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5 キャッ見ないで!(見てええねんで)

部屋に入った。普通にベッドがある。簡単な机があるのがありがたい。いや別に何か使うわけではないけど。やっぱり机がないと、あれこれ困るかもしれないしね。お泊りというと、普通は出張だったから、机がないとどうしても落ち着かないんだ。


さて、ティナちゃんのおにいちゃんの服に着替えようかな。今の服だと、あまりにも質素すぎるようだ。そう考えて、上半身を脱いだ。

トントン

ノックの音だ。俺の頭脳が高速で回り始める。


(おしのさんが、何か用事を思い出して来た可能性が極めて高い。俺は上半身裸。普通なら簡単に服を着て出るのが常識。それが安全策というもの。でも今の俺は違う。今の俺はイケメン。ここは、うっかりしちゃいましたっていう感じでこのまま出るのが正解!)

えらいぞ。すごくえらいぞ。あっという間に、イケメンな俺を使いこなしている俺。


わざと不機嫌そうな顔を作って、「なんだよー」といいながらドアを開けた。

ここでぼんくら亭主が立っていたら、話としては面白いんだろうが、真実は残酷だ。いや、現実は往々にして平凡だっていいたかった。おしのさんが、立っていた。両目を見開いている。

「・・・。あっ、すみません!」わざと慌てる。うっかりなんだからね。露出狂とかじゃないよ。


「ごっごめんなさい。そうよね、すぐに着替えようって思うよね。」

おしのさんも謝る。謝りながらも、ちらちらと俺の身体を見ている。うっへっへ。いい気分だぜ。どうだい奥さん。


おしのさんは、桶を持ってきてた。お湯が入っているらしい。薄めたからちょっとぬるいけどね、とか言っている。ちょうどぼんくら亭主がラーメンをゆでようとしていたお湯があったから、それを取り上げて、水を足して持ってきてくれたらしい。身体を拭くための布まで用意してくれてた。気が利くね。こういうところで、細かい気配りができる女に男は弱い。初めて実感した。前の世界では、そんな女は全然いなかった。いや、少なくとも俺に対しては、そういう風に配慮してくれるような女は全然いなかった。


こんな格好だからということで、俺はおしのさんにお礼だけ言って、すぐにドアを閉めた。身体を拭く。気持ちがいい。そしてティナちゃんのお兄ちゃんの服を着た。古着とは思えない新しさだ。


今の状況をおさらいしてみる。いや、ステータスとか、町の情報とかじゃないよ。俺のことだ。身体でも洗いたいなって思っていたら、巨乳な美人妻がお湯を運んできてくれました。着る服が全くないと思っていたが、美少女が持ってきました。至れり尽くせりだな。こんなことでいいのかよ。世の中不公平すぎるんじゃないか。義憤にかられる。こんなことじゃ、世の中のフツメンや●●メンの方たちに可哀想じゃないか。彼らだって、精一杯生きているんだよ。こんな世の中、ひどすぎると思うよ。何か間違っているよ。俺は罪の意識にさいなまされる。俺だけが、こんなに良くしてもらっていいのだろうか。申し訳ない。本当に申し訳ない。俺ばっかり、色々して貰っている。打算抜きの、純粋な好意を向けられている。


ああ、本当にいい気分だ。世界中が俺の味方だ。ぼんくら亭主はしらんけど。ティナちゃんのお兄ちゃんもしらんけど。しばらく立ち尽くし、自らの境遇をじっくりと味わって、にやりと笑ってから過去の俺に別れを告げ、これからの俺と握手した。


いやいや、そういうのじゃないだろ。まずは新しい世界のことをきちんと調べて考えるべきだった。ちょっと面倒だな。いやな人は、次の話に飛べよ。ヤクザが登場するよ。あ、独り言ね。


頭の中の資料をめくる。神様が送っておいたという奴だ。ものすごく細かい。データとかたくさん載っている。かなり使い勝手が悪い。過去30年の小麦価格の変動グラフなんかがある。しかも変動幅はすごく小さく、情報価値はほとんどない。


貨幣制度が載っていた。これはものすごく適当に書いてある。

銅 貨      10円

銀 貨     100円

大銀貨    1000円

金 貨   1万   円

大金貨  10万   円

くらいだそうだ。物価自体は、現代日本よりも少し低い目くらい。さっきの武装狸肉野菜炒め定食が3銀貨、つまり300円だったから、そんなもんだな。


この町はオンドレ町。町の政治は、一般的には商工会議所の所長がとっている。有力商人による互選で選ばれている。町から3キロほど離れたところに、オンドレ伯爵の城がある。オンドレ伯爵は、この一帯を領地としているが、町に対しては一定の自治権が与えられている。もっとも裁判権はオンドレ伯爵にあって、法務官が月に二回やってきて裁判をする。法務官が忙しいときは来ない。こっちが来て欲しいときも来ない。


警察組織はもっと複雑だ。オンドレ商工会議所が保有している警備隊と、オンドレ伯爵が駐屯させている騎士団の分隊があるらしい。あと、次にいう町兵もいる。


軍隊組織は二本立てになっている。自治町兵というのがあるらしい。城門にいた衛兵さんというか、門番さんも、その町兵だね。それとさっきの騎士団を頂点としたオンドレ伯爵軍。軍隊といっても、ほとんどは魔物との戦闘が仕事で、人間同士の戦争はほとんどないみたいだ。町兵は、警備隊とも協力して犯罪捜査もする。町兵は、一応は、オンドレ伯爵からの干渉を避けるための抑止力的な位置づけもあるみたいだけど、伯爵と町との間には、そこまで緊迫した対立関係はないようだ。


魔物ってなんだ?これはこの世界では、当たり前すぎることらしく、あまりちゃんとした説明がなかった。

ただ、この世界の地域は、いくつかの種類に分けることができる。


1 絶対安全圏 完全に近いほど安全な地域。城壁内など。

2 安全圏 ほぼ安全な地域。農村地帯など。

3 ホットゾーン いわゆる紛争地帯という表現が近いみたい。魔物がかなり増えてきていて、討伐する側と魔物の発生数が均衡している状態。俺が避難してきたという南の地域がそういう状態らしい。それから山や森なんかもそう。

4 危険地帯 魔物の支配地域。迷宮もちゃんとあるよ。安心して。


冒険者っていうのは、いわゆる冒険者らしい。ちゃんとギルドもあるみたいだぞ。この町では、討伐報酬は、伯爵が負担している。獲物の買取窓口はギルドでやってくれる。資金は商工会議所。多少色を付けてくれる形になっているらしい。もちろん討伐証明部位以外は、個別に処分してもいい。


世界の各国

これはざっくり読むだけにしておこう。さしあたって、必要はなさそうだ。


種族

人間とドワーフ、エルフ、亜人とか。まあ色々いるみたい。それほど差別的な感じではなく、適当に棲み分けたり、得意な分野ごとに活躍したりで、役割分担している感じらしい。


人口構成

やはり若い世代が多い。世界地理で習ったピラミッド型の年齢構成だ。もっとも男の死亡率が比較的高いみたいだ。どうやら魔物は、男を優先的に襲うみたいだ。だから、この世界では、男性がちょっと少ない。で、おしのさんが言ってたみたいに、定職のある男の立場は、かなり強いみたいだな。だからおしのさんみたいに魅力的な人でもぼんくら亭主と別れられないわけだ。


なるほど。ほぼ必要なことは分かったぞ。あとはこまごまとした情報をざっくり頭に入れた。とりあえず部屋から外に出てみよう。あと二日、いや、もうお昼近くだから一日半で、生活の道を探さなければならない。


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