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21 異議あり!パンティーは関係ありません!

まずいところを見られたとき、人はどうして笑ってしまうのだろうか。その理由を解き明かした人がいたら、是非教えて欲しい。


入ってきたのは顔に傷のあるドワーフだった。

六郎氏の弟か。七郎氏かな。

「あ、先生、取り込み中だったかな。」

ティナちゃんが、キャッという声を出して、顔を覆って出て行ってしまった。六郎氏とティナちゃんは顔見知りだったはずだ。かなり恥ずかしいかもしれない。

「あ・・・さっきのは見なかった方向でお願いします。」

「うんうん!分かった!俺はなんにも見なかった!大丈夫だよ、俺は口が堅いんだ。」

以前、ドワーフ仲間の健太の惚れた女がお咲っていうことをペラペラ喋ってなかったか。


「で、弟さんがパクられたって?七郎さんが?」

話を戻す。

「ん?七郎?なんで?弟は、ジョナサンっていうんですけど。」

俺が妙なことを言ったような顔をされた。六郎氏の弟なら七郎氏と思ったのだが、この世界の人は、そういう発想はないのか。

ともあれ接見に行こうと思ったら、もう裁判所にいるらしい。法務官の日程の都合で、すぐに裁判をするそうだ。何をやらかしてつかまったのかも、分からないまま、裁判所に走った。

とりあえず報酬は西島組が持つというのでその点は安心だ。


・・・


「平成23年6月18日午後1時25分ころ、オンドレ町中央広場から王都に向かう乗合馬車の車両内において、被告人は、被害者であるマルシア・ロドリゲス嬢(当年16歳)が隣の座席に座っているのに乗じて、被害者の足の間からスカートの中に左手を差し入れ、約2分30秒間の長きに渡り、その股間部周辺を執拗に撫で回し、もって強制わいせつを行ったものである。」

ゼット検察官が起訴状を朗読した。


っていうか、展開速いだろ。俺、いま裁判所についたところなんだが。

ジョナサン君がどの人かもよく分からないし、マルシア・ロドリゲス嬢というのが誰かわからない。

ただ、ジョナサン君がマルシア嬢に対して卑劣極まりない破廉恥行為に及んだというところは理解した。


法務官が、被告人席のジョナサンに黙秘権を告知してから尋ねる。

「いかがかにゃ?」

ジョナサンらしきドワーフは、

「はい、確かにそのとおりです。」とうなだれる。もう諦めきっているようだ。

法務官が俺の方をみる。

「弁護人如何にゃ?」


よし、見てろよ。ひっくり返してやる。


「証人尋問をお願いします。」

マルシア・ロドリゲス嬢が法廷に入ってきた。傍聴席からも被告人席からも丸見えだ。これはきついな。現代日本では、その点配慮があったが、ここではむき出しの見世物だ。恥ずかしいことみんなに聞かれても、おじさん、知らないぞ。


「それでは、お聞きします。あなたは、ここにいる被告人に股間を触られたのですね。」

「はい。」

「それはあなたからジョナサンを誘ったのではありませんか?」

「違います!そんなこと絶対にしません!」

「では、あなたは、ジョナサンに対して相当抵抗したということですか?」

「いえ。怖かったから、抵抗はほとんどしませんでした。」

「ほほう。そうですか。でしたら、何をされてもいいと思っていたのですか?」

「いいえ。あまりにひどいことされたら、そのときは怖くても抵抗しようと思っていました。」

「ひどいこととは例えばなんですか?」

いやーな感じで聞いてやった。

「え?そんなこといえません!もう、変なことばかり聞かないで下さい!」

マルシア・ロドリゲス嬢は、憤激する。プンプンしていて可愛い。ついつい目を細めて愛でてしまいそうになるが、ここは仕事場だ。法廷は俺の戦場だ。ぐっと我慢する。


「では、私から具体的にお聞きします。もし、下着を下ろされたりしたら、抵抗していたのではありませんか?」

「あ、はい。多分、そこまでされていたら、抵抗していたと思います。」

「あなたにとって、ひどいことというのは、どの程度のことをさすのですか。例えば、太ももを触られるのはひどいことなのですか。」

「それは嫌ですけど、怖かったから我慢してました。」

「では、被告人は、あなたのパンツにまでは触れなかったのですね。」


ゼット検察官が立ち上がった。

「異議あり!法務官閣下、誘導尋問です。」

見破られたか。こちらの意図に気付いたらしい。王都帰り様は流石に一味違いますな。

法務官もすぐに反応する。

「弁護人、質問を変えてください。」


「あなたは、抵抗はしなかったということ、あまりに酷いことをされるのであれば抵抗しようと思っていたことは確かですね。」

「はい。」

「被告人は、あなたのパンツに触れましたか?」

「え?あの・・・私、スカートだったのですけど。」

「うん?」

「えっ?」

「・・・」


ゼット検察官がにやっとする。

「弁護人、比較的年配の方は下着のことをパンツといいますが、彼女のような若い人は最新のファッション用語を使いますもので、パンツといえば外衣のことを指すのですよ。いわゆるズボンですな。フッ」

