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6 更に奥地を目指そう

森は丸い形をしているのではなく、荒野との境目はぐねぐね曲がっている。あるところでは森は引っ込み、あるところでは突き出している。荒野から森に向かって歩いていくと、少しずつ木が増えて行って森要素が強くなり、気が付いたら森の中だ。


俺たちが昨日野営したのは、そういう森の脇のあたりだ。ちょろちょろと木が生えているけど、基本は雑草がちょぼちょぼ生えている荒地なところだ。


そこで隼人が槍と盾を構えて、ウサギを突き刺していた。すごくやりにくそうだ。


とりあえず声を掛けて、ティナちゃんのサンドウィッチを一緒に食べた。あ、そうか、紅茶か何かを買っておけば良かったんだな。そうするとお茶も飲めたはずだ。

そう考えていると、隼人が、

「この草はいい味がする。」といって、俺が買ってきたお鍋セットを焚き火に掛けて、お茶を入れてくれた。たしかになかなか美味しい。疲れがとれるようだ。


「午後はどうする?」

「グレイもいることだし、もう少し奥に行きたい。池はどう思う?」

「そうだな。」ちょっと考える。隼人はもう少し大きな的を相手に闘った方が戦いやすそうだし、レベルも上がりやすいだろう。俺もグレイと一緒に支援できるだろうから、多少の危険は冒すべきだと考えた。


「森に向かって、獣道みたいなものができているようだ。そこから入っていって、見通しの良さそうなところにテントを張りなおそう。そこなら、もう少し大きな魔物が出るんじゃないかな。」意見を言った。

「分かった。それでいこう。」


お昼を食べ終わって、テントを仕舞った。昨日は俺が張ったんだが、仕舞うのは俺と隼人だ。隼人は元軍人だからか、作業が早くて的確だ。見ているだけでも勉強になった。

綺麗に畳まれて、ぴったりと袋に収納されたテントやその他の道具類を戦車にくくりつけ、俺と隼人が戦車に乗ってグレイに引っ張って貰った。

森の小道みたいな感じの獣道を進んでいく。30分も進んだあたりで、少し広場みたいなところに出てきた。


俺が拙いながらもテントを張ったり作業している間に、隼人は広場の端をぐるりと回って、魔物を探している。どすどす音がし始めたから、何か見つけたんだろう。ちらちらとそっちを見ながら作業を進めている。なんか猪みたいな奴だ。強そうだけどとりあえず危なっかしい感じはないので、こっちの作業に専念した。グレイは隼人に付いていってもらっているので、さらに安心していいだろう。


「やったぞ!魔猪を狩ったぞ!」

隼人が大声を上げる。どうやら順調なようだ。


「俺も作業が終わったところだ。これからは俺も一緒に行くぞ。」

「ああ、頼む。」

「ところで魔猪って、どれくらい強いんだ?」

「そうだな・・・。ソロで倒すとなると、DかEランクくらいか。」

俺には冒険者の知り合いがほとんどいない。伯爵の城までの道を護衛してくれたルソーがEランクで、この前隼人に難癖をつけて報酬を丸取りしようとしていた性悪女のマーガレットがDだった。マーガレットくらいになると、かなりギルドでも態度がでかかったから、そういう意味ではDランクとなると、ある程度の地位があるということだろうか。見たところ隼人は負傷もしていないし、比較的短時間で退治していたから、そういう意味ではDランク相当ということかもしれない。


「よし、この調子で行こう。」

俺も一緒に闘うことにした。


広場の端は一周して、周辺に魔物がいないことが確認できた。

それから広場を離れて森に少しずつ入っていく。

「いた。あれは小物だな。武装狸だ。」隼人がいう。

「よし、あれは俺に任せてくれ。」

そういって、俺は隼人のやり方を思い出す。


「おいっ、そこで何をしているっ」誰何した。ちょっと違うかもしれない。

武装狸は、かなり気が短いらしい。なんか無礼な言い方をされたみたいって思ったらしく、ふがふがいいながら突っ込んできた。

ふっ、遅いな。キアナちゃんの突きを何度も見せられた俺にとっては、こんなものなんでもない。一刀両断した。

グレイが、「お見事!」という感じで「ワン!」といった。


これ、ものすごく楽しい。男子が冒険者に憧れる理由がよく分かるわ。

夢中になって探そうと思ったけど、ここに来た目的を思い出した。そうそう、俺はあくまでもサポート役だからね。


隼人が更に魔猪を見つけた。

「俺が盾で一度スピードを殺す。それで、奴は俺の後ろに流れてくると思うので、できれば足を切ってくれ。そうするとあとは俺がやれると思う。」

了解だ。


隼人が魔猪に声を掛けた。

「おい、そこのお前、お前だよ。聞こえないふりしてんじゃねえよ。俺が怖いのかよ。はっはっは。」

どうやらそういうのが冒険者の流儀らしい。

俺も一緒になって言ってみた。

「アニキぃ、こんな弱っちい奴、ぼっこぼこにしてやってくれよ!はっはっは!」

魔物っていうのは、挑発に弱いらしい。こっちに突進してくる。


隼人は槍で巧みに牽制して、魔猪の勢いを殺しながら、斜めの姿勢で盾ごとぶつかった。隼人はよろめくけど、魔猪もふらふらしながら、隼人の脇をすり抜けて俺の目の前に来た。ここは安全策でいくべきだろうと思って、

