
最初と同じ様に構え、 最初と同じ様に左足を出すと同時に木剣を振り上げる。右足を出すと同時に木剣を振り下ろし!
ガッ!という音と共に俺の木剣が弾かれる!
「ブッ」
口から思いっきり息を吐き唾がバルサンに飛ぶ。
「ってめぇ!」
バルサンはバックステップして言う。
決まりだ、こいつお座敷だ。秋人式奥義で決める。
バルサンは顎を袖で拭う。
「てめぇ。全身真っ青にしてやるよ」
バルサンはさっきの俺の様に襲いかかってくる!木剣と木剣が当たりここで俺はあっさり剣を手放す。バルサンの木剣は振り下ろされ、俺の木剣は下へポトリと落ちる。
バルサンは一瞬動きを止め俺の木剣を足で蹴って遠くへやろうとするが!悪手!
左手のフックがバルサンの顎に当たる!
『ゴッ』
と音を立ててバルサンは崩れ落ちる。
「はっ、ざまあ」
思わず笑みがこぼれる。
バルサンは気を失っているるらしい。尻を突き出して前のめりに倒れてる。
「秋人?大丈夫?」エルザが言った。
「あぁ、大丈夫だよ」そりゃ、俺は倒れて無いしね。
「何があったの?」
俺が勝ったのが不思議らしい。
「んー」説明するのがめんどくさい。「なんとかね」
「ちょっと!説明してよ!」
「ダメ?」木剣が立て掛けてあった場所へ歩く。「これで審査は通った事になるのかな?」
「ならないよ?」
「うそ!」
焦ってエルザの方を振り向く。
「なんで!?」
「だってそりゃ、審査員がオッケー出さないと」
エルザが胸を張って言う。審査員は尻を天に向かってつきだしてる。
そりゃそうか。
「やっちまった」
壁に木剣を立て掛けると崩れ落ちる。
「何とかしてやるから説明しろ」
命令してきた。
こっちの人はホントに高圧的だよね。
「なんて事無いよ。いきなり3択迫われて動きが止まって、ダメな行動しただけ」膝の埃を払って立あがる。
エルザの顔が?になってる。
「どういうこと?」
めんどくせぇな!
「俺が木剣落としただろ?」
エルザは頷く。
「あれはわざとなんだけど(恥ずかしながらこれが奥義)。その時バルさんは3択を迫われたわけ。そのまま木剣で俺を攻撃するか、罠の可能性を考えてバックステップするか、俺が木剣を取りに行くと予想して落ちてる木剣を蹴って遠くへやるか」
エルザはフムフムと頷いている。
「で、その瞬間に止まっちまった。3択迫われて一瞬悩んじまったんだよ。ノータイムで俺を攻撃しても、バックステップで様子を見てもバルザックの勝ちだった」
バルサンはまだのびてる。
「でもその時バルザックは一瞬動きを止めた、ましてや木剣も蹴りにいっちまった」今度はエルザの近くへ歩く「焦ったんだな。強い人ほど剣は決して手放さないもんなんだよ。それこそ、死んでも離さない。それを俺程度の奴ではあるんだけどさ、あっさり手放した。あれっ?っ思う」
エルザの近くへ来ると正面に立つ。
「そして動きが止まった所へ」
ゆっくり左手をアッパーぎみのフックをエルザの顎へコツンと当てる。
「視覚の外から拳を当てる」
おれば両手を上げて、おしまいのボディーランゲージをする。
「結局実戦ってか、イレギュラーに弱いんだよ、不測の事態に対応出来ない、だから技術はあんのに新人をチクチクいびってる」
「ふぅん」
説明させといて興味無いな。なんなの!コイツ!
「バルザックさんがキレてたけど、何したの?」
「あぁ、唾をかけたんだよ」
「サイテー」
エルザが白い目で言う。
「そう言うなよ、結構難しいんだよ。普通は剣を振り下ろした後は息を吸いたいんだけど、それを我慢して吐く」
エルザは既に興味がなさそうだ。
「ずっと息を止めたまま戦えるのが理想なんだけどね、どっかで呼吸をしなきゃいけない」
実は、あれは心肺機能上昇のスキルがあって成功した。無ければただのヨダレになってたかもしれない。
「それに、かかった唾を拭いていたのもあり得なかったな」
「へー」
エルザはどうでもいいといった顔だ。
「じゃあさっきの部屋に行ってて、ギルドカードの更新してくる」
そう言って手を出す。俺はギルドカードを手渡すとさっきの部屋へ移動することにした。後ろをちらっと見るとエルザはバルサンを介抱していた、二人は良い感じの関係だっのかな?もしかして悪いことをしたかもしれない。
歩きながらじいちゃんとの稽古を思い出す、実はじいちゃんにも唾をかけたことが有る。じいちゃんは顔めがけて飛ばされた唾を目を閉じる事も無くそのまま受けてそのまま俺を木刀で襲った。
「孫の唾とか、全然ご褒美じゃん?」
そう言って俺を負かすとじいちゃんはチューをしてきた。俺のファーストキスがこれだった。思い出したら凹んできた。
さっきの部屋へ戻ると椅子に座った。
もう一度オーブに手を置くとまたさっきと同じような文字が流れる。もちろん意味は分からない。
分からない事ばかりだ、なぜ異世界にいるのか、なぜ言葉が通じるのか。そして、言葉が分かるなら文字も読めても良いのに、地味に不便。勉強するしか無さそうだ。
バルサンも気になることを言ってた。高い金払って法印をって、もしかして彫師は儲かるのか?ならば、冒険者じゃ無くて最初から彫師を目指したほうがよかっただろうか?
