5 祝賀会
3話分投稿しました。これは3つ目です。
知らない人、知らないグループ。そういう飲み会が得意な奴はいないだろう。少し気後れする。しかも準主役として誘って貰っているとなるとなおさらだ。それでも、思い切って出席したら、あとで、「まあ楽しかったな」となるのは分かっていたので、頑張って顔を出すことにした。
というわけで、戦車に乗って、それからギルドに行った。
ギルドの窓口のお姉さんに聞いたら、祝賀会をしているということだった。場所を教えてもらって、居酒屋に行った。せっかくだから戦車からグレイを外して、中型犬サイズにして連れて行く。
「おっ!池先生だぜ!」
居酒屋は貸切になっていた。知らない顔ばっかりだけど、とりあえず入っていく。
ギルド長が大声を上げた。
「よしっ、お前ら、池先生は弁護士だが、冒険者としての実力もものすごいんだ。俺は、この目で池先生が隼人と一緒にコミカルベアーに刀をぶっ刺すところを見たんだからな!あのときのスピードは、本当に速かった。目をこすって見直したくらいだ。」
はい、こっそり魔法を使いましたから。
「つまりだな、俺が何がいいたいかっていうと、先生がコミカルベアーと闘ったのは、隼人の後ろにくっついていただけじゃねえってことが一つだ。それから、コミカルベアーの目の前に立つというのは、それだけでも賞賛に値する勇気だ。だから、今日は、隼人だけじゃねえぞ。池先生の勝利も含めての祝賀会だ!さっきも言ったが、ギルドの奢りだ、遠慮して飲め!」
うぉーっと歓声が上がった。遠慮する気配は全くない。
促されて、店の奥の席に通される。一言求められた。
「みなさんはじめまして。池です。」
困った。どういうノリにするべきか、ちょっと掴みきれない。これは冒険者の飲み会なんだけど、俺、弁護士だし。どっちに合わせても妙だし、中途半端なノリは滑りそうだ。こういうときは、あれだ、あれ。男の共通文化を使おう。
近くに座っていたおばさんの手をとって立ち上がってもらった。
「勝利の女神に!」と叫んで、頬にキスした。
幸い、独身の方だったようだ。旦那が血相を変えて立ち上がるということもなく、冒険者たちは大笑いして、そのまま乾杯した。ふう。
ギルド長の両脇を俺と隼人が座っている。隼人が俺に話しかけてきた。
「なあ、コミカルベアーの部位の討伐報酬と買取額が、総額で大金貨300枚くらいになるらしいんだ。」
3000万円か。すごすぎるな。
「貴重な部位がものすごく多いらしい。毛皮とか、でっかいもんな。」
「穴を開けたけどな!」
「大金貨150枚ずつでいいか。それで俺は装備品だとかで色々世話になったから、そのうち大金貨60枚をお前に渡すよ。」
たしかに装備品とか食料品は全額俺が負担した。もともと隼人の問題で、なりゆきで俺も協力することになったが、俺は本来隼人を見捨てても構わなかった立場だ。そう考えると、隼人のいう配分は適正だと思った。
「計算としては、そのとおりだとは思うけど、ここはきっちり半々で行こう。お前が立派な勇者になってくれたら、俺はそれで充分満足だよ。」
ちょっと押し問答になったが、そこは譲らなかった。折角の大仕事だ。妙な分け方をして最後を汚したくない気がした。
「これまでは、どっちかというと俺が隼人を助けてきた。でもこれからは隼人は勇者見習いだ。俺も色々と助けてもらうことがあると思う。まあ、そういうもちつもたれつの関係だって思っているんだ。だから、今までの負担分は気にしなくていいさ。」
対等の関係だということを強調しながら説得した。そうだな。よく考えてみると、隼人からすると装備品のための金を出して貰っていただけだと、借りが残るから落ち着かないんだろう。その気持ちは分かった。
「あ、そういえば、俺の刀が折れてしまったからさ、今度一緒に武器屋に行ってくれよ。俺、選び方が分からないから、アドバイスくれたら、それでちゃらにしよう。」
「そうか。池がそういうんなら、ありがたく報酬額は折半にしよう。」
納得してくれた。
そうだ、報告しなければ。
「隼人ありがとう。お前の教えてくれた薬、効いたよ。」ちょっと耳に口を寄せて礼を言った。
隼人は、ちょっと引いた顔をした。薬は、麝香猫人族の舌だ。効いたっていうことは入手したということだ。入手方法は想像もしたくないだろうしね。
ギルド組合長が話しかけてきた。
「真面目な話、池先生もギルドに登録しておかないかね。」
「え、俺弁護士。」
