順番はお待ち下さい。
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村には問題無く付くことが出来た。
途中遭遇した魔物達は俺とバルザックに皆殺しにされ次々と土へと還されていった。
魔物を狩る度に上がるセロンの声援に俺はやる気を発揮して、新しい剣と魔法とを駆使して次々と魔物を倒す。
見た目だけは刀の新しい剣だが、使い心地はかなり良かった。
峰の部分を手で触れるのが良い。
あと、日本刀特有の切れ味は無いが、雑魚の魔物はほぼ裸なのでこれで良いのかもしれない。
刃に軟鉄を使っていない分雑な使い方をしていたが、なかなか丈夫だった。
重力魔法で刀を重くしたり軽くしたりもしてみた。
これがまた良い。
強く柄を握るときに剣を重くし、軽くしたいときは柄を弱く握る。そんなイメージで刀を持っているとスムーズに、重くする、軽くするの移行が出来た。
魔物の持っている棍棒を叩き落とし、そのまま切りつける。
重力魔法の法印は右手にしか彫っていないから、右手が離れると解除されて本来の重さに戻っちゃうけどね。
でも調子が良かった。
魔物の群れが来れば、遠くから水魔法の第三階位『ウォーターカッター』で切り刻み。
生き残りは、地面を蹴って近付いて刀を振るう。
俺の動きに付いて来れない魔物は俺が目の前に突然現れたように感じるのだろうか、驚いた顔をする。
刀を振るだけ魔物の首が飛んだ。
バルザックもかなり調子が良く。
次々と魔物を斬りつけていた。蜘蛛の魔物、グレンアレニェを使った新装備は出番が無かった。
村に着くとバルザックに雑務を全て押し付け孤児院を目指した。
嫁に会う順番は孤児院、ドニーの宿、冒険者ギルドの予定でございます。
順番に回って冒険者ギルドについた頃にはバルザックが手続きを終わらせているはず。
孤児院に近付くと物々しい格好の奴等が入り口にいた。
何だ?あいつら。中には全身鎧の奴もいる。
近付くとカナリアが居るのがわかった。
「おーい。どうした?」
和やかに声を出す。俺のお客さんか?
セロンを置いて軽く走る。
カナリアが顔を俺の方へ向ける。
「あっ!丁度良かったです」
カナリアは困った顔をしていた。
「お前が秋人か?」
4人組の中の一番背が高い全身鎧を着た奴が言った。
「そうだよ」
俺は穏便に答える。ムカツク客だが、客はぞんざいに扱えない。
「今すぐ彫って欲しい」
「んーと」カナリアを見る。「カナリア?予約状況は?」
「明後日なら少しは」
カナリアは俺の彫りの予約を管理していてくれた。
「今すぐと言ったはずたが」
全身鎧の奴が言う。
カナリアの背中を孤児院の方へと押した。
「明後日なら少し時間を作ってやる。その時にカウンセリング。翌日以降に彫りだ。悪いな、うちは予約の割り込みは厳禁なんだよ」
四人は黙った。
一番背が高い全身鎧の奴はレベル14、その次に背が高い部分鎧の奴がレベル12、ちょっと小柄な部分鎧の奴が15、一番背の低い女の子はレベル3だ。
どいつもレベルでは俺より上の様だかHP、MP共にバルザックにすら及ばない。
「いくら積めば良い?」
女の子が言った。その子は15才ぐらいだろうか、体はほぼストン。まだまだお子様体型である。
「お金の問題じゃあないの、モラルの問題。順番を待ちなさい」
優しく言った。
女の子のカワイイ顔が歪む。
「貴様!」レベル12の奴が一歩前に出た。「彫師風情が!黙って彫れ!」
そう言って剣に手をかけようとする。
俺はその瞬間に壁に立て掛けてあるアッシュの木剣に手を出す。
『ぎゃ!』
12の奴の腕に叩き込んだ木剣は、剣に添えられた腕をへし折った。
