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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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彫師ギルド2

彫師ギルド2


(ギルド長視点)


この村の現状はかなり酷い。元凶と言えるのが領主代理だろう。憲兵とくっついて、私腹を肥やしていた。

憲兵が市民に言いがかりを付けて、領主代理がその市民に追加納税を命じる。

さらにそこに彫師がくっつく事で事態がさらに悪化した。彫る人間の選別。彫ってもらえないとなると、隣の村や王都へ行かなければいけないのだがこれはかなりお金を必要とする。彫るものが大きければ泊まらなければいけない、宿泊や食事。彫りに行く間に働けないのもきつい。

だが一番は移動だ。

移動中に魔物に襲われて良いように冒険者を雇うのだが、これが一番お金がかかる。乗り合いもあるのだが。まず、収入の低い人達はまず入れ墨を入れに行くことは出来ないだろう。

この状態はかなり悪い。

財産のある人間はこの村から出ようとしていた。村から人が出れば当然冒険者や商人といった人の出入りが少なくなる。当然税収も下がるのだが、それが領主代理には分からないようだ。この状態をいつまでも続けるわけにはいかない。

そこで何とか奴らをこの村から閉め出す事にした。

プランはほぼノープランだが。

とりあえず憲兵の代わり、領主代理の代わりは要らない。だが、彫師の代わりはいる。

そこで『秋人』だ。秋人は良い仕事をしてくれた。想像以上だ。市民の皆にも好かれ、慕われている。

まぁ、欠点は歳上を敬う気持ちに欠ける所だ。

風呂で会うと体を洗ってから風呂に入れと煩いのだ。ワシは体を暖めてから洗いたいといくら言ってもあの小僧は。全く、最近の若いもんはなっとらん!

さてさて、もちろん今回の事で秋人に迷惑をかけるつもりは無い。孤児院にも迷惑がかからないように警備の者を回している。

ドニーちゃんの宿屋にも警備を付けていたが、これは先日外した。秋人は、大分いろんな人に彫っている。ここからドニーちゃんを襲うというのも無いだろう。聞けば秋人の薦めでバルザックが宿として利用しているという。そして今は孤児院に居る。秋人は意外と抜け目無い。大丈夫だろう。

順当に行けばエルザ。

エルザが秋人の話をあっちこっちでしている。

エルザには常に二人以上の冒険者を付けている。しかし、なかなか事態は動き出さなかった。




(エルザ視点)



受付カウンターに顎を乗せる。

暇だ。

大体受付というのはこの田舎のギルドでは不用なのではないか。そんな事を考える。新人への対応やギルド長への引き継ぎ。有っても良いかもしれないが。無ければ無いで何とかなるだろう。

暇だ、普段なら人の居ない日中は外に出てゆっくりお茶でもするのだが、今私は囮として動いているためあまり出歩いたりは厳禁だった。緊張感の無い奴だと思うかもしれないが。緊張感を持って行動したのは最初の2日だけだった。何とも居心地が悪い。

というのも最低でも二人は付く護衛のせいだ。

その二人はエルンストさんを筆頭にした三人組の内の二人で常に構成されていて。優しい良い人達なのだが、つまらない。ユーモア0。秋人とだったら何時間一緒に居ても楽しいのに。コイツらときたらひたすらエルンストさんを持ち上げたトーク。

すごいッスね!エルンストさん!

半端無いッスね!エルンストさん!

まじやばッス!エルンストさん!

