7 雨の日のティナちゃん
朝早くから走り回ったお陰で、宿屋に戻っても昼にはまだ時間があるくらいだった。
さっそく記事を書こうと思って、アンケートを読んでいると、外で雨が降り出した。宿にいるときでよかったと思いながら、構想をまとめていく。ざっくりと考えて書き始めた。
先月号に引き続き、月刊オンドレで、町の名士を褒め称える提灯記事だ。心にも無い美辞麗句を並べ立てるのだが、これがなんか屈折してて妙に面白い。取材もしていない相手のことを、西島組のインテリ組員がとってきたアンケートを元に、自由に作文している。面白いぞ。
ティナちゃんは、俺に言われた作業をしていたが、「ちょっと思い出しました。」とか言って、出掛けてしまった。何をしに出掛けたのか知らないけど、外で油を売るような子ではないことは分かっているので、特に聞いていない。
帰ってきた。
「メンデス先輩、すみません、勝手なことをしましたが、食べるものを買ってきました。」
雨だから外に食べにいくのは面倒だとは思っていたんだった。
「いくらだ。」と聞いて、その値段を払った。
ティナちゃんが濡れている。
薄地の白いTシャツだ。ぴったりと肌に貼り付いている。ピンク色のブラがはっきり見える。ぱたぱたと浮かせて乾かしているけど、ふっ、そんなことをしても無駄だな。
タオルをつかって、Tシャツの下を拭っている。俺の正面ではなくて、ちょっと斜めの部屋の隅でやっているけど、うかつにも窓の光がちょうど当たっているあたりなので、よく見える。いや、俺はそんなにじろじろ見ていないけどね。
シャツの裾をきゅって絞ったりして、なんとか水気を取ろうとしていた。最後にタオルを髪に巻いた。なんかお風呂上りみたいで、色気があるな。いや、ほんとにじろじろ見てないですから。
暑い季節なので風邪を引く心配もなさそうだし、そのままにしておく。
ティナちゃんが買ってきた食べ物を食べる。
ティナちゃんは席に戻って、お弁当を食べ、それから俺にお茶を入れて、文献を書き写し始めた。
・・・
「メンデス先輩すみません、この読み方を教えて貰っていいですか?」
今日は冒険者法の書籍に取り掛かっていたようだ。椅子を持ってきて俺の隣に座った。
「これか。」
今日は横書きだ。ティナちゃんは机の上に本を置いた。身を乗り出して「この部分です。」と言った。シャツが濡れているのを気にしているのか、ちょっと本から身体を離している。
「冒険者法において、功績を詐称した者については、その功績の有無が不明である場合、それと同等の試練を課すことにより、真偽を判定することができる。この場合、試練の場においては、当該冒険者自身と、それを補助する者1名が、試練に臨むことが許される。・・・」
悔しいっ!横書きだし、ティナちゃんの服が濡れていて、本から身体を離しているせいで、指がティナちゃんの胸に届かない。いつも読んであげていて、それで流れで触っているから、今日それができないとなると、明日まで悔いが残りそうだ。
指が勝手に動いた。ティナちゃんの右側の胸の中腹あたりを横から指で押す。いまや、書籍を読んでいるという建前は失われてしまっている。俺の指は、本から完全に離れて、ティナちゃんを触っていた。ティナちゃんの胸は従順にへこみ、遠慮がちに押し返してきた。
「あ・・・メンデス先輩。」
ティナちゃんが何か言っているが、無視した。
もう一回押してみた。おお、この感触。ティナちゃんは震えながら、必死になってじっとしている。シャツが濡れているので、俺の指の動きに応じて、下のブラが微妙にずれたりしているのが見える。おお。おおー。思考が停止しつつある。
ドンドン!
無粋なノックの音に遮られた。
ティナちゃんが慌てて立ち上がり、自分の荷物からカーディガンを取り出して羽織った。なんだ、そんなの持ってきてたのか。最初から着ていればいいのにね。
ティナちゃんが「はーい」と言いながらドアを開けた。
戦車屋さんが、納品に来ていた。
ついに、俺は戦車乗りになったのだ。
こういうとき、男というのは仕方のないものだと思う。新しいおもちゃから新しいおもちゃに夢中になってしまう。さっきまでティナちゃんの胸のことばかり考えていたけど、今の俺の頭の中は戦車で一杯だ。
ああ、俺の戦車。
俺の愛車。
ビュンビュン走る俺の戦車。
いや、一頭立てだから、そんなに走らないけどね。
思わず外を見て、まだ雨が降っているのに気付いて残念に思うくらい、戦車に夢中になってしまった。
もう離れたくないくらい。
すぐに雑巾で拭いたり、あちこちいじってみたりしたくなった。記事とか書いている気分じゃないし。ティナちゃんには、今日はもう帰っていいといって帰らせた。まあ、さっき指でぐりぐりしてしまったから、ちょっと気まずいっていうのもあるからね。
なんか、俺って、わがまま?うーん。そうだよ、わがままだわ。でもいいんだ。だって、戦車だよ。




