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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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異世界で彫師になる

異世界で彫師になる



ゴブリンの降り下ろす棍棒をギリギリで回避して。

今度は俺がゴブリンの首めがけて踏み込むと同時に剣を振り下ろす。

するとゴブリンはあっさりと動かなくなった。

別のゴブリンも襲い掛かってくるが片手で突きを放つとゴブリンは棍棒を振り上げたまま後ろへ倒れていく。

そしてまた次のゴブリンを相手にする。


新原秋人19歳。

異世界生活1年目。


現在森の中にてゴブリン相手に無双中。

ゴブリンは皆様のイメージ(?)通り、一体一体は大したことがないのだけど。

群れて行動するのが厄介というか面倒というか、億劫というか。

こちらゴブリン様御一行も10匹以上の大所帯だった。

皆様、防具は特に無し。

武器は大体棍棒たまにナイフ。

遠距離攻撃は石ころといった具合で戦闘にはあんまり怖さは無い。

切りつけた時に吹き出す血のほうが全然怖い。

ゴブリンの攻撃よりも必死で避ける。

おいおいっ、

って思うかもしれないけど、

だってやじゃん。

感染症とかさ、現代っ子としては心配しちゃうわけよ。

血まみれになって戦う俺カッコイー!

とかも無い。

半数以上減らした所でそろそろヤバイと気付いたのか飛び込んで来なくなる。こっちから踏み込んで一刀、もう一匹減らすと残りのゴブリンは後退しはじめる。

ここで法印を試すことにする。

法印とは簡易魔法みたいなもので。

通常は指先に魔力を込め、起こしたい魔法を空中に神字といわれる文字で書く、そうするとお好みの魔法が発動する。法印とは、その文字を神字を体に彫る事。入れ墨で神字を体に彫って、その代わりにする。これで人は魔力を法印に込めるだけで魔法を発動させる事に可能にしたんだ。

左手の法印に魔力を込めて魔法を発動。


「しょぼー」


思わず口からこぼれる。

手から出た火は火炎放射器とはとても言えず、精々松明程度、ダメじゃんね。

魔力の調節が難しい。失敗だったけど、山火事を起こすよりまし。町に居られなくなるからね。

ゴブリン御一行はその松明程度の火、それを見て一瞬戸惑ってたけど散り散りにげ出した。

まぁ一応牽制にはなったのかねぇ。

後を追う気にもならないので放置。

ちなみに討伐証明としてゴブリンの左耳をギルドへ持っていくと、耳一につき小銅貨2枚と交換してくれるので左耳を集める。逃げたゴブリンを追わないのも納得いただけるだろう。

ジュースを二杯飲んだらおしまいという強気の価格設定。

まぁ、ゴブリンは個体数が多いみたいだからさ、

あんまり良い値段には出来ないよね。

ちなみにゴブリンを1日20匹ほど討伐すれば大体1日の生活費が稼げる。三食食べられて、藁の上で寝られる、そんな程度の。

耳を一通り集めたあとは後片付け。

死体をこのまましておくとこの死体は魔物に食べられることになる。食料があるということは当然繁殖に有利なわけで、ギルドでは出来るだけ火葬や土葬を推奨していた。

ようは、出来るだけ土に還して欲しいみたい。

改めまして再度法印の練習。

今度は土魔法を試すことに。

法印に魔力を込めゴブリンの死体に触れて魔法を発動。すると腐臭を伴いながらボロボロと体が崩れ最後は骨だけに。

次の一体は魔力を強く込め魔法を発動。

今度は骨ものこらない。

卵を割らないように持つのにはもちろん力加減が大事。強く持てば割れちゃうし、弱く持てば落としちゃう。

魔力も同じようなもので何度も使って覚えるしか無さそう。入れ墨を彫るのも一緒、ただひたすら反復。前進する上でこれ程大切な物は無いよね。

戦いながら、刀を振り回しながら魔法を放つのはもっともっとたくさんの反復が必要。

異世界へ来て一ヶ月ほどたっただろうか。上手くいかないこともあるけど、何とかやっていける実感だけはあった。





異世界さんこんにちは




とぼとぼと歩いていた。

頭がぼーっとしていて思考がまとまらない。

綺麗な町並みだ、赤茶けたレンガでできた建物と道。家先の鉢には色とりどりの花。歩いている道は徐々に坂になりながら左へと緩やかなカーブ。さらに上を見ればアルプスだろうか、雪の積った山が見える。