そんな感じでずっと話してる。まぁ、実力は有る。ギルド長も押すぐらいだ。

でも、手下に自分を誉めさせて自分に惚れさせようと画策するのはどうなのだ?頭が悪いというか、滑稽だ。

確かに、エルンストさんは強いし、収入も多いだろう。でも全然引かれない。

たとえ貧乏でも秋人がいい。むしろ秋人が貧乏だったら色んな女を囲えないので、私独りで独占出来る。うん。これは良い考えだ。

秋人貧乏化計画。うーん。難しい。ギルド長が箝口令を敷いたが、秋人は一人で『神癒』を使ったらしい。これだけでも一生安泰だ。あっちこっちで引っ張りだこだろう。なんせ、神殿に属していない『神癒』使いは貴重だ。

始めて会った日に手込めにするんだった。仕事をそっちのけで宿に秋人を連れ込む。仕事が首になっても元は取れた。

むむむ。

何とか独り占めできる良い方法は無いか。


『バン!』


突然大きな音を立てて正面のドアが開かれる。そこには太った女性がいた。




(バルザック視点)


ギルド長と秋人の指示で孤児院にいた。

秋人がアッシュに剣術を教えろと言うのでアッシュに剣術を教えていた。何だか秋人に近い戦いかたをする。俺より秋人が教えたほうが良い様な気がするが、秋人の言うことに間違いは無い。

きっと俺の為にもなるのだろう。アイツはそういう男だ。

昨日も秋人に水魔法の事で相談すると。『フロにでも入って考えたら?』と言った。

私は昨日秋人にそう言われてから一日中風呂に入って考えた。そしたら何と、私は気を失ってしまったのだ。

店主に脱水だと言われた。秋人の言う通り確かに汗は流れる。それは蒸発して無くなる。これをこの時私は実感出来たのだ。

一晩休んで今朝魔法を使ったらなんと、ほとんど魔力を消費しなくなったいた。今まで注ぎ込んでいた魔力は何だったのだ!試し打ちをする、全然魔力を必要としない!そう喜んだその時再び倒れた。

脱水だった。確かに空中の水を使うイメージでは無く。体から発散される水を使うイメージがしていた。

難しい。だが間違いなく一歩一歩前に進んでいる。

アッシュは俺の教えた動きを何度も反復している。こいつもまた一歩一歩進んでいるのだ。

教えた動きは前に出て抜刀、そして相手の剣を受け流し、相手に斬りかかるというものだ、アッシュの動きが少し形になった所で。


「よし。じゃあ俺に同じ動きをしてみろ」


俺がそう言うと、アッシュが目をキラキラさせて近付いてくる。あぁ、これは秋人と同じ目だ。違う動きをして一本狙ってくるな。


「よーし、じゃあいくぜ」


アッシュは俺の教えた動きを小さく繰り返す。

芸が細かいな。

さて、コイツはどうするのかな。

アッシュは近くまでくると構えるので俺も構えた。少しゆっくり目に木剣を振り上げて振り降ろす。アッシュは俺の木剣を受け流すと大きく飛び下がり木剣を投げてきた。


『ガッ』


それを振り上げた木剣で弾くと、すっかり体勢を崩したアッシュの頭を強めに打つ。


「痛~!寸止めだろ?!兄ちゃん!」

「じゃあお前は投げた木剣をどうやって寸止めするつもりだったんだ?」

「それはそうだけどさ、大人げないぜ?!」


何だか疲れる子供だが、面白い事を考える。

それに今まで、あまり人を観察していなかった。どんな動きをするのか、人それぞれ取りたい動きが違う。分かっていたつもりになっていたかもしれない。性格的な所も把握するのも大事だ。確かに、秋人と最初戦った時も秋人は色々喋って、さぐってきた。そして、俺の弱点に気付いて勝った。

確かに秋人の言う通り、アッシュとの稽古は俺の為になっていた。

その時、遠くから走ってくる人間がいた。ダグラスだ。

ダグラスはエルンストの所の下っ端で、今は彫師のギリーを見張ってた筈だ。何故ここに来る?

