3 感動の再会だ
利用するだけ利用して、あとは誤魔化して連絡を途絶えさせた女に再会したとき、どうやってその場を切り抜けるべきだろうか。
幸い俺は今まではそんな経験はなかった。
これが初めてだ。修羅場という奴だろうか。もっとも俺の目の前に立ちはだかっているのは、メスのビッグウルフだ。もう一月以上前になるが、伯爵の城からの帰り道に襲われた。それで、にっこり笑顔でなんとか切り抜けて、「また遊びに来るよ」といってそのまま忘れていたんだった。気まずい。いや、覚えていたんだけどねっ!会いたいって、俺も思っていたよ。どうしても、ほら、仕事とかさ。なんか言い訳が頭の中を猛スピードで走りすぎていく。ビッグウルフはにこりともせず、俺の顔をじっと見ている。
イケメンになってから初めて分かったことだけど、こういうときは強気に出なければならない。
「お前と一緒に住みたいと思ってたんだぞ。だけどさ、お前、結構でかいじゃん。俺の家に入らないんだよね。」スキル(悪いのはお前の方だろ)を発動した!
ビッグウルフは黙って俺を睨んでいる。
「俺、お前のこと本当に気に入ってるんだよ。もうずっと一緒に住みたいくらい。お前に名前をつけようと思って、ここんとこずっと考えてるんだ。だけどさ、お前、小さくなれないだろ。俺の方ばっかりに苦労させるなよな。」
こういうのを下種の言い分っていうんだろうな。自分で言ってて嫌になってきた。
ビッグウルフの尻尾がゆらりと左右に揺れた。
「お前も分かってくれるか。本当なんだよ。お前を連れて帰りたいんだよ。」
ビッグウルフが甘えた声を出しながら、俺に顔を近づけてきた。
鼻や喉を撫でてやった。
ビッグウルフは、空を見上げて、
「ウォーン!」と遠吠えした。そして、ビッグウルフの身体が光りだした。まぶしくて何も見えなかったが、光が収まったら、目の前に中型犬くらいの大きさの狼が俺を見ていた。
「お、お前、小さくなれるのか!」
「ワンワン」狼というよりは犬みたいな感じで尻尾を振りながら答えた。
なるほど。これは使えるかもしれんな。
「お前、あっちの馬と同じくらいの大きさになれるか?」ちょっとずるい手を考え付いた。
「ワン!」なんか俺に指示されてそれに従うのが楽しくって仕方ないらしい。
あっという間に馬と同じくらいの大きさになった。戦車についている貸し馬は、ものすごく怖がっている。ヒヒンと鳴いたかと思うと、大量のおしっこをした。見なかったことにする。一応レディーだしね。
「なるほど。お前すごいな。どんな大きさにもなれるんだな!あ、そうだそうだ、干し肉食べるか?あ、食べるときには、さっきの小さいのに戻ってくれ。」
持ってきた食料を出した。
よろこんで食べている間に集めた薪を積む。まずは小さな枝や枯葉を集めた。
「我欲小着火」
成功した。火が大きくなっていくうちに、解体中だった肉を適当な大きさに切って、枝にさして火の近くに置いた。
さて、説得の時間だ。
「お前、俺と一緒に町に来るか?狭いけど俺の宿屋の部屋で俺と一緒に住むか?」
「ワンワンワンワン!!」ものすごい勢いで尻尾を振っている。
「そうか。俺も嬉しいよ。ただな、一つ困ったことがあるんだ。」
「ワン?」
干し肉をあっという間に食べ終えたので、抱き寄せて膝の上にビッグウルフの頭を乗せて、優しく撫でる。
「あの貸し馬のことだ。いや、あいつは一時的にちょっと借りているだけなんだけどな。俺にはずいぶんよくしてくれているんだ。」
「ワン!」私の方が役に立ちますよ!という感じで答えた。
「ほら、俺ってさ、戦車に乗るじゃん。そうすると誰かに引っ張って貰わないといけないんだよね。うーん、でも引っ張るっていうのは、なんかお前のような勇敢な戦士、誇り高い女にそんなことをさせるわけにはいかないし・・・。」
ちらっとビッグウルフを見る。ビッグウルフは、真剣な表情で戦車を見ている。
「大事なお前を荷馬代わりに使うわけにはいかないんだ。でも、お前がいると貸し馬が怖がって困る。」
俺とビッグウルフは二人で考え込んだ。俺はビッグウルフの頭から少しずつお腹の方を撫でていく。ビッグウルフは今や俺の膝の上で腹を出してごろごろしている。
「まあ、あれは荷車じゃなくて戦車なんだよな。ある意味、あの戦車を引くっていうことは、俺とともに闘うっていうことだ。俺としても、本当に信頼できる奴にしか戦車を引かせたくないみたいなところもある。」
「??」・・・「!!!」
「お前、俺と一緒に闘ってくれるか?」
ビッグウルフにはちょっと難しいようだったが、しばらく考えてから飛び上がって、俺の顔をなめ捲くりながらすごい勢いで尻尾を振った。
どうやら説得に成功したようだ。
「よしっ!試してみるか!」
貸し馬を外して、木に結び付けておいた。
それから馬くらいの大きさになったビッグウルフに戦車をつけて、後ろに乗ってみた。
「ゆっくりでいいぞ!」
声を掛けたが、まだ力の調節がうまくいかないらしい。いきなりものすごいスピードで発進した。
「うわぁっ!」あわてて戦車にしがみついた。「もっとゆっくりで頼む!」叫んだら、なんとか普通のスピードに落としてくれた。
テントの周りをちょろちょろ走り回って、お互いの呼吸があってきた感じがするまで練習した。チーム流星の戦車を借りて乗ってみたときも楽しかったけど、こっちはそれとは比べ物にならないくらいに楽しい。力の強さがぜんぜん違うから、戦車が進むときの安定感がすごい。
そろそろいいかと思っていたら、丁度隼人が戻ってきた。
「おわっ!なんだ、貸し馬が狼になったのか。」驚いている。
「隼人、こいつは俺の新しい仲間だ。名前は」
しまった。名前をまだ考えていなかった。
「・・・お前の名前は、・・・そうだ、グレイだ。」灰色狼だからな。
グレイは、名前が気に入ったらしく喜んでいる。
「グレイ、この男は俺の仲間の隼人だ。仲良くしてやってくれ。危ないこともあるだろうが、守ってやってくれ。」
「ワン!」
グレイが仲間になって、今後の展望が一気に明るくなった。
これで戦車での移動がものすごく楽に速くなる。街中では護衛代わりになってくれるだろうし、テントでは夜の警戒をしてくれるだろう。食べ物は隼人が退治した魔物を食べさせればいいし、なければ頼めば自分で狩ってくるだろう。身体を小さくできるから、その間の食糧の消費はそれほど心配しなくてもよさそうだ。これはいいぞ。
グレイを犬の大きさに戻らせて、丁度焼きあがった肉を与えながら、俺は笑いが止まらなかった。隼人にも焼けた肉を渡して、お昼ご飯にした。
食べ終わったら、また隼人のレベル上げだ。




