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12 チーム流星と騎士団長

アンドロポフは、俺たちに断って同席してから、メニューも見ずに、

「おばちゃん、ボルシチ定食頼む!」

と大声で叫んだ。


アンドロポフって、常に冷静なイメージだったから、いきなり大声を出したのでびっくりした。


そういえば、前世では、ロシア人というのは、陰鬱と陽気、悲観と楽観、反骨と忠実というように、相反する性格が同居する民族性が特徴といわれているのを聞いたような記憶がある。アンドロポフとターニャはエルフだけど、属性的にはロシア人に近いのだろうか。ボルシチを食べるとなるとテンションがあがってしまうのだろうか。ターニャの場合は、戦車の話題になるとテンションがあがるし、そういう二面性があるのかもしれない。


「池先生のところに顔を出そうと思ってたら、うちの戦車で帰ってくる若い奴に会って、ここで昼飯食べてるって聞いたから、こっちに来たんだ。ここのボルシチはしばらく食べてなかったから丁度よかった!」


アンドロポフが事務的な話とボルシチ愛を織り交ぜながら話す。


「なんかトラブルでも?」一応聞いた。


「うちが冒険者ギルドのケツ持ちやってるのは以前話したよな。ところが、その冒険者の中で、ギルドは騎士団に管理されるべきだと言い出した奴がいる。上納金が減るというのもあるが、冒険者っていうのは、なんだかんだ言って違法すれすれのことをすることが多い。それを騎士団が管理するっていうのは、そもそも無理な話だ。がちがちに管理して冒険者の仕事に支障が出るか、それとも冒険者が野放しになるかどっちかだ。」


「今までは、そういう話は出なかったのか。」

「先代が睨みを聞かせていた。もっとも、騎士団もそんな面倒ごとに首を突っ込みたがったりはしなかった。町の名士たちもうちが冒険者ギルドを仕切っていることに特に不満はなかった。荒事が多くなるからヤクザが面倒を見るのが一番いいんだ。他の組も特に手出しを出そうとしたことはない。」


また四万十川騎士団長だ。どうなっているんだろう。


「やっぱり私が二代目総長になったから、あちこちでほころびが出てきている。」

ターニャがぽつりと言った。

「いや、それは多少は影響はあるが、代替わりの時期だから仕方がない。それよりも騎士団長がおかしくなっているのが原因だろう。」アンドロポフがフォローする。


「池先生、騎士団が冒険者ギルドに圧力を掛けるのは違法ではないのかね。」


うーん。

「そもそも圧力を掛けたっていう証拠もないよね。冒険者ギルドの中の誰かが、鞍替えしようと動いているだけだろうし。もちろん圧力を掛けたとしても、それ自体違法だとはいえない。」


迷ったが、思ったことをそのまま答えた。本当は、こういう答え方はしたくない。お客さんは、何らかの解決策を求めて相談してくる。それに「手も足もでない。」と答えるのは得策ではない。せめて次善の策くらいは提示したいが、ちょっと何も思いつかない。とりあえず、一時凌ぎすることにした。


「情報がもう少しないとなんともいえないな。」


アンドロポフが言った。

「今、組事務所に情報提供者が来ているところなんだ。先生に相談しようと思って、事務所で待たせてある。」

「分かった、ボルシチを食べ終わったら行ってみよう。」答えたら、ターニャとアンドロポフが声を揃えて、「ボルシチ食べよう!」と言った。やっぱりよく分からない文化だな。ボルシチは確かに美味しかった。


事務所に行くと冒険者が座って待っていた。

「ルソーさん、こんにちは」

この前伯爵の城まで護衛してくれた冒険者だ。

「あっ、池先生、この前はお世話になりました。」

そうだ。ビッグウルフに襲われて、ほとんど諦めかけていたのだが、俺のスキルで撃退したんだった。あのときの俺は、本当に格好良かったと思う。ちょっと思い出して、余韻にふけった。


アンドロポフに促されて、ルソーは事情を説明し始めた。

「Bランクの中村って奴がいるんだけど、そいつが、いつまでもヤクザに搾り取られるのはやめよう、これからは騎士団に世話になろうって、あちこち口説きまわっているんだ。冒険者も馬鹿じゃないから、騎士団にケツ持ちみたいな仕事ができないことは分かっているんだけど、その、やっぱりヤクザの方がいいっていうのは、なかなか正面切っていえないところもあってですね。すみません。」


アンドロポフが答えた。

「気にするな。じゃあ、冒険者で同調する奴は少ないんだな。」


「それがそうでもないです。なんか、ギルド自体の実権を中村が握るつもりらしくて、中村に擦り寄ってくる奴には、それなりの見返りがあるらしいといううわさです。」


「そいつはギルドの私物化というもんだ。冒険者のうちの誰かがギルドを仕切るようになると、依頼の割り振りや、トラブルの仲裁、全てに歪みがでることになる。相当な不満は出るだろうが、騎士団の権威で抑えつけるとすれば、中村の目の付け所は悪くない。冒険者全体の利益には反するだろうが、中村や騎士団にとって損のない話だ。」

アンドロポフが言う。あいかわらず無表情だが、口調は少し心配そうな感じだ。


俺が言う。

「最近の騎士団は、様子がおかしい。あちこちでおかしな噂を聞く。俺としても、ちょっと情報を集めておくことにするよ。それで何か打つ手がないか考えてみよう。」


丁度、西島組の片桐組長が、探りを入れてみると言っていた。その情報をそのまま流すわけにはいかないが、うまくやれば共同戦線を張れるかもしれないし、その仲介をするのなら、どっちの組との関係でも、俺の立場がよくなる。それで具体的な対策を打つことになると、少し大きな仕事ができそうでもある。


事務所のある灰色のビルを出た。ルソーも一緒だ。ぶらぶら歩いて冒険者ギルドの前まで来たところで、ルソーが、

「池先生、俺はちょっと顔を出して行きますんで。」と言ったので、別れを告げた。


ルソーがギルドのドアを開けて入ろうとした瞬間、ドアが内側から開いて、若い女と中年男が出てきた。女が騒いでいる。


「偽勇者野郎の癖にでたらめいうんじゃねえよ!」

偽勇者か。面倒ごとだろうか。普通は面倒ごとは避けて通りたいところだが、弁護士は面倒ごとが飯の種だ。しかし、面倒臭そうな話だ。

読んで頂いてありがとうございました。

もう一話書いて投稿しようと思ったのですが、連休の雨の日で、退屈されている方もおられるかと思い、先に一話投稿しました。夜にまた追加させていただく予定です。

やっと、勇者に辿り着きました。あと少しで書き溜め部分に合流できそうです。引き続きお読み頂けましたら幸いです。

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