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異世界で彫師になる  作者: ユタユタ
彫師になろう!
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彫師始めました。

彫師始めました。



忙しい毎日を送る事になった。

エルザのお陰だろう。ギルドのカウンターでどんどん俺の事を勧めてくれている。孤児院で彫師を始めて最初は誰も来なかったが、少しづつ増えて、彫って欲しいという人が今では絶える事が無かった。今は完全予約制で、カナリアが受付嬢をしてくれている。最初ユリナが


『私がやる!』


と言ったが丁重にお断りした。ユリナが受付嬢になったら気に入らない客を追い返しそうだからね。

でも、こんなに忙しくなってくると、それも有りだったかと反省。

本日は診察と施工とお休み。

で、今日は何をしているのかと言うと自分に彫っていた。

左手で右手に彫る。ム、ムズい。

それで肝心の彫っているものなんだけど。彫るものは五つというか六つというか。十というか。十二というか。

モザイク画ってお分かり頂けるだろうが。遠くから見るとモナリザに見えるけど近くに寄ると小さな写真の組み合わになっている物。

それで、俺が作っているのが。

神字で、神字を書くというもの。神字で地水火風魂と書くそれは、遠くから見ると輪の神字に見える。

お分かり頂けるだろうか?まず、『あいうえお』、と左から右へ横一列に書く。その後は、おの横に、縦に『かきくけこ』と書く。最後に、この左から右側へと『さしすせそ』と書く。

遠くから見ると『コ』の文字に見えないだろうか?でも、よく見ると一つ一つが文字になってて読める。

意味が分からなかった場合は何だか便利な感じに成ったと思って下さい。

めっちゃ便利です。少し見ただけでは輪の法印にしか見えない。けど、地水火風とも彫ってあるので火を出す事も水を出す事も出来る。

十二の法印が発動可能になった。左手の手のひらから発動可能になったのが地、水、火、風、命、輪。

右手には残りの六つ。重、時、空、光、邪、と彫って遠くからは天に見える。

何とか彫り終わると目がチカチカした。


「兄ちゃん!」


アッシュの大きい声がすると同時に部屋のドアが開く。


「稽古つけてくれよ!」見ると木剣を持っている。

「やだよ?」


左手の法印全てに魔力を通し『神癒』を発動させる。ぼんやりと光って彫った後の腫れと赤みが消えていく。


「ケチ!兄ちゃんはケチだ!ケチ!ケチ!ケチ!」

「よし、じゃあケチな俺は狩に行くとするか」

「いいじゃん!稽古つけてよ!」

「はいはい」


彫りの道具を片付けて部屋を出るとユリナがいた。ちなみにその間もアッシュがずっと喋ってる。


「秋人?今日は休みなんだろ?」

「あぁ、これこらギルド行ってから狩に行こうと思うんだけど」

「そっか、昼飯ぐらい食ってくだろ?」

「んー、どうしよ」


「おい!何言ってんだ!?コルァア!」


ユリナが豹変した。


「食ってくよなぁ!?あぁ!?」


ヤンキーユリナだ。めっちゃ睨んでくる。

するとアッシュが小声で何で怒ってるのか教えてくれた。俺が今日は仕事を休むと聞いて、昨日から料理を色々仕込んでいたらしい。


「お、お、お昼と夕飯はこちらで確り食べたいです」

「へへ、そっか。直ぐ出来るからよちょっと待ってくれよな?」


アッシュが勝ち誇った顔をした。ちっ、しょうがねぇな。


「少しな」


飛び跳ねて喜ぶアッシュと外出た。

空間魔法でギルドから借りている木剣を出すと。右手で構える。アッシュは両手で構えると走り込んでくると思いっきり木剣を降り下ろした。

うん。素手で良かったな。アッシュがひたすら木剣を振り回す、俺はひたすら避ける。散々振り回して疲れたアッシュは木剣にもたれ掛かって休むので。


『ボコ』


木剣で頭を叩いといた。


「休んでるときは無しだぜ!」


ハァハァいいながらアッシュが何とか言う。


「休んでいる時も有りだ。ボケ!魔物が『あっ、おやすみ中でしたか、ではまた今度』とでも言ってくれるのか?」


アッシュには少しだけ剣を教えていた。が、俺も教えるほど剣を修めてないので困っていた。最初剣を教えてくれたじいちゃんもそもそも適当だったしな。本当はバルザックのほうが適任なんだろう。

