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2 麝香

今回は2話投稿しました。こちらが2話目です。少し残酷な表現が含まれます。

「教会で見てもらっている人、おしのさんっていうんだっけ。眠り続けているけど、身体は弱っていかないんだよな。それで外傷がある。傷口から部屋中に満ちるほどのいい匂いがする。これで合っているか。」

「そのとおりだ。」


「麝香猫人族だ。」

「そんなのいるのか。」


「麝香猫人族っていうのは、普段からいい匂いを発しているんだけど、その血液に特定の加工をすると麻痺作用のある毒になる。飲むだけでは効かないけど、傷口から入ると、ずっと眠り続ける。数年もの間目がさめないこともある。これはほとんど知られていない話だ。おそらく王都の学院あたりの学者なら知っているだろうけど。」

「そんな毒があるのか。」


いい匂い。そういえばそういう奴がいた。四万十川騎士団長だ。あいつは麝香猫人族だ。たしかこの町で唯一の麝香猫人族のはずだ。月刊オンドレの記事にも書いたので、思い出した。


あいつがどうしておしのさんを襲うのだろうか。詳しいことはあとで考えよう。

「どうすれば目覚めるんだ?」

隼人は少し迷って答えた。

「舌だ。」

「舌?」

「麝香猫人族の舌を切り取って、それを乾かして粉状にする。それを焼いて煙を吸わせると治る。」


あいつの舌か。直感的には、気持ちわるっ!と思ったが、すぐにそれを入手することの困難さに気が付いた。どうしよう。考えていたら、ゼット検察官が駆け寄ってきた。


「おい、Xデーはもっと先じゃなかったのか。」小声で抗議してくる。

それから、ゼットは、ちょっと間をおいて、

「いや、それよりもまずは、おめでとう、だな。」

「ああ、ありがとう。」


「で、これはなんだ。お前が糸を引いているのか。」

ゼットの手を見ると、月刊オンドレが握られていた。

「おや、それはどうしたんだ。」伯爵の手に渡るのはもっとあとだと予想していた。


「町から商工会議所長の急使がやってきて伯爵にこれを届けた。台場の上は騒ぎになっている。お前が書いたのか?」

「知らん。しかしなかなかの名文だと聞いているな。」正面からは認めなかった。


「騎士団長が行方をくらましたんだぞ。さっきまでそこにいたんだが、伯爵が俺に月刊誌を渡すよう側近の騎士に渡したのを見て、横から奪い取って先に読んだらしい。騎士が俺のところに届けたときには、もういなくなっていた。」


「ちょっと探してくる。」


「おいっ」と後ろから隼人やゼットの声がするのを聞きながら戦車に向かって走った。グレイがそこで待っていた。

「なあグレイ。いい匂いのする麝香猫人族が、今どこかに行かなかったか?」

グレイは尻尾を振ってうなずいた。

「一緒に追いかけてくれないか。」

グレイを戦車から外して、その背にまたがった。


「行くぞ!」声を掛けたら、グレイが全力疾走を始めた。広場から出て、他人の目がなくなると、グレイは走りながら巨大化した。そうすると、更にスピードが上がる。俺はグレイの背の毛を握り締めて振り落とされないようにしがみついた。


走り続けた。いや、俺は走っていないけど。

グレイはものすごく早いから、あっという間に5キロくらいは進んだようだ。馬が血を流して死んでいる。ここで何かに襲われたのだろうか。

グレイがワウ!と声を上げてから、また走り出す。そうすると、大きな木があった。木の周りは薄暗く、雑草も生えていない。じめじめしていて、俺がグレイの背から降りると、靴が少し沈んだ。木の根元の暗がりに何かが見えた。


最初は何か分からなかった。赤い布だと思ったのは、四万十川騎士団長の身体だった。近くに折れた剣が落ちている。その周りに、イグアナのような動物が数頭死んでいた。グレイと一緒に近づいたら、騎士団長の上でごそごそしていたイグアナのような魔物たちが、走って散っていった。


「騎士団長、ここで何をされているのですか。」

聞いてやった。


「お前は。ああ、君か。丁度良い。わしはかなり血を失ってしまったようだ。止血したまえ。」

近づいて観察した。腹を食い破られている。それに、太ももにも大きな齧り跡がある。止血しても助からないだろう。もっとも助かるとしても助けるつもりはない。


「騎士団長、どうして逃げるのです。」

「台場の上で月刊誌が届けられていた。伯爵が一読して騎士に渡して検察官に持っていくように指示していた。まずいことが書かれていると思ったので、そいつから取り上げたら、酷い記事だ。・・・そうか、お前が書いたのか。」

俺が以前騎士団長に取材に行ったのを思い出したらしい。


「俺ではないです。そんな酷い記事だったのですか。でも逃げることはないでしょう。」

「うるさい。・・・早くわしの血を止めろ。」

あくまでも高圧的に命令してきた。


「どうして俺を殺そうとしたんです。」聞いてみた。

「殺す?何の話だ。」

「宿屋だ。宿屋の奥さんを傷つけ、俺も殺そうとしたんだろ。」

「なんの・・・ことだ。」

意識が混濁してきたようだ。

太ももを蹴飛ばして、意識をはっきりさせる。


「どうして俺を殺そうとした。」

「ああ。あの話か。宿屋の亭主とは小学校の同級なんだ。・・・報酬を出す、という、から、お前を殺そうと、して、・・・部屋で待っていたら、嫁が入って、きた。顔は知られているから、麻痺させようと、・・・思った。本当は、お前、を、・・・麻痺させて、森の近くで、すて、る、つもり、だったんだがな。」

にやりと笑いやがった。


「その麻痺を解除する薬がやっと見つかりましたよ。」

そういってやった。さっき侍従から渡されたナイフを取り出した。


「お、おま、え、まさか、や」

やめろという間もなく、近づいて、口をこじ開けて、左手の指で力いっぱい舌を摘んで引っ張り出した。侍従の貸してくれたナイフは、高級品のようで、切れ味がすごく良かった。騎士団長の抵抗は弱かった。刃を当てて押し込んだ。つるりという感触がしたかと思うと、騎士団長の口からびっくりするほどの血が噴き出した。


切り取った肉塊を近くにあった大きな葉でくるんでいると、グレイが唸った。さっき逃げたイグアナみたいなのが、また近づいてきているみたいだ。

「じゃあな騎士団長。そういえばマルチの件で借金は多少は返せたか。俺もお役に立てて嬉しいよ。」

騎士団長はもう聞いていなかった。あまりの痛みに弱々しくもがいていて、ほとんど意識もなかった。


「グレイ行こう。あとはイグアナが始末してくれる。」

そういって、俺は現場を後にした。後ろを振り向いたら、もう騎士団長の姿は見えなくて、イグアナみたいな魔物たちが山のように群がっているのだけが見えた。

読んで頂いてありがとうございました。

この先もほぼ構想はできているのですが、完結に向けて、いろいろとつじつまが合うか考えながら投稿しています。

明日も投稿させて頂けると思います。

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