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6 町兵とヤクザ(ドワーフでたよ!)

階下に降りてみた。食堂には客がほとんどいない。この世界では、基本的に一日二食らしい。特に仕事上の事情があると、間食みたいな感じでお昼ご飯を食べることがある程度だということだ。だから、人が少ない。おしのさんも暇かもしれないと思ったが、なんか雰囲気がおかしい。


制服を着た男が数人いる。その中に囲まれているのは・・・ドワーフだ!ドワーフのおじさんだ。はじめてみたよ。なんか揉め事かな。おじさんがなにか言っている。


「俺じゃねえよ。絶対そんなことしてねえよ。無実だ。」

おしのさんがカウンターで見ていたので、こっそり聞いてみた。


「通りで殺人事件があったんだって。目撃者がいて、顔に傷跡のある若いドワーフが犯人だったって証言したみたい。それで町兵さんたちが聞き込みに回っていたんだけど、そのときにあのお客さんが眼に留まったらしいの。池君、私怖いわ。」


ドワーフは、大声を出した。

「今日の朝のことだろ!俺は仲間のドワーフと朝飯を食べていたんだ。人殺しなんかするわけがないじゃないか。」

町兵のなかの偉い感じの人が言い返す。

「そんなのは口からでまかせでいくらでも言えることだ。お前は若いドワーフだし、顔に傷がある。この町のこの界隈で、そんな奴はほとんどいない。」


かなり疑われているな。「ヤクザだからね。あの人。うちの店によく来るのよ。町兵さんも知っているから、疑われているのね。池君、私怖いわ。」

おしのさん、怖がっているな。これだけアピールしているくらいだから、よほど怖いんだろう。まあ、それはそれとして。真面目な話。


ちょっと口を挟んでみようか。いけるかな。こっちの常識が分からないので、馬鹿なことをいう子供だと思われてしまうかもしれないけど、そのときは、イケメンですからうっかりしましたとでもいえば許してもらえるだろう。


「あの、ちょっといいでしょうか。」近寄ってみた。

「つまりですね。この人は友達と朝飯を食っていたというけど、それが嘘なんじゃないかっていう話ですよね。そうすると、この人から、いつ、どのお店で誰と朝ごはんを食べていたか、そこで何を食べたか、連れは何を食べたか、何の話をしたか、それからどこに行ったかを聞いて、その友達からも同じことを聞けばいいんじゃないですか。」


町兵が俺を見る。驚愕している。警察手帳みたいなのを落とした人もいる。俺、ものすごいことを言ったみたいだ。これは、世界を変える発想かもしれないね。


「そこまで細かく口裏を合わせておくのは難しいでしょうし、この人が言っているのが本当だったら、友達も絶対に同じことが言えるはずです。どこで何を食べたかとかくらいは覚えているでしょうから。」


ドワーフが横からまくしたてた。

「そうだよ。そうしてくれよ。俺は何も隠し事なんかしねえよ。俺は、今朝、8時過ぎに、三丁目のドワーフの健太と、カフェ・フルールで朝飯を食ったんだよ。俺はオムライスを食べた。健太は、えっと、そうだ!リゾットを食べてたよ。健太に聞いてくれたら、六郎と食べたっていうって!」

オムライスとリゾットだって。可愛いものを食べる二人組だな。


町兵の一人がいう。

「三丁目の健太なら知ってる。たしかあいつもヤクザだったな。お前と同じ組か。」


「そうだよ。西島組だ。俺とあいつは同期なんだよ。どっちもドワーフだろ。それに、同じ時期に同じ少年鑑別所を退所して、そのまま組に入った。だから大抵は一緒なんだ。昨日の夜は当番で事務所に詰めてた。それで一緒に事務所を出て、歩いてカフェ・フルールに行った!そこでの話は、組のことがほとんどだった。細かい内容は勘弁してくれよ。ぺらぺら喋るとオヤジに怒られる。でも組の話以外もしたよ。健太が惚れてる女の話だ。お咲ちゃんっていうんだ。もっともこれも話せねえな。健太が恥ずかしがるといけねえ。それから俺の娘の話だ。2歳なんだが、どうも才能がある。将来は日曜学校の先生とかになるんじゃないかって思うんだ。これは話しても構わねえ。」


