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11 戦車とターニャ

次の日の朝、出勤してきたティナちゃんにいくつか筆写してもらう文献を渡して、すぐに宿屋を出た。


本当は、少しゆっくりしてからとも思ったのだが、これまでの経験上、ティナちゃんが分からない文字を聞いてくるまでに2,3時間くらいは掛かるので、それを待っていたらお昼近くになってしまう。そうすると、ちょっとお昼に出て行く時間まで待って、ティナちゃんが窓に立った隙にお尻を叩くといういつもの儀式をしたくなってしまうから、結局チーム流星のところに行くのが午後になってしまう。だから、今日は、ティナちゃんの各種指導は諦めることにして、すぐに宿屋を出たのだ。


のんびり歩きながら、チーム流星の事務所に向かう。

こんにちは!と声を掛けて、中に入った。

アンドロポフはいるかなと思ったが、留守だったのでターニャに相談することにした。


奥に案内される。

総長室。

札に総長室と書かれた部屋だ。

ノックをして、そのまま入った。


・・・


部屋だ。当たり前だけど。

奥にふかふかのベッドが置いてある。

お姫様ベッドだ。天蓋もついている。

ソファがあって、それから学習机みたいなのも置いてある。学習机は、白い木で作られていて、花柄の彫り込みがされていた。

あとは棚にぬいぐるみとか置いてある。

学校の友達と一緒に笑っている絵が置いてある。日本でいう記念写真みたいな感覚なのだろうか。王都のどこかの街角っぽいところで、友達とピースしながら描かれている。

お嬢様系女学生の部屋っていう感じだ。

総長なのに。


ともあれ、朝の挨拶をして、相談することにした。

「戦車を買って、馬を借りて、町中を仕事で乗り回そうと思っているんだけど。」

「ん。」

やっぱり無口キャラだった。


パジャマみたいなのを着て、上から軽くカーディガンみたいなのを羽織っている。なんか、朝寝してたのを起こしてしまったみたいだ。大きな胸がふんわりとしたパジャマの下にあるのが分かる。ゆったりした服でもよく分かるほどの大きさだ。これは本当にすごいな。


「戦車は、戦車屋で買って、馬は、1日大銀貨5枚くらいで借りられるって聞いたんだ。」

「違うよ!それ間違い。誰から聞いたの?そもそも戦車はチーム流星が仕切っているから、私に相談してくれないと駄目よ。他人が見てると細かいことが分からないから、結構適当に説明したんだろうけど、そういう素人のいうことを真に受けては駄目。」

いきなりたくさん喋りだした。


「あれ違ってた?」

「戦車屋っていうのはそれでいいんだけど、普通の馬じゃなくて、魔獣馬の方が力が強くていいの。それを2頭借りる必要があるから1日で金貨1枚と大銀貨4枚はいるわ。」

1万4000円か。ちょっとありえない金額だぞ。


「そんなに力が強くなくてもいいんだ。それに2頭もいるのかな。俺は別に走り回るほど使うつもりもないし、戦闘することもない。ちょっと早い目に歩くよりは楽かなっていう程度だよ。基本的には護身用というか、襲撃しにくくなればいいと思っている。」


「戦車は基本は2頭立てよ。普通の人は興味がないから、何頭使っているかとかしっかり見ないけど。2頭立て。どうしても早くかつ重武装して使いたい人は4頭立てにするけど、まともな人はそこまではしない。町の中で使ったら、町中で大迷惑行為になるから。」


「1頭立ての戦車で普通の馬だと駄目なのかな。」

「それだとパワーがないわ。そんなの戦車として意味がないでしょ。戦車に乗りたい人は、そのスピードとパワーと荒々しい走行感を求めるんだから、そんな使い方をする人なんて絶対にいない。」

力説された。

「どれくらい乗り心地が違うか教えてあげる。」


うん。じゃあ、教えてもらおうかな。


・・・


座って待っていた。どうも違っていたらしい。こっちを睨む。


「着替えるから、出て!」

ああ、そうか。教えるって、実地に教えてくれるっていうことか。


それで大部屋で待っていたら、着替えたターニャが出てきた。乗馬服だ。めちゃ格好いい。踏みつけて下さいって、言おうと思ったら、別の若いエルフヤクザが「踏みつけてください」って言って、蹴り飛ばされていた。悶絶していたので、後に続くのは自重した。


