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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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彫師ギルド

彫師ギルド


(秋人視点)


右手の重力魔法を発動させるための法印に魔力を込める。重力魔法が発動し、右手に持った西洋剣の重さが変えられるようになる。

剣を振り降ろした時に重くして、剣を引く時には軽くする。戦いながら呼吸の様にこれを使いこなすのは難しそう。

素振りをしながらオークを探した。

さっきゴブリン相手に魔法を使おうとしたら上手く使えなかったからな。火魔法も火炎放射器のつもりが松明程度の火しか出なかった。火魔法は特に難しい。自分に火魔法威力上昇のスキルが有るため、ちょっと間違えるととんでもない事になる。一面焼け野原にでもしたらこの村に住めなくなるからな。

しかし、火魔法は本当はここまで威力が強い予定じゃあなかった。

普通法印は手のひら一つに法印一つしか彫らないらしい。

それは、小さく彫ると戦闘中に魔力を込める時に繊細なコントロールが必要になるいう事と。面積が小さい分、通せる魔力が少なくなり威力が落ちる。この二つがデメリットと伝えられていた。

でも試しに紙に書いて魔法を発動させたときに、そんなに魔力が通しにくいとか、威力が落ちていると感じなかった。まぁ、威力を上げにくいなとは思ったけど。

でも実際に彫って魔力を通してみると。むしろ魔力を込めやすいし。威力も上げやすい。MPのコスパも良い気がした。俺の魔力で彫って、俺の魔力で魔法を発動させているからかもしれない。

これからはバンバン魔法をつかえる。

それにしても。全然オークが居ない。ゴブリンもさっき合った一組のみだ。んーと。

良い方法無いかなぁ?両手の法印を見つめた。




(ドニー視点)


「全くあんたは。あんな良い男そうは居ないよ。文句は言わない。偉そうな態度は取らない。優しい。しかも、ジャガイモだって、あんなに綺麗に剥いて。普通の男は出来やしないよ!そもそも普通男はいも剥きをやろうとなんて絶対にしないね。しかもだよ!あんた。あの子が森に行って傷を付けて帰ってきたことがあるかい?!無いだろ?!毎回無傷で帰ってくるなんてそんな簡単な事じゃあ無いよ!いくら相手がゴブリンだからって、襲いかかって来る事には変わり無いんだからね!それに、なんだい!あの子のレベルが上がりにくいだぁ!私だってそうだったよ!普通の人の倍のゴブリンを殺してやっとこさだよ!でもねぇ、私は他の奴の倍は火を起こし続けることが出来るよ!全く!何をやったんだい!それとも何かい?あの子が嫌いなのかい?それに!この村の彫師どもを追い出してあの子がこの村の彫師になってごらん!もう安泰じゃあないか!今だって皆あの子に彫って欲しいって引っ張りだこなんだよ!」


お母さんは秋人押しだ。

23歳になった適齢期を過ぎても結婚しない私を心配していた。

私とお母さんは最初、彫師だと言ってこの宿に来た秋人を不審に思い、いざこざの種だと思っていた。

秋人は記憶が無いと言っていて。それが本当ならこの村の彫師とは関わりら無いだろう。けど、彫師だと言う以上これが原因で彫師ギルドに睨まれるという結果は容易に想像できた。

この村の彫師達に逆らう事は憲兵と領主代理に睨まれる事になる。それは、この村では致命的だった。重税か、最悪宿屋ギルドから外されるかもしれなかった。

どうしようかと悩み、彫師だと言う秋人を仕方無しに迎え入れ、一緒に生活することになった。

一緒に居ると。

秋人はユーモアがあって、意外としっかりしてて。でも、結構間抜けというか、男のくせに女の言うことをハイハイと聞いていて。でも、実はかなりの教養がある。

変な奴だった。でも、その変な奴に引かれていった。

最初からおかしかった。

私の胸を遠くからガン見して。私を助けろと言うと。挙動不審になりながら、ビクビクしながらそれでも助けに来てくれた。その後も私が客に絡まれると間に入って、殴られたけど、殴り返してその男を黙らせた。私は後で、『余計な事をするな!自分でひっぱたきたかった』って言ったけどそんなの嘘だ。そんな事出来ない。

その後お母さんにあの子は『憲兵にここが目に付けられない様に先にわざわざ殴られたんだよ!』って言ってた。

徐々に秋人を見る目が変わっていった。

記憶が無いという見え見えの嘘を言って文字を教えてくれと言ってきた。『下心が見え見えだな』って、思ったけど決してエッチな事はしてこなかった。むしろ秋人の知識は私をひきつけた。決して知識を自慢すること無く。淡々と教えてくれた。

