俺のヒロインは既に死んでいた件
「ふわぁ…、眠い。」
あくびも抑えずにこの俺、小泉 健太は歩き慣れた
通学路をのろのろとあるいていた。
見慣れた道には見慣れた自分と同じ学生服の生徒が
ちらほらと複数人で楽しげに歩いている。
だが俺のテンションは一向に上がりきらないままであった。
だるいのは決して夏に入り始めたことを感じさせる
この気温だけではないだろう。
誰もが一度は経験するだろう感情、
高校生になっても自身の冴えない日常に飽き飽きしているだけなのだ。
それなら変えるためにも何らかの行動をするべきなのだが、
それをする気になれないのはこの季節の陽気のせいかもしれない。
そんな理由を頭の中に浮かべる自分に対して失望しながら、
かたつむりよりかは早い歩みでのろのろと
正面の道の果てに見え始めた学校に近づいていく。
「(導入だけで言えば自分もよくある小説の主人公と変わらないな)」
とそんな何気ない考えから頭の中で勝手な自己理論が展開されていく。
よく、小説かなんかで変わり映えしない日常などとほざく奴はいるが、
そんな物は存在しない。なぜならば誰しも生きている以上
時間の流れというものが存在しているからだ。
時間の流れというものが存在している限り、
誰にでも変化というものは現れる。
それなのに変わり映えのしないなんて言葉を放つ奴は、
単純に変わろうと思っていない奴なだけである。
変わろうと思ってない為、変わっている実感を得られないのだ。
そんなご高説を頭の中でたれながしながらも、
自分もその少なくない考えを持つ奴らの一人であることに呆れが出てくる。
結局自分のようなものは外部から切っ掛けがなければ動くことなど
できないのだろう。…そんなこと考えていたせいか朝っぱらから
気分が落ち込んできた。まだ人生という道も学校への道も長い
。涙が出てきそうだ。
そうため息つきつつ、何気なしに曲がり角の前で立ち止ると
ひゅん!と目の前の角からすごい勢いで誰かが飛び出し、
学校の方に猛スピードで 駆けていく。
後姿からどうやら自分と同じ学校の制服で女子である。
「(遅刻遅刻---!!等叫ばないと気づけないもんだな)」とか
もしかしたらここで俺がぶつかることで変わるきっかけに
なったのかもしれないとそんな意味もなく、他人任せなくだらない考えに
思いを馳せていると、「よう、おはよう」と後ろから声をかけられた。
声からして男である。
ちらりと視線を送ってみるとそこには、運動部のエース君がいた。
「なんだ君島か、チェンジ」と吐き捨てる。
君島 勝 よくいるクラスの中で、
運動部なもてるやつである。別に顔がイケメンというわけじゃないが、
運動部でそこそこ活躍してりゃよってくる女はいるのである。
その俺のあんまりな反応を冗談と捉えたのか、
「ひでぇな、冷たいこと言うなよー」と君島は引っ付いてくる。誰得ぅ。
振り払おうと見えてきた学校の正門まで
クラウチングスタートを決め込もうとする俺に、
君島はにやけ面を張り付けたまま君島は俺に話しかけてくる。
「まあまあ聞けって、いい情報あるんだよ。小泉お前知ってるか?」
知るかバカ、そう言って拳を叩き込まないことをほめていただきたい。
この世界はゲームなどと違い、選択肢は存在しない。
そのため、俺たちは様々な行動をとれるように思える。
しかし、今の俺の思いをそのままこの馬鹿に伝えても、
世界は変わらず、この話の流れも変わってくれないだろう。
そんなところはゲームと一緒という理不尽さがここにある。
しょうがなく俺は世界に屈した。
「興味ねーが何なんだ。」
そういうと我が意を得たりという顔をした君島がぺらぺらと
決壊したダムのように要領を得ない内容を話し始めた。
「いやー、実はさー俺の友達がさぁ、知り合いに聞いたっていうんだけどさ」 「あ、その知り合いってそいつの彼女のしりあいでさ」
はいはい、etc.etc,
体躯会計にありがちの壊れたホースのような内容を無駄を省きつつ
まとめるとどうやら朝練に出てたこいつの友達が
職員室前で日課の盗み聞きしていたら今日、転校生が来るらしいってことを
偶然知ったそうだ。頭が痛くなってきた。
痛くなった頭を軽く手で押さえつつ、
ちらほらと生徒がそろいつつクラスに入る。
「転校生って女の子かな!}ともはやテンプレになりつつあることを言っている馬鹿を適当な男子に引き渡す。
…1分もたたず、クラス全体を巻き込んですげぇ盛り上がり始めた。
まじかよ。
こいつらは、毎日楽しそうだなと少しうらやましく思っていると、
ピンポンパンポーンとありがちなチャイムが鳴り響き、
そこらかしこに放送が響き渡る。
「えー、突然ですが、今日は体育館の方で集会を行います。
全生徒は至急集まってください。」さっきまで盛り上がってた
その放送にうちのクラスには?が浮かんでいた。
気持ちはわからんでもない。転校生が来るというときに
全校集会なんてあるのかという話だ。可能性があるとしたら2択である。
それだけの大物が来るか、もしくは転校生は幻だったか。
俺なら手堅く後者にかけるな…そう思いつつ、体育館にいってみると、
そこで壇上にあがった禿の校長からあったのはショッキングなものだった。
…別に校長がショッキングなわけではないよ?
本来なら、今日登校して来るはずの転校生が来るときに
自転車にはねられたらしい。そして意識が戻らないそうだ。
それだけならちょっとかわいそうに思いつつもフーンで終わるのだが…
「その女生徒は昔、ここに住んでいました。しかし都合により、
別のところに引っ越したのです。
そして、最近になってようやく戻ることができ、
うちの学校に通ってくれるはずだったのですが…その矢先に
今回の事件が起きた、というわけです。
その女生徒の名前は、小鳥遊 亜紀さんといいます。
また、うちの学校に来ることができるようになったら、
温かく迎えてあげてください。」
等と必要なことを話すことに30分以上かけて、話し、
満足げに壇上から降りる校長を周りの生徒があきれ顔で、
先生はそわそわして見つめる中、俺の意識は他にあった。
そもそも俺は小鳥遊亜紀を知っていた。
昔よく一緒に遊んだ中で、俺が恋愛ゲームとかの主人公だったのなら
ヒロイン候補と言ってもいいぐらい仲が良かった
別の場所に引っ越すときに涙ながらのお別れをした仲だ。
そんな幼馴染が事故にあったと聞いて、
心穏やかにいられる奴はいないだろうが、それではない。
今俺の意識をいちばん奪っているのは…
「もー、健太のせいで私がこんな目にあってるんだよ!
なんであの交差点でぶつかってくれなかったの!?」
とふわふわ宙を浮きながら、
…半透明に透けた体で
必死にこちらに心外だといわんばかりの顔を浮かべて訴えている、
幼馴染の姿が俺の目に映ってるせいである。
どうやら俺の飽き飽きした日常を大きく変えるためのきっかけは、
ゲームで言う『俺のヒロイン候補が(いろいろな意味で)死んでいた』
そんな事から始まるようです。
なんでだよ。
ここまでが浮かんだので筆を執ってみました。
続きを読んでみたいと思ってくださる方がいらっしゃるのなら、
続きを考えてみようかと思います。