12 四万十川騎士団長をマルチ商法で嵌めることにする
数日後の夜、結局俺はターニャと一緒に中央区の四万十川騎士団長の家の前に立っていた。
ターニャは、自分で言ってたとおり、見事なまでに別人になっていた。まず、エルフ特有の尖った長い耳は、紐で縛って小さくして頭に布を巻いている。紐で縛って痛くないのかと思ったのだが、その点は問題ないらしい。
化粧は、ものすごく派手に厚化粧だ。どこの場末に来たんだっていう感じ。更に付け眉毛みたいなのをしていて、鼻は粘土みたいなのを使って、少し高く大きくしたそうだ。それで顔の印象は全然違っている。
胸はさらしを巻かれてまな板状態。お腹は綿を詰めていて、ずん胴。靴はシークレットブーツを用意していて、いつもより5センチほど高く見える。
一番驚いたのは、右足を包帯で巻いて杖を突いていたことだ。
「何か怪我したのか。」と聞くと、「相手の印象をこっちに集めるため。」と答えた。これで更にスカートを短めにしているから、四万十川はどうしてもそっちが気になることになる。なるほど、考えているな。
ちなみに、俺はかなり怪しげな風貌だ。仮面をつけて、しかもフードをかぶっている。
家のドアをノックした。
開いた。騎士団長が顔を出した。従者もメイドも置いていないというのは聞いている。もともとこっちはいわゆる単身赴任用の家だ。仮寝ができればそれでいいという程度らしいと聞いている。
突然見知らぬ二人組が夜にドアを叩いても応対しないだろうということは分かっていた。そこで、夕方にこっそりドアの下の隙間から手紙を書いておいた。その手紙には、
「借金漬けで苦しむ貴族様へ
助けてあげよう。
夜、仮面を付けた護衛を連れた女が訪れる。
その女の話を聞け。」
と書いておいた。
借金で困っていることは、ひたかくしにしているはずだ。誰がどういう理由でそれを知るに至ったかを知りたいと思うのは当然だ。登記簿で確認したとは思いつかないだろう。この世界では、その手の調査技術が決定的に未発達だ。そうすると、四万十川は、どうしてそれが知られたか探りたいはずで、そう考えると門前払いはないだろうと予想していた。同時に、騎士団を使って逮捕するという選択肢もないはずだ。自分の汚点を部下たちに知られることになる。
「入れ。」
招じ入れられた。
客間のようなところで、テーブルの向こう側に騎士団長が座った。俺たちには席を勧めなかったが、ターニャは遠慮なく座った。俺は後ろに立っている。護衛だからね。
「お前たちは何者だ。」
四万十川騎士団長が聞いてきた。胸を張っている。虚勢だな。
「私が何者かは、この際問題ではないのじゃ。」
ターニャが口調を変えている。声質もいつものと全然違うから、声からは絶対にターニャだとは分からないだろう。
「だが、何者か分からない人間と話すのも不安じゃろうから、こう考えてみてはどうじゃろうか。
ある国に、秘密機関がある。その国は、周辺の国の軍事情勢を常に探っている。特に、その国にとっての危険人物の周辺は定期的に洗うことにしている。その人物が何を考えているか、突然わが国に攻め込んだりはしないか、注意しておく必要がある。
そして、その機関の情報源が、ある軍高官が金銭的に困っているという話を持ち込んできた。本来であれば、別にこちらが困る話でもないのじゃが、それで自暴自棄になって軍事行動を起こして、その混乱の中で借財をうやむやにしてしまおうということになっては困る。また、いざというときにその危険人物とは、ある程度の繋がりを持っておきたい。もちろん裏切りを要求するとか、そういう過大な望みがあるのではない。例えば、和平交渉の際に、多少話しやすくするなどを考えておるのじゃ。
一方で、その機関は、維持に莫大な費用が掛かる。そこで、ある程度独自の予算が欲しい。その予算を確保するためのノウハウはあるのじゃが、この街では何の足掛かりもないので、我々の機関では手が出せない。
これは、あくまでも仮定の話じゃ。」
このくだりは、ものすごく苦労した。身分詐称をするわけにはいかないから、騎士団長に勝手に想像させることにした。
騎士団長は、考えこんでいる。




