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9 コミカルベアーの恐怖

今回投稿の2話目です。

広い場所に出るのは危険だ。逃げ場がないからね。しかし、足場の悪いところをずっと逃げていて思考力が落ちていた。いや、走っていたのはグレイだけど、俺も同じ気分だ。グレイは、そのまま空き地の中央に向かって走っていった。

少し遅れて、隼人が続く。


そこでグレイから降りて、コミカルベアーを待った。コミカルベアーは数歩空き地に足を踏み入れたが、なぜかそこで立ち止まった。


ぐおぉぉぉ!大きく吠えた。俺たちは一応はコミカルベアーの方に槍や刀を向けているが、奴の凶暴な雰囲気からいっても、ほとんど歯が立たずに敗れるだろう。


しばらく睨み合った。コミカルベアーは何度か吠え声を上げたが、耳が慣れてきたのか、恐怖心が麻痺しているのか、もうそれほど恐ろしくはない。

なぜかグレイも強気に、ウォーッ!と威嚇している。


緊迫した睨み合いは、数秒で終わった。コミカルベアーがくるりと後ろを向いて、静かに森の中へ帰って行った。


「助かった、のか?」自分でも声が震えているのが分かる。

「多分な。」隼人も声はしっかりしているが、手が震えていた。

とりあえずへたり込んだ。

グレイを呼んで、小さくなって貰って、頭を撫でる。「頑張ってくれたな。ありがとう。」


「あれに勝つ自信はないな。」結論から言った。

「刃物が使えたとして、かつ、魔法で時間を止めたりできたとしても、それでも無理がある。」

この世界では、勇者にどれだけの期待をしているんだろう。水準が高すぎるだろうよ。もっとさ、例えば腕立て伏せ200回とか、そういう頑張ればなんとかなるよ的なことを期待して欲しい。コミカルベアーは、いやほんと、洒落にならないわ。


「そもそもここはどこだ?」あたりを見回した。

普通の空き地とか広場とかと違う。もっと荒廃した感じだ。しかも地面がなんだか埃っぽい。

「これは・・・灰だな。」隼人が地面に手を付いていう。

「山火事でもなったのだろうか。」と聞いてみたら、

「ここだ。ここが試練の場所なんだ。」と答えが返ってきた。


法務官は、先日のドラゴンの空襲で何箇所か森が焼けたと言っていた。なるほど、ここは火球が落ちてきた場所のうちの一つなんだな。すごい火力だ。何もかも焼け落ちてしまっている。おそらく地面のかなり下の方まで熱が伝わったのだろう。もう夏だというのに、雑草すらほとんど生えていない。

「それで灰だらけなんだな。」納得した。しかしこんなに広いところでコミカルベアーを迎え撃つなんて、自殺もんだよな。今まで調子よく進んでいただけに、目標の高さに圧倒されて、言葉が出ない。


よたよたと立ち上がって、コミカルベアーがいたあたりに近づいた。

足跡がしっかりと地面に刻まれていた。下は水がぐちゃぐちゃしている。その上、灰が積もっていて地表が緩くなっているから、足跡が深い。


しゃがみこんで体毛を拾った。真っ赤だ。触ってみたら、針のように堅い。しかも先が尖っているから、注射針に使えそうなくらいだ。

「こっちの毛は青いな。」隼人が言って、拾ったものを見せてきた。たしかに青い。いや、それよりも大切なのは、その青い毛が柔らかかったことだ。

「なんだ、柔らかいぞ。」首を傾げた。

「濡れているからかな。」隼人が言って、俺の持っていた赤い堅い毛を取って、下の水に漬けた。

その瞬間、毛が、ぐにゃりと曲がって、青に変色した。


「どういう仕掛けだ!」二人で叫んだ。


考察する。わからん。

「隼人、俺は理科がずっと苦手だった。小学校でリトマス試験紙をうっかり破って、クラス中から悪口を言われて以来、全然駄目なんだ。」


「それだ!」隼人が叫んだ。

「ん?」

「リトマス試験紙だよ。あいつの体毛はリトマス試験紙なんだ。そして、酸性のもの、つまりあいつが怒ったときに出す体液を浴びると赤くなってしかも堅くなる。アルカリ性のものを浴びると青くなって柔らかくなるんだ!」

「そうか。面白いな。やっぱりコミカルなところもあるんじゃねえか。」と、よく理解できなくて、適当に答えた。


「木や草の燃えた灰が水に溶けるとアルカリ溶液になるんだよ。」

「隼人、博学だな。」


「学校で習わなかったのか。つまり、つまりだ。」隼人は考え込んでしまった。


「そんなことはいい。もう大丈夫だろうから、俺が捨てた荷物を回収しよう。ここはめちゃくちゃ怖いことが分かっただけでも収穫だ。」

といった。そうすると隼人が、

「そうだな。荷物を回収してここに戻ってくることにしよう。ここで野営だ。」

何か考えがあるようだ。

グレイに頼んで、荷物を持ってきてもらうことにした。巨大サイズのグレイなら楽勝だろう。コミカルベアーが執念深く俺たちを狙っているとしたら、危険だしね。


それから野営の準備をした。晩御飯を食べながら、隼人の考えを聞いた。灰の溶けた水がつけばコミカルベアーが柔らかくなることは理解した。それから俺たちは一つの計画を立てた。


それから数日は、隼人は投槍を中心に練習をした。俺は別の練習。本当は罠を用意したかったが、火球が落ちた場所は数箇所あって、どこで試練が行われるか分からない。それにこれだけ広いと罠を張っても空振りになるのが落ちだ。


レベル上げは、その後ほとんど進まなかった。特に隼人は、伸びしろを使い切ったのか、劇的な技術向上はなかった。もちろん隼人は勇者だから、本当はもっと伸びるのだろうけど、今までの異常な伸びは、過去の蓄積があったからだろう。

俺はちょこちょこ魔物と闘っていたおかげで何度かレベルが上がったみたいな感覚があった。もっともそれでどれくらい強くなったかは全然分からない。

隼人によれば、隼人自身は、今の時点でCランク上位程度の実力と見積もっているらしい。俺については、「池はDランクくらいの実力はあると思うよ」と言われた。なるほど。冒険者としても一応一人前になったくらいのレベルか。俺が15歳だということを考えると、かなりすごいのかもしれない。俺にも成長補正がある程度は与えられているんだろう。そういえば、マーガレットがDランク、ルソーさんがEランクだったか。


ともあれ、魔の森でできる準備はほぼ終わった。

俺は町に一度戻ることにした。隼人一人で魔の森の奥にいるわけにはいかないから、最初にレベル上げを始めた森の脇のところで、しばらく一人でやっているということになった。気が付けば、もう7月も下旬になっていた。


これからオンドレの町で色々なことの身辺整理を済ませておこうと思う。

読んで頂いてありがとうございました。

次回の投稿で、闘います。

おそらく夜に投稿できるかと思いますので、引き続きお読み頂けますと幸いです。

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