6 試練の翌日
3話投稿します。
大忙しだ。
教会に行って、おしのさんと話をしてきた。
おしのさんは、だいたい体調が戻ってきているけど、やっぱり身体はすぐに自由には動かない。それに状況が良く分からなくて混乱している。
「おしのさん、最後に覚えていることを話してくれ。」
今までは、どさくさに紛れて、おしのって呼び捨てにしていたけど、こうやって面と向かって話すときには、ちょっと恥ずかしくて呼べなかった。
「池君の部屋をお掃除しようと思って。それで入ったら、四万十川騎士団長がいたの。あ、騎士団長は、うちの亭主と、王都のK小学校の同窓なの。たまにお金を借りに来てたわ。だから私も知ってたの。それで、こんなところで何をしているんだろうって思ったら、いきなりナイフを出してきたからびっくりした。その後は覚えていないの。」
それで充分だ。
その場で、その内容を書面にして、おしのさんに署名して貰った。
おしのさんに、
「多分、おしのさんの亭主が、俺を殺そうとして騎士団長に依頼したんだろうと思う。おしのさんの亭主、検察官に言って、逮捕して貰うつもりだけど、いいかな。」
「え、そうなの。私どうしよう。宿屋って、今どうなっているの?」
「亭主は宿賃を受け取る以外は、何もしていないよ。宿泊客は、好き勝手にしている。俺も含めて。食事も出していない。ああ、ティナちゃんに結婚を申し込んでいた。」
おしのさんは、弱弱しくではあったけど、爆笑した。
「それだけ不釣合いなカップルはないわ。でも、この町では、ありえない選択肢ではないわ。」
そうだ。女性の地位は低く不安定だ。
「おしのさん、あいつが逮捕されたら、離婚して、あの宿をおしのさんのものにしよう。」
持ちかけた。相手が懲役中に離婚裁判を起こすやり方が有効なのは実証済みだ。
「分かった。あなたがそういうのなら、私、ついていくわ。」おしのさんは微笑んだ。
「それからね。この前みたいに、おしの、って呼んで欲しいの。」
「うん。・・・」
ちょっと恥ずかしかったけど、思い切って言った。
「おしの。好きだ。」
そして、そっとおしのを抱いて、キスした。
次に、チーム流星の事務所に行った。ターニャを探す。アンドロポフはいなかった。人払いして、今後の相談をした。
「騎士団長の家は、おそらく騎士団が捜索していると思う。そこで金があったら、それを押さえているだろう。貝殻の販売をやらせていた代理商の方は、伯爵もまだ把握していない。あそこを襲うのがいいと思う。」
つまり、代理店には、今もまだ金が残っている。それにマルチ商法は、自動的にどんどん続いていくから、代理店がある限り、金が入ってくる。しかし、ここまで伯爵の関心を引いてしまった以上、そこが残っているのは危険だ。だから、エルフヤクザの手で襲撃して、金や記録を押さえてしまうのがいいと思った。代理店の人には気の毒だが、自分の取り分と、あといくらかの金を渡して、町を離れさせるのが安全だろう。うかうかすると逮捕されたり、事情聴取を求められたりするかもしれないし、そうすると、黒幕がいるということが明らかになってしまう。
「分かった。今から若いのを連れて行ってくるね。」
昨日の話もしたかったけど、ちょっとその時間がない。
次に中央区の検察官の事務室に行った。
ちょっと席を借りて、告訴状を作った。
ぼんくら亭主は、騎士団長の同期で、金を貸したりする関係にあった。騎士団長は金に困っていた。そして騎士団長は、俺の部屋に潜んでいたが、そこでおしのさんを傷つけた。同じ日の夕方、俺は二人組に襲撃された。
ここまでは証拠から明らかだ。
そこから、ぼんくら亭主は、俺を傷つけることを騎士団長に依頼し、そのために、騎士団長が、おしのさんを傷つける結果になったということまでは推測が可能だ。
そうすると、亭主には、傷害の共同正犯の疑いが濃厚だということになる。そこで、速やかに逮捕して、身柄拘束の上、厳しく捜査して厳罰に処せられたい、と書いて、ゼット検察官に提出した。
「分かった。これで、その亭主から事情を聞いたら、四万十川元騎士団長の犯罪の証拠にも使える。それで、四万十川の余罪も積み重なるから、財産を没収する根拠を補強できる。ああ、それから今朝、四万十川の中央区の別宅を捜索した。大金貨が400枚あったので、こちらで保管している。没収できることが確定したら、被害者に回せると思うぞ。」
それはよかった。4000万あれば、被害者の損害もある程度は回復させられるだろう。もちろん本命は四万十川の領地や不動産だ。ん?元騎士団長と言ったか。
「昨日の段階で伯爵が解任した。」
あ、そうか。切るのが早いな。
「ところで、池君、今は丸腰なのか。」
昨日の試練で折れてしまった。隼人と一緒に買いに行く予定だけど、全然時間がない。
そういうと、ゼットは後ろのロッカーをごそごそ探って、剣を出してきた。
「押収品だけど、持ち主が死刑になったので、もういらんのだ。持っていけ。」
「ありがとう。ちなみに、どういう事件だったか聞いていいか。」
「聞きたいのか?」
「・・・いや、やめておく」
断ったのに、嬉々として説明してくれた。
「寝取られた亭主が、その妻と間男を殺したんだが、それでは飽き足らず、間男のお母さんを強姦して殺害した。それから財布を奪って逃げた。大丈夫だ、血は拭ってある。心配するな。」安心させるように、俺に向かってにっこり笑った。
聞かなければよかった。ともあれ、丸腰よりは、ましだろう。
「それから」
まだ用事があったようだ。
「伯爵の令嬢から侍従経由で預かったものだ。」
俺にも指輪をくれるようだ。金色の指輪だ。宝石はついていないようだ。
「すまないが、勇者見習いのものよりは、少し安いものだ。一応純金ではあるけど。丁度手頃なのがなかったらしい。ただ、伝説によれば、魔法の力を増幅させるんだそうだ。喜べ、君に魔法が使えたとしたら、これはすごい宝物だぞ。」ゼットはへらへら笑った。
俺も、「そうだな、俺に魔法が使えたとしたら、すごい指輪だな。」と笑って、指にはめた。
西島組にも顔を出したが、片桐組長は留守だった。とりあえず挨拶に来たことだけ伝えておいて貰った。
あとはいつものコースだ。
東区法務局の窓口嬢に挨拶して、次に、屋台のジュースを飲みに行った。それからキアナの道場に行った。サインを求められたのでサインした。額に入れてかざっておいて、客寄せにするそうだ。キックボクシングの講師も続けるように言われた。大規模に宣伝するつもりらしい。おっぱいを見せてくれたら考えると答えておいた。おじいちゃんは、相変わらず物陰からこっちを睨んでいた。八百屋によって、以前包帯を巻いてくれたメアリーに会ってきた。この前はキスしたが、次は、もっとすごいことをしようと考えている。忘れられてはいけないので、顔を出しておく。
宿屋に戻ると、騎士団の人たちが数人来ていた。雰囲気が物々しい。