町兵がいう。

「分隊長、健太はヤクザですが、基本的には正直者です。嘘のつけない性格でして、あいつがこの男と同じことをいうのなら、まあそれは確かでしょう。」

偉い感じの人が考える。この人、分隊長だったんだな。

「そうか。じゃあお前ひとっ走りして聞いてみてくれ。さっきこの少年が言った項目は覚えているな。それを健太の口から説明させるんだ。こっちから聞いて間違いないか確認を求めると、はいそうですって答えるかもしれんからな。」


分隊長が六郎氏の方を向く。ちょっと困った顔をした。まだ疑いが晴れたわけでもないし、かといって、確実に犯人だと言い切れないような状況になっているからだろう。

「とりあえずそれまでの間、屯所で待っていてもらおうか。」


そのとき、別の町兵が入ってきた。

「分隊長、鑑定士に調べさせたところ、凶器の刃物は、犬人族がよく使うタイプの短刀でした。」

「おい、そういうことを容疑者の前でいうな。取調べのときに確認すべきことだ。」と分隊長が答える。そうだよ、その辺は基本だよ。しかし、犬人族が使うタイプとなると、やっぱり六郎氏が犯人という感じではなくなってくるよな。じゃあ、目撃者が嘘をついたことになる。


俺が独り言のように

「えっと、そうかあ。でも、目撃者はドワーフって言ってたってことだし、そうすると、犬人族の短刀っていうのが間違いなのか、それとも」

「あっ、目撃者というのは、犬人族だった!」町兵たちがびっくりした顔をして口々に叫ぶ。この世界の人たちは、素直ないい子ばかりだな。


その後、町兵さんたちは、ばたばたと店を出て行った。ドワーフの六郎氏が俺の方を見る。


「兄ちゃん、ありがとうよ。疑いを掛けられるだけでも厄介なところだった。しっかし、兄ちゃんはすごいな。よくあんなことを思いつけるもんだ。しかも兄ちゃんイケメンだし。」


おお、俺にも才能があったのか。誠実なだけが取り柄の平凡なイケメンですって思っていたんだが、やっぱり異世界とは技術ギャップがあるんだな。


おしのさんが間に入ってきた。

「私からもお礼をいうわ。お客さんは常連さんだし、この宿で逮捕されたってなると、外聞も悪いからね。」


それから六郎氏の方を向いた。

「お客さん、この子、避難してきた子なの。ここにしばらくいるんだけど、もうじき宿代が切れると思うわ。お客さんも、この子に感謝するのなら、2,3日分くらい持ってあげてもいいんじゃないの。」

おしのさんありがとう!俺には言いにくいことをずばっと言ってくれたぞ。


六郎氏も、うんうんとうなずいた。

「そりゃそうだ。もし逮捕されてたら、勾留期間も含めて二十三日の間は出られないところだった。その間稼げねえとなると、こっちも大損こくところだったからな。よし、俺の手持ち全部だ。」金貨1枚出してくれた。1万円ということだな。一泊2千円で五泊分ということになるそうだ。二食付きで、一応清潔。風呂なし電気なし空調なしだったら、まあそんなもんだな。なるほど。金銭感覚がわかってきた。


六郎氏太っ腹だ。ヤクザって儲かるのかな。俺はしばらくは遠慮していたが、おしのさんと六郎氏から強く勧められて、結局はありがたく受けることにした。っていうか、おしのさん、商売上手だな。


そういえば、23日間の逮捕勾留って言ってたな。日本と同じじゃないか。その辺は詳しく調べてみたい。だがしかし、その前に、俺には行かねばならぬところがある。


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