昔テレビでフランスの地方のこんな景色を紹介していたのを思い出す。日本に居たら味わえない、日本とは違うのどかな田舎の風景。

綺麗だな、自然と沸き上がる感情。ほんわかとしたそんな気持ちになる。

しかし、いつの間にフランスに?

まぁ、いい。そんなことは、この景色を楽しみたい。

すれ違う村人に会釈をすると、向こうも会釈をしてくれた。

フランス語は全然分からないのだが何となく言っていることが分かる。どうやら自分の格好がみすぼらしく田舎者に見えるらしい。

まあ、確かに着流しに木刀といった風体じゃあ、そう言われても仕方がない。ここも田舎だけど。ただし此処はかなりいい感じのね。

頭がぼーっとしているのと相まって、スレ違う人にバカにされても気にならない。

良いじゃないか、ぼーっとしながら歩くのは良いものだ。

人が徐々に多くなる、見慣れない格好をしがいるのに気づく。

鎧のような物を着ている人。真っ白なローブに体を包んでいる人。あとはドイツだっただろうか、ビール祭りを彷彿とさせる民族衣装に体にまとっている人もいる。茶色のスカートと、白の襟の広いブラウスに、茶色の腰に巻かれたコルセットは胸を強調し肩から吊るされている。コスプレ大会だろうか、いいじゃん。俺は大好きだよ。

ドンと、突然前から小さな子供が走ってきてぶつかると、懐の中に手を突っ込んできた。


「ダメだよ」そう言って、入ってきた手を掴む。

「うるさい!」


子供は俺を蹴ると腕を振りほどいて逃去った。

やれやれ、あんな小さい子供が窃盗とはねぇ、海外は犯罪が多いとは聞いていたけども何だかショック。親はちゃんといるのだろうか?

しかし驚いた。

自然と口からフランス語が出た。フランス語が聞き取るのも、しゃべるのも何の問題も無い。試すまでも無い。言いたい事をどのように言えばよいか分かる。

じいちゃんがよく勉強しろ、勉強しろと言っていたが全くその通りだ。まさかフランスにくることになるとは思いもしなかった。

しかしいつの間に俺はフランス語の勉強をしたのだろう。

ふと、肉の焼ける良い匂いがして匂いのする方を見ると、露天で肉を串焼きにしていた。旨そうだ。どうやら腹がへっているらしい。


「オスカルの串焼きだよ!二本で小銅貨1枚!」


ハチマキした威勢のいいおっちゃんがどなる。歌って踊りそうな串焼きだな。


「小銅貨持ってないけど一本ダメ?」

「チッ!」


冷やかしと判断したおっちゃんはこれまた威勢のいい舌打ちをした。

大体小銅貨ってなんだ懐をまさぐって財布をだす。チャックを開くと、出てきたのはもちろん円。十円玉おっちゃんに見せる。


「、、、、何処の通貨だ?」

「日本」

「、、、一本ならいい」


そう言って十円玉をもぎ取ると、串を一本取って寄越した。

おっちゃんいいやつだな。十円じゃあ今時何も買えないぜ。フランスの通貨に換金すには手数料だってかかるだろうし、換金しても十円じゃあね。きっと可愛い娘に見せてあげるのだろう。またここの串を買ってやることにした。

串はシンプルな鳥の塩焼きだった。

ここで文字が読めないのに気づく。

積まれた串の前に紙が張ってあって何か書いてあるんだけど。はっきり言って、なんじゃこりゃだ。AもBもCも1も2も3もない。どちらかというと中東の文字に近いけど違う。と思う。

串をもゃもしゃしているとだんだ頭がはっきりしてきた。

何で俺はこんな格好をしてるんだ?なぜお決まりのジーパンにトレーナーじゃあない?