嫌な予感に俺も走り寄った。


「ギリーが動いた」ダグラスが言う。


やっとか、「で?」


「いきなり予定外の動きが有って見失っちまった。こっちに秋人はいるか?」

「居ない。今日は森に行った」

「そうか、なら暫く帰ってこないか」


ダグラスは眉をひそめた。


「そうだな、それがどうした?別にギリーを囲んでお仕舞いだろ?」

「いや、それがアイツが中の良い奴が巻き込まれた、教えてやったほうが良いだろ?」

「誰だ?」

「ドニーだよ」

「ここを頼む」


空間魔法で木剣を閉まって剣を出す。


「良いが、、」


ダグラスはレベルが自分のほうが上だと言いたいんだろう。

俺のギルドカードを出して見せる。


「そうか、良かったな。頑張ってくれ」


ダグラスが言う。実はダグラスも俺や秋人と同じザルだった。エルンストはレベルのなかなか上がらないダグラスを何も気にせずパーティを組んでいた。


「兄ちゃん!俺は?!」アッシュが言う。

「お前は俺とここだ」ダグラスが言う。「もしも、奴等が来たら俺が引き付けるから逃げろ」

「嫌だ!俺も戦う!」


ダグラスがアッシュの頭を殴る。


「なめるな!お前がしんがりだ!逃げる友達を一番後ろで守れ!」


ダグラスは意外と子供を使うのが上手い。アッシュは大きく鼻から息を吹き。大きく頷いた。

そんな二人を見てからギルドへと走り出した。

ドニーか、秋人の話をするととても喜んでいた。

酷い事にならなければ良いが。





(ドニー視点)


秋人の彫った犬がずっと吠えている。

二人がかりで追い詰められていた。何とかギルドの方へ向かいたいのだが、先回りされる、思うように行かなかった。

日中で一晩中少なく、たまにスレ違う人は彫師が居るのを見ると影に隠れた。誰も助けようとしてくれない。

郊外へと追いやられ徐々に間隔が短くなる。

息をするのも辛い。でも、秋人に彫って貰ったとは言いたくない喋りたくない。秋人に嫌われちゃう。秋人に嫌われるなんて、そんなの嫌だ。


「おいおい、何処まで逃げるんだ?」


郊外へと着てしまった。隠れる建物ももう無い。

畑の中に納屋を見つけて走る、中に入ると閂をかけた。


「アッハッハ、良いねぇ?誘ってるのか?」


外から大きな声がする。


「ふざけないで!私絶対に喋らないんだから!」


大きな声で叫ぶ。


「いいぜ?別に喋らなくても?」


『ガッガッ』


何かが壁に打ち付けられる音がする。


「そんな事よりよぉ。お誘いには乗らなくちゃなぁ!?」


『バキィ』


木の壁が壊され、隙間から男の顔が見えた。

その男は唇を舐めて。


「良い体じゃあねぇか!」


そう言ってなやの中に体をねじ込む。

私の体の倍は有るだろう体。彫師と言うより冒険者のように鍛えられている。その体が私に覆い被さった。


「止めて!!」


大きな声を出す。


『ゴッ』


頬を殴られる。口の中に血の味が広がった。


「別に良いけどよ。静かにした方が速く終わるぜ?おい!誰か来たろ教えろよ!」


多分もう一人の男に話しかけたのだろう。外からやる気の無い声が聞こえた。


「止めて!!」誰か気付いて!助けて!


『ゴッ』


もう片方の頬を殴られた。

男がどんどん近付いてくる。

やだよ、やだよぅ。誰か助けてよう。

私の服がその男によって引き裂かれて私の胸が露になる。


「いいチチしてんじゃねぇか!」


そう言って私の胸にその男の手が伸びる。


「止めて!」


もう、大きな声は出せなかった。

胸を隠す手を壁に押さえ付けられると。男が私の胸に顔を近付けてる。

やだよぉ。やだよぉ。

その時、外で何かが倒れる音がして、ずっと吠えていた犬の入れ墨が急に吠えなくなる。男の入ってきた隙間を見るとそこには秋人が居た。

目から涙が溢れる。嬉しい。でも、ダメ。秋人じゃあきっと敵わない。


「逃げて」

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