あっ、いいね。バルザックに押し付けよ。アイツ基本的に俺の頼み事を断らないんだよね。

それから、すっかり元気になったカナリアがご飯が出来たと言うのでリビングへ移動した。


「よ~し、じゃあ皆用意は良いか?」


皆が席に着くと鍋の蓋とお玉を持ったユリナが言った。

鍋の蓋にお玉がぶつけられ


『ガン!』


と大きな音がするとご飯の争奪戦が開始する。毎回お腹一杯になるだけの量がユリナによって用意されているので。これは楽しみの一つなのだろう。

ちなみに、おれとユリナの分は最初に分けてあるため大丈夫。小さい子供を優先したかったので毎回譲っていたらユリナに怒られた。


「何で、出来立てを食わねぇんだよ!熱々を何で喰わねぇんだ!」


とブチギレ。

俺は般若の言うことには従う事にしている。


「いいけど、ユリナは?」ユリナも基本子供達が取るのを待っていた。「心配だよ」

「おっおう。秋人がそう言うならよ」


とユリナ。顔がデレデレしている。今日もツンデレがヤバイな。

ユリナも料理が配り終えると俺の隣に座って食べ始めた。隣で色々教えてくれる。どれも美味しいが、一つ一つに手が込んでいて驚く。煮込んだり、血合いの処理、濾したり、切り方を食材ごとに変えたり。セリアさんはもっと大雑把だったような気がする。


「お、お、私は。もっと手をかけたいんだけどよ」


とユリナ。

最近自分の事を『俺』じゃ無くて、『私』って言えるように特訓中だ。


「なかなか余裕も無いだろ?」

「そうなんだよな、まぁ、こいつらが大きくなれば少しはな」


徐々に飯の争奪戦に終止符がおかれ静かになってくると、俺の両腕に子供達がぶら下がり始める。今度は俺の争奪戦に突入する。


「兄ちゃん!遊ぼうぜ!」という男の子と。

「お話しをしましょうよ」と女の子がいる。


男の子達はユリナの様に活発で、女の子達はカナリアの様に大人しかった。

此処に住んで子供達を見ているとカナリアの存在が大きかったと実感できる。カナリアが今も年少組の中でも小さい子供達の面倒を見ていた。カナリアだって、まだ甘えたい年頃だろうに。アッシュはバカだから良いけど。

ユリナとカナリアの心のケアを一応気にするようしようかな(一応アッシュも)。

アッシュも一応ここの大黒柱だしな。今は俺だけど。

ユリナの出してきたお茶を飲みながらぶら下がる子供達に


『はいはい』


と相づちを打つ。


「じゃあそろそろ行くわ」と俺が言うと。

「遅くなんないでね」と嫁みたいな事をユリナが言う。


言ってから気付いたんだろう。ユリナは顔を赤くしてモジモジしてる。

力が180を越える俺をなめるなよ!


「じゃあ」


そう言って子供達をぶら下げたまま孤児院を出た。




次々と脱落する子供達を尻目に東の橋へと向かう。ギルドへ行く予定だったが、遅くなってしまったので無しに。途中で孤児院に向かって歩くバルザックに会った。


「よっ!」手を上げて言う。


バルザックは手だけで答えた。


「いつも悪いな」

「構わん」

「でさ、アッシュってガキがいるだろ?よかったら稽古をつけてやってよ」

「わかった」


バルザックが神妙そうに頷く。ほんとコイツ便利だよな。


「そういやぁ、どうだった?」


この間『水魔法のイメージをもっと掴みたいがどうしたら良いだろう?』と言うので『フロにでも入って考えたら?』と言っておいた。


「あぁ、良い感じだ」

「そっか、良かったな」


バルザックはこれから孤児院に行って俺が戻るまで警備をしてくれる。俺がダメ元で頼むと『いいだろう』と言った。しかもタダで。まったく有難い。

俺だったら絶対にやらないね。

さてさて、バルザックと別れて森へと向かうが誰か俺を見てくるような気配を感じない。客を取られた彫師達が俺を襲ってくるのを予想していたんだけど。感知のスキルがレベル2になって、感度は大分上がったんだけどそれらしい気配を感じない。

孤児院でも今一それらしい気配を感じなかった。もしかして俺の存在に気付いて無いとか?