「我欲止時間!」と叫んで、奴の前足を一本叩き切り、そのまま走り抜けた。これでまた、魔物と俺の間には隼人が入ることになる。


隼人が、体勢を立て直して魔猪の後ろから槍を突き刺した。後ろって、なんか嫌だな。嫌だけど効果的だったようだ。魔猪は生命力の塊みたいな感じだったが、隼人が突き刺した槍でぐりぐりやっていたら、すぐに動かなくなった。


「うぉっ!」俺の身体が痙攣を始めた。どうやらレベルアップらしい。この感じだと刀術かな。


しばらく休ませて貰うことにした。それからも隼人は、魔猪を何頭か狩った。


「そういえばさ」

休憩に来た隼人に聞いてみた。

「いわゆる環境保護的な観点から、乱獲っていうのはどうなのかね。」

「ああ、減った分だけまた増えるから心配ない。少し時間は掛かるけど。」

すごいな。無尽蔵の資源があるわけだ。

「俺は猪の解体をしているから、隼人はそのまま続けてくれ。」

筋肉痛はほとんど感じない。レベルアップにも慣れたのかもしれない。

「そうだな、グレイがいてくれると安心だし。」


魔猪の肉が大量に出た。これは売るべきだろう。俺たちとグレイでは食べきれないし、もったいないからな。できるだけ綺麗に切って、袋に入れて戦車に繋いだ。当分町には帰らないつもりだったけど、やっぱりまた帰った方がいいかもしれない。しかしそうすると時間が勿体ない。その間グレイも俺もいないから、隼人一人になってしまう。


俺の方も落ち着いてきたので、また隼人に合流した。

更に広場を離れて森の奥に入っていく。

グレイが足を止めた。ぐるるるっと、うなっている。

「どうしたグレイ?」聞いてみた。森のずっと奥の方を睨んでいる。

隼人が「近づいてみよう」といった。そういうとこ、勇者体質だよな。普通は「そろそろ夕方だし帰ろう」だろ。


小さな広場に人影があった。いや、人じゃない。もう少し小柄だ。子供でもない。


ゴブリンだ。


おおっ、ついにゴブリン見たよ!すごいよ、ゴブリンだよ!


木の棒みたいなのを持っている。何匹か剣らしきものを持っている奴もいる。ゆっくり数えた。全部で8匹、剣を持っているのが3匹だ。


「やるか。」隼人が小さな声でいう。これは質問じゃない。隼人は完全にやる気になっている。


作戦を立てた。基本は魔猪と同じようにしようということになった。

まず隼人が出て行って挑発する。それで受け流した奴を俺が殺る。グレイは馬の大きさのまま脇に隠れていて、俺の合図で奇襲を掛けるということになった。


隼人が広場に出て行った。

「おや、誰かと思ったら、ゴブリンの皆さんじゃないですか。なんか臭いから、糞でも落ちているのかと思ったんですが、嫌ですねえ、ゴブリンさんでしたか。これだったら、糞の方がまだ我慢できる匂いでしたよ。」

挑発のレベルが上がっている。どうしてそんな嫌な言い方をするんだ。勇者っていうと、本当は主人公なんだぞ。

俺も本当は一緒になってゴブリンの悪口言いたいけど、俺は森の影に隠れているから、今回はなしだ。


ゴブリンは怒ったようだ。全員が一度に来ず、剣を持った三匹が先に突っ込んできた。

隼人は、最初に近づいた奴を槍で一刺しして、二番目に来た奴を盾で流し、三番目は抜いた槍で牽制した。

俺の前には例によって盾で誘導されたのが一匹。これは俺の存在には気付いていなかったけど、念のために時間を止めて、その一秒で切り倒した。

その間に隼人も三番目をやっつけたみたいだ。


あとは木の棒を持った5匹。これが一塊になってこっちにやってきた。

隼人が、

「我欲止時間!」と叫んだ。次の瞬間、5匹のうち4匹が倒れていて、あとの一匹もすぐに隼人の槍の餌食になった。


それから隼人も俺も数秒間、いつもの痙攣に身をゆだねていた。痙攣の時間も短くなっているようだ。

「わっはっは、勇者どの、また槍の腕を上げられましたな。」そう褒め称えると、隼人も、

「弁護士殿こそ、刀の扱いは、もう万全ですな!」と答えた。

二人で笑った。いい気分だ。


それから聞いてみた。

「すごいな!1秒の間に4匹もやったのか?」

隼人は妙な顔をしている。

「池、お前が時間を止めている間って、一秒程度なのか?」

「そうだけど、お前は違うのか。」

「ああ。3秒くらいはあったと思う。」

「えー、なんか勇者様ってばずるい!」冗談っぽく言ったが、これはいい情報だ。隼人は、潜在力はかなり高いようだ。先に期待できる。

本音をいうと、少し妬ましい。そうはいっても、隼人はこの世界に来てから15年もの間、不遇だったわけだから、俺が奴を羨ましがるのは筋違いというものだろう。


ちなみにゴブリンの集団を二人で討伐できるのなら、Dの上位かCランクくらいの感覚らしい。

出番のなかったグレイは機嫌が悪かった。


ゴブリンの死体はそのまま放置しておくのは気分が悪い。一箇所にまとめて火をつけることにした。

それは俺がやることにして、その間隼人は薬草を集めていた。俺も作業を終えてちょっと手伝う。結構いろんな草を覚えた。できるだけ早く俺も草の種類とか調合の仕方とかを覚えて、隼人の雑事を取り除く方針だ。


夕方になったので、広場に戻り野営の準備を始めた。

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