オークの襲撃
オークの襲撃(秋人視点)
朝日がやっと昇ってくる。村が山間にあるためどうしても日が射すのが遅くなる。
「ふぁー」
大きなあくびが出る。どんな所でも寝れる自分の才能が怖い。
やることも無いのでとりあえずパンを空間魔法で出してかじりついた。
パンの匂いを嗅いだのか見張りの犬耳の男がすっと立ち上がった。
耳がピクピクしてる。
耳が良いんだろうな。昨日、橋の所で二人が五人に増えていたのはきっとこの耳の良さを利用したんだろう。
耳がピクピクしなくなると、その犬耳持ちは檻の前をうろうろしだす。
ふーん、何か有ったのかね?
指先に魔力を込め空中に神字を書く、水魔法の第三階位『ウォーターカッター』を発動させる。
『ギャン!』
と、鉄の檻が大きな音を立てて壊れると檻の外へ出た。
見張りの男が俺を口をパクパクさせながら俺を見る。
「驚くなよ?だって、セロンが『一晩ここから絶対に出るな!』って言ったけど、もう朝だぜ?」
「しかし!」
「それに、『一晩ここから絶対に出るな』って言葉は、俺が檻から出ようとしたら幾らでも出れる事を示唆してるとは思わない?出ようとしても出れないならこんな言葉は要らないだろ?」
まだ何か言っているが無視して右手の法印に魔力を込めて、『万象』を発動させる。
ん?なんかこの村ヤバくね?
魔物に囲まれているような。
今度は一度右手の法印にさっきより多めに魔力を込める。
するとこの村に向かってオークの群れが向かっているのが分かる。
獣人が集まっている場所があるのでそこに移動する事にした。
「おい、行くぞ?」
俺がそう言うと、見張りをしていた男はおずおずと俺に付いてくる。
広場に来ると獣人達が円になって話し合っている。
その中にセロンを見つけた。
「よっ」
俺が手を上げて声をかけるとみんなの俺の方を向く。
「秋人か」セロンは昨日と同じ格好だ。「ちょっと困った事になった」
「オークだろ?俺が山から降りてくる奴等をやるよ」
セロンの顔が驚愕に包まれる。
「それとももう少しやった方が良いか?」
「いや十分だ」セロンが言う。「秋人が北!私と犬神様で東に出る!スレン!お前達で西と南を討て!」
へぇ、セロンは自分の事を巫女だと言っていたけど、
犬神様か。
余裕があったら見に行こうかな。
「巫女様!」
年寄り達がセロンに詰め寄った。俺が北へ行くのが不満なのだろう。確かに村の面子は潰れるね。
でもさ。
「お前ら暇ならこれから北に行ってこいよ」
そう言うと年寄りは黙った。
さてと、下を向いた年寄りを尻目に移動する。
北から、山の中からオークに混ざって強い個体がいるのが『万象』のおかげで分かっていた。
この村の獣人達がどれだけ戦えるかは分からない。
しかし。
『このままでは危ない』
そんな直感がある。
レベルがそのまま強さではない。俺よりレベルの高い獣人は居るが、現にこの村の中では俺が一番強いだろう。HPが俺を上回る獣人はいないようだ。
犬神様がどれだけ強いか分からないが。
それに試したい事がある。
俺のスキル、
『ドラゴンブレス』だ。
今まで意味も深く考えずにいたが、色々おかしい。
俺のこの強さはいったい何なんだ?