そうなってくるとむしろ挑発したくなる。

お店のお客さん達は私を目当てで来ている。適齢期は過ぎたけど男を引き付ける容姿と体は持っているはずだ。でも秋人はずっと淡々としていた。

ずっと淡々としているので私には興味が無かったのかと思い始めた頃。秋人はバルザックさんに彫る『ブレイブ』の法印を試していて何度か雄叫びを上げた。その時に心配して秋人の部屋に乗り込むと。『来ないで欲しい、我慢してるけどドニーを襲ってしまう』と言った。

嬉しかった。

お母さんにその事を言うと『チャンスだよ!あんな良い男そう居ないんだからね!』と発破をかけられた。

お母さんはこの宿に来る有望な冒険者とか商人とかと、私をくっつけようと何度か画策して。私と衝突することが有ったけど。秋人に関しては私はお母さんと心は一つだった。


でも私は卑怯だった。


素直に好きだって言うべきだったのに。

体を使って挑発して襲わせた。

そして、秋人はこの宿を出ていってしまった。

アレをした後に私は大笑いしてしまったのだ。でもそれは決して秋人を笑ったわけでは無い。自分がアレが怖かった、嫌だった理由が分かって安堵して思わず出たものだ。

まぁ、少しは可笑しかったけど。

私は今まで何人かとお付き合いしたことがある。当然体の関係を持つのだけど、そうすると大体別れる事になった。

私はアレが好きでは無い。

男の人のあれが入ってくるとどうしても痛くって、でも男の人は痛いからと言ってもなかなか止めてくれない。それで私が痛い、痛いとずっと言ってやっと男の人はやっと止めてくれる。


『お前の体付きって、なんか無駄だよな』


と言って。

私があれが好きでは無いと分かると皆去っていった。

あの夜。お母さんが『頑張るんだよ!』と言って出ていき。私は秋人の部屋に行った。

体のラインの分かる服を着て。巻いたさらしは少しづつほどいて。秋人をからかった。

でも内心怖かった。痛いって言ったら嫌われる。私の体に勝手に期待して、でも『期待通りじゃあ無い』と言って私を振った男達を思い出す。

秋人に嫌われる。

好きなのに。

絶対に嫌われたくない。

痛くっても、痛いって絶対に言わない。

歯をくいしばって、

そう覚悟を決めて。

部屋を秋人に暗くしてもらい。


「今日お母さん宿屋ギルドの会議があって」


サラシを押さえていた両腕をほどいた。


「遅いんだ」


秋人が服を脱ぐと大きくなった秋人のあれが目に入って。


「あ、ちょ、ムリ、まって!」


私は思わずそう言ったけど秋人は待ってくれなかった。

でも、秋人は待ってくれた。

待ってくれたのだ。

私に準備が出来るのを。私が秋人のあれを迎え入れる準備が出来るのを待ってくれた。

そして迎え入れた。何て事は無い。何で痛かったのか分かった、待ってくれれば大丈夫だったのだ。男の人は準備の出来てない私に無理に入れてきた。だから痛かった。

そして秋人は満足してくれた。私で満足してくれた。それがとっても嬉しかった。私で満足してくれた人は秋人が初めてだった。

私の心配は全く無駄だった事。私が怖かったり、不安だったり、そういったものが無駄だった。

そして、秋人に嫌われずに済んだその喜び。

そして、秋人は私で満足してくれた喜び。

そして、恥ずかしそうな秋人がちょっとだけ可笑しくって。

私は大笑いしてしまった。



でも、秋人を傷付けてしまった。

秋人が出したあれを水で流して部屋に行こうとしたらお母さんがいて、少し話すつもりが長くなり秋人の部屋に行くのを止めた。

翌朝秋人が居なくなっていた。

お金を置いてだ。


秋人を傷付けてしまった。


これは私の卑怯さが招いた事だ。私が秋人に好きだと確り伝えるべきだった。安い挑発で自分のものにしようとしたのが間違いだった。

確りと好きだと伝えていれば、いくら笑ってもこの宿にいてくれただろう。


「ため息なんて付いて無いでさっさとあの子を捕まえてきな!」


お母さんが大きい声で言った。

確かに、このままにしていたら他の女に取られてしまう。でも、再び顔を会わせたて知らん顔されたらどうしよう。想像すると涙が出た。

突然秋人の彫った入れ墨の犬が急に吠え出す。ドアが大きく音を立てて開いた。涙を拭いて出ていく。

二人の男が入ってくる。二人は何か話すと、厳つい顔をした男が私の右肩から覗く犬の入れ墨を見て。


「良い入れ墨してるなぁ、姉ちゃん」


と言った。

私は奥歯を噛み締めた。

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