「お待たせ」エルザがドアから入ってきた。「じゃあこれ」
そう言ってギルドカードを渡してくる。
「ありがと」
「これで討伐の依頼も受けられるよ、早速承けてみる?」そう言いながら椅子に座った。
「いや、また明日で」
今日は宿を手伝わなくっちゃいけない。
「それよりいくつか聞いてもいい?」
「どうぞ」
「まず、俺の持ち物で買い取りをお願いしたいんだけど」
「うん、ギルドでしてるよ町の質屋でももちろん、物は?」
リュックをごそごそする。質屋があるなら質屋でも良いんだけと、金塊には地球の文字が彫ってあるしあんまりあっちこっちで色々見せて 回りたくない。
「これなんだけど、、、」
こっちの硬貨に金貨があるから大丈夫だと思うけど。でもまずは鑑定かな。なんちゃってかもしれない金塊を出す。
「金?大丈夫だよ?」
「でも、さっきも言ったけど記憶が無くて、まずは鑑定が、、、」
「うん、大丈夫だよ。本物、盗品でも無いみたいだね」
「、、、何でわかんの?」
「それ用のスキルがあるの、鑑定証明は出せないけど鑑定だけならね」
金塊に彫られた文字を見ている。
「じゃあ買い取るよ、同量の金貨と交換になるけど、重さの10%が手数料になるけどいいね?」
「結構取るね?」
「変わった金だね。何だか変な文字が掘ってあるし、、」
「あっいいです、お願いします」
エルザが喋るのを遮って言う。こやつ出来る女だな!
「じゃあ、お金は一度預かるね」
エルザは金をポケットにしまう。
「あとは?」
「何だか色々分かんないことだらけなんだけど、やっぱ俺のスキルなんだけどさ、何だと思う?」
「んー、可能性が高いのは固有スキルかなって、生得的に得ているスキルの事なんだけど」
「生まれた時からねぇ」
どっちかっていうと、こっちの世界に来てからって気がするけど。
「あと、ワタシからも質問なんだけど、龍眼ってスキルに心当たりはある?」
「あぁ」
そういえばそんなスキルがある。
「心当たりあるの?」
「いや」
この世界の何が当たり前か分からないんだけど。
「皆の頭の上に数字が見える」
「私にも見える?」
「見えるよ、3って書いてある」
「バルザックさんは?」
「5って書いてあった」
「レベルかな?」
エルザはオーブを指差す。
「さっき1/99って言ったでしょ。それをレベルとか、楷位とか言ってて強さの指標にしてるの」
「ふーん、で限界が99なわけか」
「そだよ。あと、一応忠告するけど、スキルのことは内緒にしたほうがいいよ。こんなにスキルが有るって事がバレたら妬まれるし、面倒事に巻き込まれたり」
それは確かにごめんだ。
「一番は龍眼だね」
エルザか俺の目を覗き込む。美人さんに見れると焦照れちゃうね。
「やっぱり皆どんなスキルを持ってるとか、レベルがいくつなのかは内緒にしてるの、そういう個人情報を勝手に見るのはね」
確かに、プライバシーは守らねば。
「あとは大丈夫?」
「あと服、お金も何とかゲット出来たしこの格好を何とかしたい」
「確かに」そう言ってエルザは立ち上がった。「お金持って行くから外で待っててよ」
「受付は大丈夫なの?」
「大丈夫、昼間は仕事あんまり無いの」
そう言って出ていった。
リュックを持つと部屋を出る。確かに人気がない。討伐は朝出て夕方戻ってくるそんなスタイルが多いのかもしれない。
外に出ると、太陽がちょうど真上にあった。昼時か、エルザに色々聞きながらご飯を食べるのも良いかもしれない。日差しに暑さを感じながらエルザを待った。