犬神様
犬神様
大体の傷を治した後、建物を出ると。皆俺に向かって頭を下げた。
まるでセロンにするように。
俺から距離をとって深く頭を下げる。この村での最大の敬意なのだろう。
何か言った方が良いのかな?
「えっと、、」
「この度はすまなかった」セロンの声が後ろからする。「あのような場所へ押し込み」鉄の檻の事だろう。「食事も出さず」別にパンが有ったから良いけど。「粗雑な扱いをした」
まぁ、そんなもんだと思うよ?
「それにも関わらず。我らの窮地を救い!ましてや、戦士らの傷を癒してくれた」
うん、まぁ。頑張ったかな?そんな気もしなくもない。
「秋人の要望に出来るだけ答えたいと思う!」
セロンのその声に男達が、
『ハッ!!』
と大きな声を出した。
「秋人は女の奴隷を探し求めてここまできた!誰か!我こそはと思う女は居ないか!!!」
しーん。
誰も手を挙げない。
「ようし!」さっき俺に謝ってくれた獣人が背を伸ばした。「俺の娘を連れていけ!」
一人の女性を指差した。
セロン程では無いが良い体をしている。ナイスバディ!
「ふっざけんな!」指差された女性が怒る。「こんな奴絶対にやだ!」
むむむ。
「ようし!」長老らしき獣人が背を伸ばす。「ワシの孫を連れていけ!!!」一人の女性を指差した。
うん!しなやかな体してる。スポーティーボディ!ナイス!
「死にてぇか!ジジイ!」孫は立ち上がった。「こんなキモイ男はゴメンだよ!」
「ようし!」若い男が立ち上がった。「俺の嫁を一人連れて行くがよい!」
プニプニボディ!オッケー!カモン!
「てめぇ!ふざけんな!!」
俺はどうやら女性陣に嫌われている様だった。なぜ?
他の女性たちも顔を合わせて俺の方を見ては嫌そうな顔をしている。
何が悪かったのだろう。
「分かった」セロンが声を出す。
それを聞いた獣人達は再び頭を下げた。
「では私が秋人と行こう」セロンが言った。
『巫女様!』
「仕方あるまい!この恩義には報いなければなるまい!」
セロンの大きな声は良く通った。
「しかし、嫌がる者に無理に行けとは言えん。シュナ!」
一人の獣人が背を伸ばす。
昨日俺に『巫女様を穢さないで』といった女の子だ。
「お前が今日から巫女だ」
「ハイ!」シュナと呼ばれた子は良い返事をした。
「長老達よ、シュナを頼む」
それから宴だと言われた。
その声を聞いてなかなか出せなかった手土産を出す。
氷砂糖は女性達に。酒を男性陣に。
酒だと言うと、長老達が歓喜のあまり踊り始めた。
酒は氷砂糖と一所に持ってきた手土産だった。確かに氷砂糖より高価だったがこんなに喜ばれるとは思わなかった。
「秋人?」セロンに袖を引かれた。「私と一緒に犬神様の所へ来て欲しい」
「良いけど」
「犬神様がな、お前を連れてこいと言うのだ」
見てみたかったから丁度良い。
頭の中で某アニメスタジオの作ったアニメ映画に出てくる大きな犬をイメージしていた。会ったらめっちゃテンション上がりそう。
『黙れ小僧!お前にセロンが救えるか!』
とか言われるのだろうか?
そしたら俺は『共にエロい事は出来ます!』的な?
案内された建物は村の中でも一番大きな物だった。
ここだったら『万象』で何度か探ったんだけど、それらしいいきものは居なかったような。
建物は木造で出来ている。古い神社の様な作りだ。
門を潜る。
階段を上がって境内の様な所に足を踏み入れると。
景色が一変した。
森の中か?
木が生い茂り、小さな川が流れ、蝶も飛んでいる。
「ここは?」
「ここは犬神様が作った」
「作るって?」
「良く分からんのだがな。犬神様が産まれた場所を模しているらしい」
「へぇ、良い所で産まれたんだな」
『ゲンの奴と同じ事を言うのだな』
低い声がした。
声のした方を見ると狼ほどの体躯の白い犬がいた。
『お前からゲンの臭いがするが』
犬が言葉を喋ってる。が、それより!
「じいちゃんを知ってんのか?」
犬神様はお座りの体勢をとった。
が、、、。
何も喋らない。
「おい、おい」
「犬神様はな、めったにお喋りにはならない」
『ゲンはどうした?』
「逝ったよ」
犬神様のピンと張っていた尻尾が下がる。
小さな虫が『チッチッ』と鳴く。
川に水が流れる音がする。
『米で作った酒があると言った。ゲンは俺にくれると言った』
「日本酒か、探してみるよ」
『私の血を持っていけ。お前も彫るのだろう?』
それから、空間魔法でじいちゃんの形見の仕込み刀を出すと、犬神様の体を少し切って血を分けて貰った。
左手の法印に魔力を込めて犬神様の傷を癒す。
綺麗に治ると犬神様は森の中に消えていった。