大体何でこんな所に居るんだ?じいちゃんの葬式のあと、、、、。


ダメだ思いせない。


周りをよく見ればおかしな所がいくつも。

剣や槍を売ってる店。鎧を売っている店。耳がやたら尖っている人。尻尾の生えた人も、尻尾がふわふわと動いている?アクセサリーじあないよね?

歩く人達を見るとさらにおかしなものが、目を凝らすと歩く人の上に数字が浮かんで見える。例えば串屋のおっちゃんなら頭の上に5と書かれ、その文字が空中に浮かんでいるのだ。

なんじゃこりゃ。数字にはバラツキがあって、大体は、2とか3。子供は大体1だね。

おっ、15ってやつがいる。なんかスゲー。

そいつの隣には8と10ってやつがいて。一人の女の子を囲んで四人でやいややいや、言っている。どうやら女の子といい感になりたいみたい。何処の国でも男の好きなものは一つですな(いや、二つか?)。やっぱり大きい方が人気があるようで。

遠くから見ていた。服の上からでも分かる。良いものをお持ちだ。じっと、見ていると女の子と目があった。


「助けて!」


女の子が声を出した。

えっ!おれ?

周り見渡すけど誰も俺と目を合わせない。

どうやら俺の事らしい。あなたの胸を見ていただけです、お気になさらず。とは言えない、見ていたを隠すためにも。


「おいおい、嫌がってるみてぇじゃん」


そう言って歩きだす。時代劇じゃあ無いんだからって頭によぎるけど他に言葉が浮かばない。


「引っ込んでろ」


8がドスのきいた声と言うよりもどちらかと言うとドスのような声で言う。なにこれ!すっごい怖い!ヤクザだよこんなの。10はもっと怖いし、15に至っては目すら見れない。

どいつも胸板めっちゃ厚いし。金さん銀さんのまねなんてやめときゃ良かった。


「嫌がってんじゃん。」


それでも何とかそう言いながら実は女の子が嫌がっていないことを期待して女の子をちら見する。が、めっちゃ頷いてるよ。どうしよ。

三人が俺を囲み!8がチューが出来るほど俺に近付くと俺の胸ぐらを掴んだ。

あっ、やめて服が崩れちゃう。

その時10が俺の首に入れ墨を見つけて服を引っ張った。


「てめぇ、なにもんだ?」


10はやっぱり8よりこわかった。

声からしてすでに殺し屋。1日に一人は殺らないとすっきりしない。ぐらい言いそう。


「彫師です」

か細い声で俺は答えた。

「彫師だあ?!」


8が怒鳴った。

もうかんべんして欲しい。めっちゃ怖い。三人ともよく見ると剣を腰に差してるし、その持ち手なんて手垢で黒ずんでて。絶対使い込んでるし。絶対人を切ったことあるし。あぁ殺されてしまう。おじいちゃん俺ももう逝くよ。


「チッ。またにするか。」15が言う。

えっ、マジで?ありがたい。

「マジっすか、エルンストさん!」


8が俺の顔に唾を飛ばしながら喋る。

お前ふざけんなエルンストのに意見すんな。

あと汚い。


「そうですね。ダグラス帰るぞ」10も賛同する。

「またな。」


エルンストさんがそう言うと三人は去っていった。

全く訳がわからん。彫り師だと言ったらあっさりと帰って行ったが何だか釈然としない。色々と訳がわからんとばっかりだ。


「一応ありがとね。」女の子が言う。


一応じゃあねぇだろ!めっちゃこわかったんだぞ!そう言いたくなるのをぐっと我慢する。


「でも人の胸はあんまり凝視しない方がいいよ」


なんだバレてたか。

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