「何をする!」
女の子が怒った。こいつの方が先に剣に手をかけたのは分からなかったんだろう。
「先に剣に手をかけておいて俺が悪いとは言わねえよなぁ?」
12に聞く。
「貴様、ただですむと思うなよ!」
「オッケイ!」
木剣を手から離して、、
「待ってくれ!」
15の奴が大きな声を出した。
刀にかけようとしていた手を止める。
「明後日だな?」
15が言った。
後ろを振り替えるとカナリアが小さい声で『夕方なら』と言う。
「明後日の夕方だな、それならなんとかなるだろう」
と、俺はもったいぶった言い方をした。
「わかった。帰りましょう」
15がそう言うと12と女の子が悔しそうにしている。
「悪かったな」俺はそう言って12に近付く。「でも、子供の前でダメだろ?剣に手をかけちゃあ」左手の法印に魔力を込める。「それも俺の前でさ」逃げようとする12の手を左手で捕まえる。「しかし、俺も悪かったよ。お前の持ってる剣が模造刀だとは知らなかったんだよ」
12の腕が光る。
プラリとぶら下がっていた12の腕が元に戻った。
「嘘でしよ?『神癒』?」
女の子が声を出す。
「じゃあ、明後日な」
驚く四人に『シッシッ』と手を振る。
「あっ、そうだ。ここ孤児院なんだけどさ。そこに募金箱があるの」
俺はそう言って壁にくっ付けてある木の箱を指差した。
「金あんだろ?入れてけよ?」
15が近付いて金貨を一枚入れた。
「おいおい、そこの模造刀野郎の治療費にもならねぇよ」
俺がそう言うと、15は一瞬俺を悔しそうに俺を睨むともう3枚の金貨を入れた。
「毎度あり。じゃあ明後日夕方な」
そう言ってカナリアを抱え上げた。
「こりゃしばらく豪華だぜ?」
カナリアは嬉しそうに頷く。
セロンが走り寄って俺の背中に抱きついた。
「フェタさん!何で大人しく帰ってきたんですか?!」
『ゴッ』
リドの頬を殴る。
「痛って!」
リドは頬を右手で撫でている。
「レベックは見えたか?」
全身鎧の頭部分が左右に動いた。
「リドが先に剣に手をかけたまではわかります。そこからが全然」
レベックも俺と同じか。
「あの木剣は壁に立て掛けてあった。そこからだ。俺達から木剣が見えないように移動した。こうなることを予測していたんだろうが」
「じゃあ!アイツは最初っからやる気だったんじゃないですか!」
『ゴフッ』
くだらない事を言うリドの腹を蹴りあげた。
「木剣じゃなく腰の剣を抜いた方が楽だったろうな」
むしろこいつを殺してくれた方が良かった。
リドはこう見えても器用な奴で何かと重宝してきたが、暴走する事が多かった。
「でも」ヘンリエッタ様が首を傾げて言う。「あの彫師はリドが剣に手をかけようとするのをのを、見てから動いたのにリドより早かった。そういう事か?」
「そうです」
「それは、、、」
「彫師であの剣の腕。それだけでも私はあの男をスカウトしなければいけません。ましてや」
「『神癒』か」
「そうです。リドの一万倍以上の価値がある」
「ちょっと!待ってくださいよ!」
そう言って立ち上がるリドの腹をもう一度蹴り上げる。
『ゴフッ』
「あの男には俺の百倍の価値があります」
俺のその言葉にヘンリエッタ様は納得してくれたようだ。
「何はともあれレベルが10ということは無いと思うのでギルドには確認をもう一度してみようかと思いますが」
リドが『ただですむと思うな』と言った時のあの男の顔を思い出すと背筋が凍る。
勝てない、一瞬で悟ってしまった。三人、四人がかりで襲っても勝てなかっただろう。
あと時にあの男の顔に浮かんだ表情は『嘲り』だった。
これから死に逝く人間を嘲っていたのだ。




