リド
リド
気に入らねぇ。
あの秋人とかいう彫師。 俺の事を『模造刀野郎』と呼びやがって。
フェタさんもだ!何でやり返してくれない!
挙げ句に大人しくしてろと俺に命令してきた。
それで、今俺は冒険者ギルドにきていた。新人の冒険者を憂さ晴らしにボコるためだ。
受付嬢はキレイな女だった。
「誰か俺と手合わせしてくれる奴は居ないか?」
「訓練場に行って適当に声を掛けてみたらどうですか?」
冷てぇな。
「はいよ」
俺はそう言ってギルドカードを見せて奥へ行こうとする。チラッと見た受付嬢の左手薬指には入れ墨が、既婚かよ。
「ちょっと、、」
受付嬢にひき止められ後ろを向いた。
「新人キラーって呼ばれてるつまらない冒険者が居るんですが」
「へぇ、そいつのレベルは?」
「10です」
俺の2こ下か。
「いいぜ。俺が教育してやるよ」
「では、訓練場で待っててください」
受付嬢が立ち上がった、その大きな胸に視線が行く。
「あんた、名前は?」
「エルザです」
良い女だな。
キレイな顔と細い体。でも、胸は大きくってよ。
この女をものにした男が羨ましい。
けど、その男を殺せば薬指の入れ墨も消える。つまらない男だったらそいつを殺して奪うってのもいい。
訓練場に着いたら木剣を手に取った。
出来るだけ手に馴染むものを選ぶ。
訓練場にはちらほら冒険者達がいる。腕の立ちそうな奴はあんまりいなさそうだな。
この村の近くは弱い魔物が多いから当然集まる冒険者も新人が多くなる。
「いたいた」
女の声がして入り口を振り替えると。
さっきの女と一人の冒険者が立っていた。その冒険者は整った顔立ちの男だった。
気に入らねぇ。
そいつは女と少し話すと俺の方へ歩いてきた。
「お前の名前は?」
木剣を片手に聞く。
「バルザックだ。お前は?」
すました雰囲気も気に入らねぇ。
「リド」
バルザックと名乗った男は木剣を吟味している。
多分トロールの皮を使っただろう装備は所々黒く、何かしらの素材で強化していることが分かる。
「じゃあ、やろうか。俺を教育してくれるんだろ?」
その言葉に俺は一気に仕掛けた。
『ガッ』
木剣と木剣がかち合う。
お、重てぇ!なんとか弾いて後ろに下がった。
バルザックは涼しい顔をしている。俺より下のレベルは下だというのにこの力。
こいつ法印を使ってないよな?
訓練場での戦闘は身体強化以外の魔法は使用禁止が暗黙の了解だ。火や、水の魔法は使えば分かるが重力魔法は見た目での判断は難しかった。
重力魔法を彫るなら右手だが、その男の右手には手袋がされ入れ墨が彫られているかどうかは分からない。
「俺の事を右手をじろじろ見てどうした?」
「うるせぇ」
木剣を握り直す。
「重力魔法を使っていると思うか?思うならお前は使えばいい」
右手に彫られた重力魔法の法印に魔力を通した。
一気に攻め込む!
が!当たらねぇ!柳を相手にしているようだった。俺の木剣は回避されるかいなされてしまい、相手の体にかする事すら出来ない。
「くッ!」
呼吸を整えるため下がろうとするが、
『ガッ』
俺の木剣が弾かれて転がった。
「教育はまだか?」
俺を見下ろす男の呼吸は全然乱れていなかった。
入り口に立つエルザって女を見ると、、口に手を当てて笑ってやがる!!
コノヤロー!!嵌めやがったな!
このバルザックって野郎は腕利きの剣士だったわけだ!
「てめぇ!レベルはいくつだ!」
「10だぞ」
「嘘つくんじゃねえ!」
フェタさんと同じレベルでも驚かねぇぞ!
バルザックが懐からギルドカードを取り出すと、俺に見せる。
ほんとだ。レベル10って書いてある。
ギルドカードでのレベルの詐称は不可能だし。意味がない。
「あっれー?」
「もう降参か?」
「ああ。参った俺の負けだ」
大人しく負けを認めた。
俺よりレベルは低いがはるかに俺をしのぐ強さを持っていた。これは尊敬に値する。
良ければこの村にいる間に剣術を教えてもらっても良いかもしれない。
「あっ、ダメじゃん!」
後ろから大きな声がして振り替えると一人の男がいた。
その男にさっきのエルザって女がくっついてる。この男がエルザの旦那か?
それにしても、この男、どっかで見た事があるような、、、。
「バルザック、そいつイジメちゃあダメだぜ?そいつ剣士じゃあ無いんだからよ?何てったって、腰の剣は模造刀だからな」
コイツゥ!!!あの彫師だ!
俺の腕をへし折った秋人って彫師だ!!