レベルが俺より上の人間はいくらでもいる。だけど俺より強い人間は中々居ない。
そして、スキル。
やっぱり異常だ。入れ墨を彫れば彫るほど感じる。というか目の当たりになる。普通入れ墨を彫った数がスキルの数だ。なのにこの量のスキル。
そして龍の入れ墨と、スキルの、
『ドラゴンブレス』
これらが無関係とは思えなかった。
さて、俺の感知のスキルで分かる程近くにオークの存在を感じた。
背中の龍の入れ墨に魔力を込めてイメージをする。無臭で無色透明の睡眠性のガス。
『龍の後睡』
それを口から吐き出す。多分何か出たような気がする。
そして、左手の風の法印に魔力を込めて風を起した。
自分で睡眠性のガスを付くって、吸って、寝てたら洒落にもならない。
ポケットに手を入れてオークがいる方向へ歩くとバタバタと倒れるオークが居た。
「じいちゃんいったい俺に何をしたんだよ」
思わずそんな言葉が口からこぼれた。
ため息を付きながら前に向かって歩く。その先には、ふらふらしながらも何とか立っているオークが何体かいた。
こいつらが俺が感知した強い個体なんだろう。
オークキングみたいな感じかな?
左胸には光魔法の第三階位が書かれている紙が入っている。
その左胸に入った紙に魔力を込めた。
すると、辺りが一瞬暗くなって、『閃光』
閃光は立っているオーク達の頭に落ちた。
これで敵は全部倒れたんだけど。大丈夫かな?まだ朝方で光の力も少まだないし。なので、念のため一応近付いて確認する問題は無さそうだった。
それからイビキをかいて寝るオークにと止めを刺す。
俺ってもしかして、チートじゃね?村が危機を覚える量の魔物を舜殺してさ。
「どお思う?」
遠くから見てるセロンに言った。
「よく分かったな?」セロンが林の中から出て来た。
「一応ね」
相性が悪いみたいだがそれ用のスキルがある。
「凄いな、犬神様なら問題無いが人がこれ程とはな」
「こんな所で油売ってて良いのか?」
それからセロンは背中を見せて西へと向かう。
セロンは相変わらす白い布を体に巻くだけの服装で、体のラインがよく分かる。
姿が見えなくなるまで舐めまわすようにセロンの体を見た。
スッゲーいい尻をしてるんだよね。
(セロン視点)
この村は犬神様を祀るためにある。
犬神様は幻獣と呼ばれ、この世界を支える大事なピースとされていて。私達はその犬神様をお守りする役目がある。
その役目とは犬神様を戦いから遠ざける事にある。
そして、犬神様は戦いがお好きだ。
基本が犬なのだろう。狩りが好きで動物の匂いを嗅ぐとウズウズしてしまい、ついつい野生に戻ってしまうそうだ。
そこで私達だ。犬神様が戦わなくて良いように、野生に戻らないように、魔物の類は私達で討伐し。犬神様を戦いから遠ざける。
私は犬神様が魔物の臭いを嗅ぐ事でウズウズしないように、肉を食べないようにして。お世話にあたる。
だから村人は私に臭いが付かないようにするために。
私が通れば道を譲って、頭を下げる。
口から吐かれる息が私に付く事で、当然私に獣の臭いが付く。それを避けるためだ。
だから私はこの格好を恥ずかしいと感じた事が無い。
皆私の姿見えると三歩下がり頭を下げる。
会議の者を時も長老達は常に下を向き私の体を見ない。
そして、誰にも見られない私はまるで体が透明になったような錯覚を覚える。
現に私は要らないのだ。
私の中の私という存在は要らないのだ。
大切なのは犬神様とこの村の行く末を決める長老達。
私は犬神様の面倒を見るからにだけの存在。
まるで水の様。
透明で。
臭いが無く。
手からすり落ちて。
私は透明なのだから。
私を見る事は出来ないのだから、どんな格好をしていても恥ずかしくなんか無い。
なのに、秋人は。
私の体を見てきた。
私の見る事の出来ないはずの体を見て。
昨日の夜には『キレイ』だって言ってくれた。
急に恥ずかしくなってきた。
今も私を後ろから見ている。
視線が何処にいっているのか、はっきりと分かる。
恥ずかしい。
だって、私は自分のお尻を見たことが無い。
秋人は私のお尻を気に入ってくれたのだろうか?
恥ずかしい。
だけどその感覚が私がここに居る実感を。
私が透明ではない実感を。
私にくれた。




