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3 事後処理

俺が殺したのか。それとも殺してないのか。俺のやることは、いつもぎりぎりセーフなのかアウトなのか、よくわからない。ま、人生というものは、善悪の狭間を行ったり来たりだ。


広場に戻ったら、伯爵たちはまだそこに残っていた。

ゼットを探す。

「どこに行ってた?」聞かれたが、「探したけどいなかった。」とだけ答えた。俺は血まみれになっているけど、さっきまでコミカルベアーと闘っていたから、その点では問題ない。


「騎士団長が逃げたことから、公金横領の疑いが高いということになった。記事だけではなく、俺からも伯爵にそれを説明した。決定的な証拠はなかったけど、ある程度調べはついていたんだ。月刊誌に書かれていた賭博やマルチとかは、事実かどうか知らんが、いずれにしても犯罪ではない。だけど公金横領となると逮捕の対象になる。今、騎士たちに捜索命令がだされたところだ。冒険者にも捜索が発注された。勇者見習いも参加しているぞ。」


伯爵の馬車が帰っていく。

「あれか、あれは令嬢と侍従だ。」

なるほど。つまり、侍従は、令嬢のパンツを最後まで死守したわけだ。お疲れ様、侍従。


「伯爵のところに連れて行ってくれ。」ゼットに頼んだ。それから、戦車に戻って陳情書と署名簿を手に取る。


伯爵は厳しい顔で俺の顔を見た。

「池殿、貴殿は何らかの関与をしておられるのか。」

あ、そうか。一応なんちゃって貴族になっているし、俺は伯爵の臣下ではない。格上か格下かの違いはあるが、貴族としては同列になる。だから敬語になるんだな。


正面から答えずに、脇から攻めてみた。

「ご存知のとおり、現在、オンドレの町周辺で、いかがわしい商法が蔓延しておりまして、被害者が多数に昇っております。被害額も天文学的数字となっています。もちろん、あのような商法に乗せられた者の軽率さは非難されるべきではありますが、あまりの状態に社会不安に繋がるのではないかと危惧しておる次第でございます。」

伯爵は厳しい顔をした。

「もう社会不安になっているといえるでしょうな。解決策として何かお考えはありますかな。あるなら端的に教えて下さらんか。」


よし、いい感じだ。


「首謀者の一人は、高位の騎士と聞いております。その者に金を支払わせて、被害者を特別に救済するのがよろしい。こういう場合は理屈抜きでばっさりやるのが一番です。」

上から口調で言ってやった。軍師気分だ。ま、もとはといえば俺が撒いた種なんだけどね。


「その高位の騎士については、疑いは濃厚であるものの確実な証拠がありませんな。それに現在逃亡中でもある。更にいえば、その者の領地は全て、王都のいかがわしいヤクザが担保として押さえていて、そっちの債権が優先してしまう。」


お、ちゃんと確認すべき点は押さえているんだな。相当有能な人物とみた。俺が黒幕だなんて気が付かなければいいけど。有能すぎて心配になってきた。


「そこまでお調べとは、かえって失礼致しました。そこで、


貴族特権法第332条1項


封地ヲ有スル貴族ハ、ソノ臣下タル貴族ガ、品位ヲ害スル行為ニヨリ、多数ノ領民ニ多額ノ損害ヲ与エタルトキハ、裁判所ノ許可ヲ得テ、他ノ債権ニ優先シテ当該貴族ノ財産ヲ没収シ、被害者ニ給付スルコトガデキル、


とあります。つまり、騎士の行為が証明できれば、その領地を没収できます。抵当に入っていても、それよりも閣下の差押えが優先するのです。」


「なるほど。しかし問題がある。」

伯爵の口調が実務調になってきた。仕事の話となると、儀礼を気にする人物ではないようだ。

「なんでしょうか。」

「騎士団長は魔の森に逃げた。単独で食糧も持たずに越えられる森ではない。逮捕できずに死亡したら、領地は、死亡の日から相続によって彼の息子のものになる。そうするとその条文は使えないことになる。」

そばに寄ってきた法務官も「そうにゃ」とうなずいている。


「失踪者という扱いにしましょう。つまり、現在発見できなければ失踪していることになります。今日、失踪届を法務官に提出すれば7年後に死亡したものとみなされます。」

そういったら、法務官が、

「失踪宣告の制度としては、そのとおりですにゃ。でも、捜索して死体が発見されたら、今日の死亡は動かせませんにゃ。」と口を挟んだ。

「そうです。したがって、捜索隊を呼び戻して下さい。」献言した。


伯爵は一瞬考えた。

要するに、俺の言っているのは、魔の森の中の騎士団長の死体を見つけてしまってはならない、見つけない限り騎士団長は死んでいないということになり、その領地などの財産を押さえられるということだ。少し卑劣な感じもするけど、違法ではない。そのあたりを考慮していたのだろう。

ゼット検察官が、

「違法ではありません」と助言した。検事だから、伯爵の法律顧問という位置付けにもなるみたいだ。


伯爵はうなずいて、そばにいたものに、「撤収の角笛を吹け」と指示した。


俺は小脇に抱えていた陳情書と署名簿を伯爵に渡した。

「なんだこれは」

「被害者たちの陳情書です。被害多額につき、特別のご温情を願い出ております。」


伯爵はそれを受け取り、「約束はできんが。」と言った。続けて、

「あとは立証の問題が残るな。それと、他の債権者が領地を競売に掛ける前に押さえておかなければならない。その件、うちの法務官殿やゼット検事とも協力して進めて頂けませぬか。このあとすぐ私の城に来て頂きたい。そこで関係者を集めて協議しよう。」と言った。


決断も指示も適確で速い。なかなか見所のあるハムちゃんだ。いずれにせよ、これで被害者には金が戻ってくるだろう。色々と人間関係とかは、めちゃくちゃになった人はいるかもしれないが、それは授業料だと思って諦めてもらうことにした。

あ、あと、ゼットはこれから何日も徹夜だな。今後は給料の遅配もなくなるし、諦めて貰おう。

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