それもあり得るか。皆彫師を嫌っていて、隣の村や王都まで行ってわざわざ彫っていたという人までいるぐらいだ。

最初から客なんてそんなに居なかったかもしれないな。

気にしてたら何も出来ない。さっさと彫った法印を試そっと。




(彫り(したっぱ)視点)



相変わらず誰も来ない。

ヤバイなヤバイな。そろそろ憲兵や領主代理に賄賂も払わないといけないのに。

あぁ、腹も減った。しょうが無い。また無銭飲食でもやりに行こうかな。本当はやりたくないけどしょうが無い。だって、金が無い。

立ち上がろうとしたその時、ドアが大きくなればな開いた。客か!と思ったがいたのは先輩だった。


「おう!」


厳つい顔をした髭もじゃの男だ。


「ギリーさん、どうしたんですか?」

「あぁ、暇だからよ。金でも巻き上げようと思ってな」


こういう男なんだよ。


「無いッス」


誰のせいで客が減ったと思ってんだよ。


「だろうな。だから言ってるだろ?怒鳴って、殴り付けて『俺ん所で入れ墨を入れろ!』って言やぁ良いじゃねぇか!簡単だぜ?」


あんたならな。


「ギリーさんなら出来ますけど、俺じゃあ逆に殴られて終わりッス」

「ハッハッハ。ちげぇねぇ」


それから飯を奢ってくれると言うので付いていく事にした。ちなみに小銅貨一枚もコイツは出さない。もちろん無銭飲食だ。一人で無銭飲食はまだ抵抗が有るから正直助かる。それに話し相手に成ってくれるのもこの村ではコイツだけた。彫師はこの村には俺とコイツの二人しかいない。

それから店を出て屋台の方へ歩いていく。


「なんか最近特に客が少ない気がするんですけど?なんか知ってます?」


今言った『特に』の部分は嫌みだ。


「知らねな?」


もちろんコイツに嫌みを感じるセンサーは存在しない。


「ですよねぇ」


ため息はさすがにばれないようにこっそりした。

屋台に着くと店先に並べられた商品を勝手に取っては食べる。ギリーさんが居るので店主達も大人しいものだ。俺一人ではこうは行かない。

俺一人でも大丈夫なんだけど。めっちゃ睨まれて怖いんだよね。


「なんか飽きたな」


ギリーさんが言う。


「そうですね」


田舎だから種類が少なくどうしても決まったものになる。


「なんか良い店知らねぇか?」


そんな事言われても新しい店なんて聞いた事が無い。


「あぁ、胸のおっきい女が居る店が有りますけど?」

「へぇ、どこだよ?行ってみようぜ」

「でも、宿屋ですよ?」宿屋は普通昼飯は出さない。

「あぁ、出させりゃ良いじゃねぇか」


ギリーさんは通りすぎる人を睨み付けながら歩く。いざこざを避けてた村人達は道を譲っている。

俺は怖がられるのが好きじゃあ無い、むしろこうやって避けられるとむしろ悲しい。ギリーさんは恐れられたり。仰々しく敬われるのが好きなようだ。

その宿屋に着くとドアを蹴って開ける。中からは目当ての女が慌てて出てきた。噂通りの胸をしている。


「あぁ?お前、客が少ねぇって言ってたな」

「ええ、言いましたけど」いきなり何言ってんだ?

「原因が分かったかも知れねぇぞ?」


ギリーさんがその女に近付く。


「良い入れ墨してるなぁ、姉ちゃん」


その女の顔が歪んだ。

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