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3 仲裁裁判(その2)

席に戻った。調べたことを他の三人に話した。ルソーの顔が厳しくなってきた。


さて、どう話を持っていこうか。


「さて、俺の判断を話す前に、お二人に言うことがあります。この事件は、報酬金の分配については、俺の判断に従うということになっています。ただし、これで、どちらかがどちらかを騙して、余分な金を受け取ろうとしていたということになると、それは詐欺罪ということになります。俺は、この件では仲裁という立場で関与しているので、どちらの側に立つこともできないけど、詐欺未遂事件の被害者ということで警備隊などに相談に行くと、証拠次第では逮捕されることになります。」


・・・


反応がない。もう少し揺さぶりを掛けてみる。


「今日の日の出は5時半ころだった。マーガレットの言い分によると、マーガレットがギルドに来たのは7時前くらいということになる。それで、1時間近く待っていたというのであれば、8時前くらいの段階で諦めて亀道さんに声を掛け、お互いの能力の確認、役割分担、報酬額の分配を決めてからカウンターに行ったということになる。そうすると、早くても8時過ぎ、おそらく8時半くらいになっているはずだ。」


「それくらいだったよ。」とマーガレットがいう。


「ところが、台帳では、あんたたちが請け負ったのは、今日の二組目だ。マーガレットは、さっき、何人か知らない冒険者が入ってきていたと言ってたよな。その冒険者たちは、誰も請け負わずに帰っていったということになるが、さっき職員さんに聞いたら、朝のうちは、そういうのはなかったということだ。つまり、マーガレットが亀道さんに声を掛けたのは、もっと早い時間帯だ。ギルドのカウンターが混み合うのは、7時半くらいがピークだと聞いた。」そう、冒険者たちの朝は早いのだ。


「行きの道で、マーガレットは亀道さんにじろじろ見られたり触られたりしたために転んだと言っている。その後、最後の一頭をやっつけたときに剣が折れたが、亀道さんに知られるのが嫌で剣が折れたことを言わなかったということだ。帰り道に魔獣に襲われる危険もあったのに、亀道さんに、自分の剣が折れたことも言わず、亀道さんの剣を借りようともしなかった。」


「そ、それはこいつが、どれくらい闘えるか分からなかったからさ。そういう奴に丸腰だって知られるのは嫌だ。行くときの道では、魔犬しかいなかった。帰り道もそれならこいつ一人でもなんとかできると思っていた。」


「いや、あなたさっき、亀道さんのこと、全然闘えなく有名な奴なんだって、言ったじゃないか。だからこそ、あなたと組んだんじゃないか。今朝からそういう前提で動いていたんじゃないか。」


マーガレットは黙り込んだ。


「そもそも、この剣は、毎日使っているものだとは思えない。ルソーはマーガレットがいつも使っている剣がどういうものか知らないといったが、それは疑わしい。仲間をかばう気持ちは分かるが、最低限何か説明できたはずだ。そして、マーガレットは、ほとんど待たずに亀道さんに声を掛けた。つまりギルドにつく前から、今日はいつものメンバーでは動けないと知っていたということだ。そうすると、いつもと違う剣を持ってきたとも疑われる。」


「それは単に疑わしいっていうだけだよ。」マーガレットが反論してくる。


「そのとおりだ。過去に起きたことだから、本人たちの言い分以外、はっきりしたことはいえない。しかし、ここまでのところ、亀道さんの言い分は、台帳や職員さんの説明に一致するし、行動も自然だ。その一方で、マーガレットの言うことは、不自然だし、矛盾しているんじゃないか。」


「どうしても真実を明らかにしたいということであれば、今からみんなで警備隊に行こう。それでマーガレットと一緒によく仕事をしていた人間に、君がいつも使っていた剣の形を話してもらえばいいじゃないか。それでこの剣がそうでなければ、あんたの言っていることは嘘だということになる。」


しばらく黙った。ちょっとルソーに声を掛けて席をはずす。


「ルソーさん、あんたもマーガレットが怪しいというのは分かっただろ。」

「ああ。仲間だからちょっと言いにくいが、そんな感じだな。亀道さんは、ものすごく評判は悪いが、浮ついた意味での悪い噂は一切ない。それにマーガレットは亀道さんのことをすごく嫌っていたから、あいつから声を掛けたっていう時点で、かなり不自然なんだ。しかし困ったな。俺もあいつの仲間だから、あんまりあいつの敵側に立つわけにもいかない。」


「じゃあ、あんたからマーガレットを説得してみてくれ。ここまで追い詰めたら、あとは亀道さんが警備隊に飛び込んだら、牢屋一直線だと脅してくれ。ギルドからも除名だ。だから、報酬は全て亀道さんに渡して、更に謝罪金として大金貨1枚。その筋で俺も亀道さんを説得してみる。その代わり亀道さんは、告訴しないことを約束させる。これでもマーガレットにとっては有利な話だ。」

「わかった。」


席に戻る。ルソーがマーガレットに声を掛けて席をはずす。俺は亀道さんに話しかけようとしたら、向こうから話してきた。


「イケメン弁護士さん、感謝する。流れが見えてきた。向こうにどういう案を提示するつもりか分からないが、それが妥当なものであれば俺は飲む方針だ。」


お、話が早いな。

「それはよかった。ある程度の提示をするように説得するつもりだけど、それは相手次第だ。マーガレットが、どれだけ自分の立場を正確に認識できるかによって違ってくる。」


マーガレットがルソーに付き添われて戻ってきた。

「その条件でいいよ。」ふてくされて言う。


俺はちょっと大きめの声を出した。

「まずは謝罪だろうが!」

それで声を低める。

「報酬額の配分を誤魔化そうとしたというのは、冒険者にとって致命的な評判じゃないのか。亀道さんが、その条件を飲むかどうか分からないんだぞ。まずは気持ちを和らげてもらうようにしろ。」


「・・・ごめんなさい。」


「亀道さん、報酬額は、全て亀道さんのものとする。それからマーガレットから亀道さんに大金貨1枚を謝罪金として支払う。その代わり、亀道さんは、この事件を捜査機関に告訴しない。本件はそれで解決したものとする、という条件だ。これは俺が客観的に公正だと考えた案だが、飲めるかね。もしそうでなければ、俺の判断を一方的に述べる。これはさっき言ったとおり、俺の判断をそのまま飲んでもらう。報酬額の分配だけだというのであれば、マーガレットが16枚、亀道さんが8枚だ。それからマーガレットの取り分から俺の報酬1枚を差し引く。その代わり、亀道さんは中傷されたこと、詐欺の被害者であることを理由に別途損害賠償を求めることができる立場になる。俺が先に提示したのは、それも含めて全て解決する方法だ。」


亀道さんは、「池先生の条件を飲む。」と答えた。


そうすると、告訴しないことを文書にしなければならない。マーガレットに大金貨1枚を用意させる必要もある。


そこで、今日の日没までに俺の宿屋に集まるように指示した。俺はその間に、示談契約書を作っておくことにする。手間が増えたこと、最初のトラブルを超えて解決できたこと、契約書作成費用を理由に、金貨1枚分の追加報酬を認めさせた。


もう夕方近い。そういえば、今日は朝から戦車に乗っていたんだった。なんかばたばたした一日だった。宿屋に帰ることにする。そのあとで、亀道さんとマーガレットを待つことになる。

読んで頂いてありがとうございました。

かなり理屈っぽい話になってしまいました。バタバタと書いたので、つじつまの合わないところがあるかもしれません。申し訳ありません。

あとしばらくすると、勇者の話に入ります。

明日には、また投稿させて頂きたいと思います。

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