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プロローグ

プロローグ


あぁ、これで終われる。

やっと苦しみから解放される。

何もない人生だった。

苦しくて辛いだけの。

最後の最後、ビルから落下するこの瞬間だけは。

「飛んでるみたいだ」

少しだけ風が気持ちよかった。

直後、聞いた事のない音、衝撃、暗転。

僕は意識を手放した。



………

……

…まぶしい。

瞼の裏で光を認識する。

それに周囲が少し騒がしい。

これは、夢の世界だろうか。

僕は死んだはず…ならばこれは死後の?


「はーいお疲れ様!残念だったわね」


女の声?誰だ、天使か、悪魔か?

ようやく目が慣れて来た。重い瞼を開け、ゆっくりと起きあがる。

「ここは…痛ッ」

だるい身体を何とか起こすと、カプセルのような妙なベッドに自分が座っている事に気付いた。

その瞬間、鋭い頭痛に襲われて反射的に頭を押さえる。

「あらダメよ無理しちゃ。あなた一応、死んだんだもの。しばらく『なごり』が残っているわ」

僕の様子を見て、さも当然というように先ほどの声の主――看護婦のような格好をした

眼鏡の女は言った。僕の様子を見ながら、何やらカルテのようなものに記入している。

「死んだ?僕はやっぱり死んだのか」

「ええそうよ。田中健一、19歳、日本人。大学受験に失敗して貧乏浪人生に

 なり、未来に絶望して飛び降り自殺ね。まぁあの生活環境では頑張った方

 じゃない?」

「人が一人死んだのに、冷たいな。あんた見た目は天使だけど、実は悪魔か?」

さして表情を変えずに淡々と語る女にムッとし、僕は嫌味たっぷりに吐き捨てた。

その様子を見て何故かキョトンと目を丸くした女は、何かに気付いた様に、

「あらゴメンなさい!まだ『戻して』なかったわね。貴方あんまり雰囲気

 変わらないから、気付かなかったわ」

と苦笑しながら、僕の方へ近寄ってきた。待て、顔が近い。

「ちょ、いきなり何を…!」

まさか死人の魂でも口から吸い取るつもりか悪魔め、等と身構えていたら、女はベッド内部のスイッチのような突起を押した。

「これで良しっと。――お帰りなさい『カケル君』」


「あ……れ?」

体中に一瞬、電気が走ったような感覚。刹那、僕――俺は全てを思い出した。

「………はぁ、またゲームオーバーか」

「これで5回目ね。でも前は15歳だったから、記録は伸びてるわよ?」

「次こそ成人までは行きたいなぁ」

そうだ、俺の名前はカケル。

そして『田中健一』とは、今まで俺がプレイしていたゲームの主人公だ。

今から3年前、西暦2100年に発売され空前絶後の大ヒットとなった、

その名も『ゲームライフ』という。


今や知らない人は世界に居ないであろうこのゲームライフ。

人気理由は、大きく分けると以下の3つと言われている。

1.ゲーム内の1年を、現実時間のわずか10分で体感できる。しかもそれは

  ゲーム内に居る限り主人公にとってリアルと変わりなく、本当に1年

  過ごしたように思える。

2.ゲーム内で得た経験・知識などは、プレイヤーが望めばゲーム成績に応じて

  一定量が現実の記憶に還元される。

3.ゲームが驚くほど安価。


3はともかく、1と2については脅威的といっても良い。

例えば俺の『田中健一』を例にあげよう。

生まれてから19歳まで生きた田中だが、大学に落ち浪人したとはいえ、

そこに至るまで相当の勉学に励んできた。

その知識が、今の俺ケンジの記憶に、僅かだが残っている。

ハッキリ言って俺は頭が悪い。自分の学生時代は全く勉強などしなかった。

そんな俺が、某有名大学の入試レベルであろう高難度問題や答えを

『知っている』。

といっても本当に一部でしかないが、知らなかった事を知っているのだ。

しかも、田中が積み上げた19年の知識は、俺の時間で190分。

ほんの3時間程度。

一人のリアルな人生を、短時間で圧縮体験が出来る。

つまり本来ならせいぜい80年そこそこな自分のみの人生を、その何十倍も

別の人間として経験出来る。ゲームをすればするほどに。


いうなればこれは、『限りなく不老不死に近い』体験ができるゲームなのだ。


そこまで言えば世紀の大発明なのだが、このゲームには何故か

こんなルールがある。

・プレイヤーはゲーム開始時、必ず生まれた所からスタートする。

・プレイヤーの記憶は、ゲーム内には一切持っていけない。

・プレイヤーの主人公ステータス(容姿、財産等)は、ランダムで決定する。

・一般ユーザーは特定の施設でしかゲームを行えない。

1つめのルールは当たり前といわれれば仕方ないが、毎回赤ん坊からでしか

スタート出来ないというのは面倒にも感じる所だ。

2つめについて、いわゆる強くてニューゲームが出来ない。よくある設定の

小学生でズバ抜けた頭脳…などはこのゲームには適用されないのだ。

そして一番のネックは3つ目。俺の初プレイ時、主人公はとある貧しい国の戦場で生まれ、生後わずか5日で餓死してしまった。プレイ開始から実際は数秒でゲームオーバーだ。

4つめは、安価の理由として開発者から提言された。

俺みたいな大して金持ちじゃないユーザーは専用のIDカードを発行してもらい、

最寄りのゲームライフ・ステーション(GLS)という建物内にあるゲーム機を使用する。各ステーションには、小規模でも100台以上のゲーム機が並び、

そこに事前予約をしておけば、時間内に好きなだけ使用できる…という流れだ。

ちなみに俺は毎回の予約で、必ず期限最大の12時間を申請する。

噂によると実機を個人持ちするには、家が何件か買える程度かかるらしい…。


といった、別に無くてもよさそうなルールも混在するこのゲームなのだが、

やはり『リアルに経験値を得られる』というのが最大の売りである。

ゲーム実装され3年たった今、このゲーム内での経験値により

有名大学・企業に合格したという声が後を絶たず、爆進的な発明の嵐により

世界的に技術・生活水準は青天井で上昇中。

個人のスキルがあり得ないレベルで上がり続けているのだ。

更に良いのは、嫌な経験などした場合その部分だけ消去する事も可能という点。

これにより田中のようなバッドエンドのトラウマ部分だけを取り除く事ができる。

まさに夢のようなゲームと言えるだろう。


一点、ゲームのシステムやメカニズム等は『一切非公開』という事を除けば。


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