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終 章  1 試練後の儀式

笑ってしまうぞ、この情景には。俺も隼人も今までにないほどの痙攣に見舞われている。周りでは歓声が上がったりしているのに、そしてコミカルベアーの死骸を見に行ったりしているのに、俺たちはひっくり返ってぶるぶる震えていた。周りの目からすると奇妙に見えたかもしれないが、勇者の儀式だと思ってもらうことにしよう。どれくらいレベルが上がったか、またあとで検証してみることにする。これだけぶるぶる震えるのだから、相当すごいかも。


足音が近づいた。騎士の人たちが俺たちに手を添えて立ち上がらせてくれる。

法務官が、

「決定。勇者の試練は無事完了した。本裁判所は、亀道隼人が偽勇者でないことを確認する、にゃ。」と宣言した。

周りが拍手する。


それから伯爵が進み出て、

「亀道隼人殿。貴殿は勇者たる試練に通過した。今後勇者と称することを、オンドレ伯爵として承認する。」と言った。大きな拍手が起こった。

伯爵は、ハムスターの顔をしている。ハム人族だ。細身で高身長、筋肉質で乗馬靴がよく似合う。全然可愛くないぞ。


隼人は、頭を下げ、

「伯爵閣下。お言葉光栄でございますが、私にはそこまでの実力がまだ備わっておりません。今後、勇者見習いと称することをお許し頂ければそれで充分です。」と答えた。実力に相応しない称号の恐ろしさが骨身に染みているのだろう。

伯爵は、

「なんと謙虚なことよ。」と言って、隼人の願いを聞きとげた。


伯爵が俺の方をむいて、

「勇者見習いを補助した池殿には、その勇気と献身を称え、当代限りの貴族に叙する。」と述べた。


「伯爵閣下。ありがとうございます。しかし、勇者見習いが貴族でないのに、補助の私がそのような栄誉を受けるわけには参りません。」


「そのようなご遠慮は無用だ。勇者見習いといえば、事実上貴族の称号に近いものじゃ。それに貴殿はオンドレの町で弁護士として活躍されており、公正な裁判の実現に尽力されているという実績がある。その実績を考慮し、かつこの試練に自ら立ち向かったことも評価すれば、勇者見習いに劣る扱いをする必要はない。」


なるほど。言われてみればそうかなと思った。なんか説得力のある人だな。


「ありがたくお請け致します。」そう答えた。いや、当代限り貴族って、何か違ってくるの?よく分からないけど、貰えるものは貰っておこうと思った。また拍手だ。いい気分だな。


次は伯爵令嬢の番だ。なかなか可憐な感じだ。透き通る声で述べた。

「勇者見習い、亀道隼人様。そして、その補助をされた貴族たる弁護士、メンデス・池様。あなたがたの勇敢な闘いは、とこしえに語り継がれるでしょう。」と述べた。


そして令嬢は、隼人に自らの指輪を与えた。俺のは用意してなかったみたいだ。どうしよう。こういうときは、ハンカチとか、くれたりするのかな。でも、指輪は売れるがハンカチは売れない。何か他のものにしろ。


そう思っていたら、令嬢は、俺の顔を見てから、ちょっと迷って、スカートの下に手を入れて、パンツを脱ごうとした。


「違う!」とみんなで声を揃えて止めた。びっくりした。すごくびっくりした。パンツくれてどうするんだよ。最近の若い人は、いったい何を考えているんだよ。いや、そうじゃなくて、俺にも光り物をくれよ。まあ、パンツもある意味では売れるかもしれないけど、討伐の報酬が伯爵令嬢の換金可能な使用済み下着って、それはまずいだろう。とこしえに語り継がれるぞ。


侍従が割って入った。

「では令嬢から池殿にはまた別途。」


用意しておいてくれるらしい。令嬢はちょっと頭が弱いのかね。それとも痴女な感じの人なのかな。できるだけ離れていることにした。だって、俺にパンツくれたら、ノーパンで帰ることになるんだろ。いくらスカート履いていても、そいつは伯爵令嬢として何か間違っている。


それから伯爵たちが立ち去っていくと、侍従と冒険者ギルド組合長が残った。


冒険者ギルド組合長が、俺にそっと、

「俺の役目に回ってこなくて幸いだった。」と言ってきた。試練に失敗していたら、伯爵への陳情をお願いすることになっていた。


組合長が隼人に対して、

「亀道隼人殿の功績を賞し、またその充分なる実力を認め、組合長権限により特例として冒険者ランクをBとする。」

妥当なところだと感じた。隼人も礼を言って受け入れた。


「それから池殿。池殿は弁護士業をされていると聞くが、冒険者に転職されるときは是非私のところに来られたい。歓迎するし、特別のランク待遇を考慮しよう。」

「ありがとうございます。でも、俺は組合長のパンツの方がいいな。」

悪趣味な冗談だったけど、みんなで、わははって笑った。


伯爵令嬢をネタにしたのはまずかったかもしれない。笑いの輪に加わらなかった侍従が、

「コミカルベアーを討伐された方は、その肝を切り取ることが慣例でございます。」といって、ナイフを貸してくれた。

そんな慣習があるのか。侍従って博識だな。


組合長が、「疲れているだろうから、それ以外の解体は俺たちでやるよ。いい闘いを見させてもらったお礼だ。無料でやるから安心してくれ。」と言ってくれた。


俺と隼人はコミカルベアーに近づいて、腹を割いて肝を切り取った。

その瞬間、俺はぶるって一瞬だけ痙攣した。隼人は、もっと長い間痙攣している。周りの目が心配だが、これも勇者の儀式っていうことで。


隼人がこっちを見た。

「今、スキルがあがったみたいだ。」

「うん?解体したことなかったっけ?」

「解体じゃない。調薬のスキルだ。」


隼人が続ける。

「俺は今まで薬草ばかり取ってたから、植物性の薬は詳しい。しかし動物性の薬は触ったことがなかった。それでだと思う。」

「ああ、なるほど。それは良かったな。」


「ああ。お前の宿屋の女の人が眠り続けている原因が分かった。」

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