プロローグ
プロローグ
孫の体に入れ墨を彫っていた。
「念のため。念のためな?」
「だから何が念のためなの?」
「まぁまぁ」
秋人に説明したところで信じまい。
シャッキ、シャッキと針を刺す。
実はわし、若い頃に異世界に行っとった事がある。
その世界ではスンゴイ苦労をした。
言葉も通じんし、魔法とかいう訳の分からんもののある世界に放り込まれて。何度も死にかけた。もちろん嫌な事だけじゃなく、良い事もたくさん有ったがの。
しかし、同じ苦労を孫にさせる気は無い。
チートとか言ったか。
今彫っている入れ墨は、人の体で龍になる。そんな入れ墨じゃ。異世界で、こっちの世界で、どっちの世界の彫師としても最高傑作と言って良いじゃろう。
まぁ、こいつも異世界に行くとは限らんがな。
「じいちゃん?」
「ん?」
「じいちゃん、あれだな。口が臭いな。オーラルケアって知ってる?」
あれだ。『若い頃は苦労は買ってでもしろ』って諺を思い出した。何でじゃろ。急に思い出したわい。
何でもかんでも世話を焼きすぎても駄目じゃな。どんな言語でも読み書きも出来るようにしてやろうと思ったが。別に良いじゃろ。
「じいちゃん?」
「ん?」
「じいちゃんの足ってさ。スッゲー臭いじゃん。おんなじ臭いが口からするんだよね?何で?」
「ん~。何で、じゃろうなあ?」
そんなに強く無くても良いかの!
まぁ、レベルに応じて強くなるようにしておけば十分じや。
「溝の臭いとはちょっと違うんだよな。とょっとね?ちょっとだけど」
まあ、いいか。ワシも苦労したが無事帰ってこれたし。
オートマッピングとか!他人のステータテスとか別に見れんでも良いじゃろ!!
ハーレム属性とかいらんじゃろ!!!
自力で頑張れば良い!
自力で!!
「じいちゃん?」
「なんじゃ!」
「長生きしてよね」
おっおぅ。
いきなりこういう事を秋人は脈絡無く言うんじゃよ。
「こればかりはな」
そう言うと秋人は黙った。
異世界ではたくさんの魔物や人の命をも奪った。こんな人間がこんな望みを言うのは滑稽かもしれんが。
死にたくない。それはワシ自身のというより、この子の家族がワシが死んだらもう誰も居ない事がそう望ませる。
この子は強い。だが、それと家族が居ない事は別じゃ。
この子の未来に幸多からんことを。