「いやいや。それは分かっているんだ。伯爵からも今日は色々仕事言われたんだろ。それは俺も分かっている。ギルドとしても、被害者の会には関係があるから、池先生がそっちで忙しくなるのは分かっているさ。しかし、いくらなんでも毎日そっちの仕事をしてるっていうほどでもないだろう。たまには城の外に出て、戦車を走らせたいっていうこともあるはずだ。そのときについでに採取や討伐とかやってくれたら、いい運動になるぜ。」
なるほど。なんか、週末は郊外で狩りをする生活ですっていう感じか。なにかものすごく優雅な生活な感じだな。
「冒険者ギルドに入れば、金を預かることができる。これは先生にとっては大きいと思うんだよ。弁護士ギルドっていうのはないから、現金の管理が大変だろ。」
隼人も言った。
「一緒に依頼をして欲しいときもあると思うんだよ。池にしか頼めないことは絶対に出てくると思う。」
そうだな。魔法が使える冒険者は、今のところ隼人だけだし。
「グレイも運動させないと、太るぞ」
隼人に駄目押しされて、たしかにそのとおりだと思った。
「分かりました。また明日にでもギルドに行って登録しておきます。よろしくお願いします。」組合長に答えた。
ルソーさんが近づいてきた。
「おっ、こいつはこの前のビッグウルフじゃねえか?先生、こいつ、小さくなれるんだな。」
「愛の力は偉大なんだよ。この子はグレイだ。こいつって呼ぶと機嫌を損ねるかもしれないぞ。」
冒険者たちが集まって、グレイを撫でたり、肉を食べさせたりしている。ビッグウルフの獰猛さと強さは冒険者たちには有名だから、みんな憧れの目で見ている。仲間として、俺も気持ちがいい。
「おい、俺のコップが空だ。」
隼人が隣に立っていた女に言った。
おや。
マーガレットだ。
隼人を変態扱いして報酬を独り占めしようとした女だ。
俺の目にルソーさんが気が付いて、説明した。
「隼人さんには、俺たちのパーティーに入ってもらうことになったんだ。でもマーガレットとの関係が問題だ。マーガレットは俺が立て替えた金を全然払っていなかったんだけど、隼人さんがそれを代わりに俺に返してくれた。その代わり、マーガレットは隼人さんの従者ということになった。」
おお。それは気分がいい。しかしそんな性悪女、後ろから刺されないか。
「大丈夫だ。従者となったからには、見捨てたり裏切ったりしたら、もうこの世界では生きていけない。それに隼人さんは、勇者見習いで、貴族に準じる立場だ。貴族の従者が主人を殺したかもしれないなんて、怪しまれるだけで、それで終わりだ。それはマーガレットも分かっていると思う。」
たしかに立場はわきまえているようだ。マーガレットは、「はい」と蚊の鳴くような声を出して、走って酒を注文しにいった。すぐに戻ってきて跪いて酒瓶から酒を注いでいる。見ていて、いい気分だ。正義は実現された。
。飲み始めた時点では夕方だった。俺も疲れきっていたし、隼人もそうだったから、早い目に失礼した。気持ち良く宿に帰ったあとは他の冒険者たちが楽しくやっていてくれたらいいだろう。だから宿屋についたときは、日没直後くらいだった。
ドアを開けるとティナちゃんが座って待っていた。
「ティナちゃん、ただいま」
「おかえりなさい、メンデス先輩。」
「勝ったよ。全てうまく行った。」
「はい。私、先輩のこと、信じてましたから。」
俺はベッドに座った。ティナちゃんも立ち上がって俺の隣に座った。
それから、俺は今日起きたことを話していった。魔法の話とかはカットだ。あと、四万十川騎士団長の、とある部位に関する話も省略した。おしのさんが目覚めた話をした。
今日の話をしている間、ティナちゃんは俺にもたれかかって静かに俺の話を聴いていた。なんだか、たまらなくなって、キスしたりしながら、話を続けた。
話し終わったときには、今日一日の興奮の勢いで、ティナちゃんを襲いたい気分になってきた。ティナちゃんも興奮しているみたい。
抱き寄せた。ティナちゃんは俺の背中に手を回した。しばらく躊躇っていたが、そっと身体を離した。
「メンデス先輩、わたし、もっとこうしていたいです。」
俺も同じだ。
「それは駄目だ。俺は今日酔っている。酔った勢いでそういうことをするわけにはいかない。それにほら、」
指差した。
グレイが部屋で中央に座っていて、こっちをじろっと見ていた。なんか恥ずかしい。
夜遅くなってしまったので、ティナちゃんを家まで送って、それで宿に帰った。熟睡したが、四万十川騎士団長の夢を見た。
読んで頂いてありがとうございました。
当初考えていたよりも終章が長くなってきています。途中で付け加えた部分とかがあるので、その分の結末もつけていきたいと思っています。
次の投稿は明日の予定です。引き続き、よろしくお願い致します。




