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10 町で仕事の後始末を済ませる。

ここから第5章の終わりまで、3話投稿させて頂きます。

どうぞお読み下さい。

宿屋に戻って、ベッドに倒れこんだ。久しぶりの屋根とベッドだ。そのまま眠り込んだ。

人間の身体というものは、よほど屋根を必要としているのだろう。昔は洞窟に住んでいたんだもんな。


次の日、ティナちゃんが出勤してきたときには、俺はまだ寝ていた。

ティナちゃんと目覚めのキスをしたので、俺はかなり機嫌がいい。それからお湯を用意してくれたので、身体を拭った。後ろはティナちゃんがしてくれたけど、前は自分でやった。そこは俺なりの節度というものがある。


俺がいない間の報告を聞いたが、それほど大きな動きはない。強いて言えば、俺がいない間にぼんくら亭主がティナちゃんに言い寄ってきたという程度だ。妾ではなく正式な妻としてどうか、子供は是非王都のK私立小学校に入れよう、そこは人脈の宝庫だ、自分もそこで随分と有益な人脈を得たとか、そういうわけのわからない口説き方をされたそうだ。

阿呆は相手にしないように指示したが、指示されるまでもありませんって返された。


その他、いくつか済ませておくことがあるから、すぐに外に出た。


西島組の事務所で片桐組長と話をする。

「先生、王都での情報収集はかなりはかどっているぜ。やっぱり、四万十川の奴は、王都のヤクザの賭場に出入りしてた。借金の額は、ぴったり大金貨3500枚だ。」


3億5000万円だ。普通の生活をしていたら縁のない額だ。そんな額を遊びに使うという価値観に組長も俺も顔をしかめた。


「それで四万十川郷では、一昨年から税率が1.5倍になっている。これは、数字の上だとピンとこねえが、飢え死にするレベルだ。」


そうだな。つまり四万十川騎士団長は、自分の遊興費のために、領民の命を売り渡している人間のクズということになる。


こちらから報告する。

「マルチ商法の被害者が現時点で423人集まっています。みんな怒っています。こんなわけの分からない商法に騙されて、人生も人間関係も、なにもかも滅茶苦茶になったって言っているので、伯爵あてに陳情書を書いて提出しようと思っています。」


「そうかい。俺としては、あんな子供騙しに引っかかるほうが悪いとは思うんだが、先生の立場からすると違うんだろうな。」

「えーっと、まあそうですね。」本音では組長と同じだ。マルチ商法自体は、嘘をついているわけではない。詐欺的商法ではあるけど、騙しているわけではないし、現にそれで大もうけした人間もいるだろう。

「まあ、理屈だけでいえば引っかかった方が悪いんでしょうけど、よく分からずに乗ってしまう人も同情の余地はあるんでしょうね。」

当たり障りのない答えをしておいた。


あと公金横領の疑いもある。ゼット検察官が給料の遅配を嘆いていた。

「これは検察官とちょっと内々に話をしておこうと思っています。」

「そうか。そっちからも攻めることができれば、文句なしだな。」


「で、その被害者の会の陳情書の提出は、いつだ。」

「7月31日にします。」

この日は、試練の日だ。法務官に聞いてみたら、伯爵も騎士団長もみんな立ち会うらしい。そうすると、オンドレの町には高官がいなくなる。その隙に、片桐組長には月刊誌をばらまいて欲しい。伯爵たちが戻ってきたときには、抑えきれないくらいの騒ぎになっているはずだ。商工会議所の所長は残っているけど、直ちに月刊誌を発禁処分にするほどの決断はできないだろうと考えた。


そして隼人が試練に打ち勝てば、俺も伯爵と話しやすくなる。そのときに、陳情書を渡せば、四万十川にとってはダブルパンチだ。もっとも、隼人が失敗すれば、俺も含めて信用を失うから、そのときは、冒険者ギルドの組合長に頼んで提出して貰うことで話をつけておく予定だ。更に検察官にも横領の件で根回しをしておく。


「月刊誌の記事はどうかね。」

「ばっちり書けています。魔の森のテントで書きましたよ。」

「おおそうか。先生、魔物と闘う日々の中でも、こっちのことをちゃんと考えていてくれてたんだな。礼をいうぜ。」

「いえ。俺自身も、四万十川を潰したい気持ちで一杯ですから。一人の人間として許せないです。」


「よし分かった!では、7月31日だ。先生、ついに勝負のときが来たな。」


チーム流星のところに行った。

ターニャとアンドロポフと密談した。

台帳を見せてもらった。俺がいない間はターニャが計算をチェックしていたが、現時点では、チーム流星には、大金貨で2000枚以上入ってきている。これだけ稼げば、当面の組の維持には全然困らないだろう。あとで綺麗に精算する予定だが、俺の取り分は、その三分の一。つまり約7000万円弱ということだ。昭和中期の物価水準で7000万円はでかい。


それから被害者の会の話を聞いた。ギルド組合長も呼ばれて来た。組合長は、このマルチ商法のトップが四万十川だということは知らない。そのあたりは情報を切り離している。


「なるほど、池先生が陳情書を書くのですね。」

「はい。それで伯爵に救済をお願いするのです。」

損害賠償ではない。伯爵には直接の責任がないからだ。細かく言えば、伯爵の下で働いている騎士団長の不始末だから、賠償責任がないと言い切れるかは微妙なところだ。だけど、そんなところであえて喧嘩するのもどうかと思うから、ちょっと下手にお願いする方がいいだろう。だから陳情書だ。


「俺が提出してもいいんですが、31日は試練の日です。結果によっては、俺は事実上追放に近い扱いになるでしょう。そのときは、組合長から提出していただけませんか。」


「わかった。引き受けよう。」


実は、被害者の会では、救済資金が投入されたら、その5%を事務局に納付するということが決まっている。423人のそれぞれ10万円だから、約4000万円。そうすると、この陳情書で200万円の収入ということになる。これは被害者のほんの一部分だけだ。だから、もっと収入は増えると見込んでいた。

この業務については、俺が31日を無事に済ませられたら俺がやることにして、試練が失敗したら、冒険者ギルド組合長がチーム流星の協力を得て、やっていくことになる。


教会に立ち寄っておしのさんのお見舞いに行った。それから南区の町兵屯所に顔を出して、しばらく刑事弁護に対応できていないことをお詫びしておいた。事情は分かってくれているから、特に文句も言われることはなかった。先生頑張れよって言ってもらった。


それから中央区に行く。裁判所に行ったら、丁度一つ裁判が終わったところで、ゼット検察官をすぐに捕まえることができた。

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