上から笑われた。いや、知ってるけどさ。ゼットもそんなこと知ってるくらいで、偉そうにするなよ。誰だって知ってることだろ。


法務官は知らなかったようだ。ほほう、という顔をしている。なんか、手元でメモしているぞ。いや、メモらなくていいですから。裁判進行して。


「弁護人、『パンツ』だとズボンか下着か区別がつきません。『下着』だとこれも上のか下のか分かりません。混乱を防ぐため、『パンティー』と述べて下さい。にゃ。」


「では、被告人は、あなたのパンティーに触れましたか?」

「いえ、触れていません。」

「事件のときの、あなたのパンティーは、どのような色のもので、裾はどのくらいの長さでしたか。」


「異議あり!法務官閣下、パンティーの色と形状は本件には関係ありません!質問を禁止して下さい。」ゼットが割り込む。

「法務官閣下!パンティーの色と形状が関係あるかないかは、今後の証人の証言次第であって、現時点では関係ないとはいえません!質問を続行させて下さい。」


ゼット検察官と睨み合った。一歩も引くものかと歯を食いしばる。傍聴席がざわざわする。俺は黒が好きだな。とか言ってる奴がいる。いや、それは絶対に関係ない。


法務官が裁定する。

「弁護人、パンティーの色は聞く必要はありません。パンティーの形状については、質問の続行を許します。」

微妙な球を投げ返してきた。色は駄目だが形状は聞いていいんだそうだ。違いの分かる法務官だ。


「はい。では、証人のパンティーは、どのような形をしていますか?ティーバックですか?紐ですか?紐なんですか?」

紐、連呼した。右手でくいっと持ち上げる仕草をした。

法務官は、俺がティーバックと言ったときには、意味が分からなかったようだが、おれの「くいっ」で、ティーバックとは何か思い当たったようだ。ああ、あれか、という顔をしている。そうそう、あれですよ閣下。ご存知のあれだよ。


「いえ、普通のです。普通に、お尻全体をカバーしています。前は、・・・その、前も全部です。」

よし。これで貰ったぞ。

「証人尋問は以上です。」

終了させた。


「それでは、弁護人の意見を申し上げます。


強制わいせつ罪は、強度のわいせつ行為に限って処罰するもので、具体的には女性の陰部に直接触れることを要します。このことは、王都最高裁判所において確立した判例となっているものであり、これはマイケル・リチャード・デイヴィス2世が著された「実務判例六法だにゃっ」にも掲載されている判決であります。

ところが、証人の証言によりますと、被告人は、証人のパンティーには触れておらず、証人のパンティーは、色は不明なるものの、形状としてはお尻全体及び前も相当部分を覆っています。したがって、被告人がそのパンティーに触れていない以上、被告人が被害者の陰部に触れていないことも明らかです。

以上により、被告人は無罪です。」


法務官がうーんと唸った。証人尋問の途中から、この論点について迷っていたらしい。

でも俺の言ってることは正論だぞ。現代日本でも、こういう場合は、強制わいせつ罪は成立しない。めいわく防止条例違反とかにはなるが、オンドレ町にはそういう条例はない。

法務官が、顔を上げる。


「判決。被告人は無罪。」

傍聴席がどよめいた。裁判所は痴漢の味方をするのかよ、とか、あの子可哀想だよとか、あの弁護人は、どうしてあんな悪い奴の肩を持つんだよとか、色は黒じゃないのかな、とか好き勝手言ってる。黒下着から離れろよ、誰だか知らないけど。


途中からやってきた片桐組長と六郎さんが近づいてくる。

「先生やったな!無罪判決なんて、俺は見たのはこれが初めてだぜ。」

「先生ありがとう。弟は田舎に帰らせることにするよ。あいつには都会の誘惑は刺激的すぎるからさ。しっかし、先生がいなかったら、あいつは懲役になってたかもしれねえんだよな。本当、ありがとう!」

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