「馬ひけい!」

ターニャが叫んだ。ちょっと指示が漠然としすぎないか。

「魔獣馬2頭立て戦車1両、普通の馬1頭立て戦車1両よ。」

やっぱり、1頭立て戦車って、あるのはあるんじゃないか。


ターニャは、俺の手を引っ張って、道路に出て、2頭立ての方に乗せてくれた。後ろには1頭立ての戦車があって、さっき悶絶したエルフヤクザが乗っている。まだどこか痛そうな顔をしているけど、とりあえずは大丈夫そうみたい。


「東門の外に来て!」

後ろに声を掛けて、パシッと鞭を鳴らした。

魔獣馬たちは走り出した。この前アンドロポフがやった奴よりもずっとずっと早い。

「なあ、ちょっと危なくないですか。スピード狂ですか。」

「そうよ。スピード狂。」

当然のように答えた。大通りに出てからは、更にスピードが上がった。町を行く人たちがあわてて道を空ける。これは申し訳ないけど、いい気分だ。っていうか、すごく揺れるし、かなり怖い。かなりっていうか、ものすごく、ものすごく怖い。


「なあ、危なくないですか。もう少しゆっくりと」

「スピード狂の私に何を言っても無駄。それから、まだ喋れるんだから、それは大丈夫な証拠。あなたも私と同じようにスピード狂になれば、平気になるわ。」

すごい理屈で捻じ伏せられた。


城門を突き抜けた。広い荒野が見えた。

「ここからが本番!」

ターニャが叫ぶ。

「ひゃっほぅ!とりゃあ!」

よく分からない雄叫びを上げると、鞭を振るうまでもなく魔獣馬たちがスピードを上げる。

「いやいやいやいや、怖いです。やめてください。ゆっくりね。ゆっくり!」

叫ぶけど、全然聞く気なさそう。

戦車はがたがたいって、俺はその辺の棒に捕まって振り落とされないようにするのが必死だ。

「大丈夫!すぐに慣れるから!」

満面の笑みで言われた。

ターニャは、比較的表情に乏しい。こんなに笑っているのは初めて見た。すごく可愛い。ちょっと見とれたけど、・・・

「前見ろよ!」


ターニャがもっと笑った。

「この子たちに任せておけば大丈夫なの!」

だから怖いって。怖すぎて思考が停止しそうになって、いつもの悪い癖が出た。

「振り落とされそうで怖いー。何かに掴まらないと、すごく危ない!」

と叫びながら、ターニャの腰を抱いた。


「えっ、ちょっと、何をしているの?駄目!そんなに近くに来ないで!」

ターニャがうろたえる。俺?俺は当然、聞こえないふりだよ。

「怖すぎて、冷静な判断ができない!しかし、掴まらないと、これは無理だ!」

更に叫んで、全身でターニャの横から密着する。すごく柔らかい。


「も、もうっ!今だけだからね。慣れたら、慣れたらちゃんと離れてね。」

よし、ちゃんと許可を取ったぞ。


ターニャの腰に回した手をこっそり上にずらしていく。

ターニャは、鞭で魔獣馬たちに指示を出しているみたいだけど、俺は全然そっちには集中していない。目的地は、ターニャのお腹から少し上の方にある丘だ。その丘に登りつめるのが今日の目標だ。


戦車は激しく揺れるから、ターニャに掴まった手が動くのはしょうがない。全くやむをえないことだ。上にずれたり下にずれたりするのは仕方がない。そうやって、もう少し、もう少しで胸に到達しそうなところで、はっと我に返った。


戦車が止まっている。俺は前なんか全然見てなくて、ものすごく露骨に、上半身を折り曲げてターニャの胸を覗き込んでいた。恥ずかしながら、ターニャに掴まっていた手は、勝手にもぞもぞと動いている。


殴られた。平手だったけどね。グーじゃなかったけどね。

蹴られた。つま先じゃなかったけどね。靴の裏で蹴られた。


「いやあ。あんまり怖かったから、よく分からなかったな。」

「ふうん。」

「でも、たしかに2頭立ての戦車は、とても早くて、力強いね。」

「そうね。」

「魔獣馬が、普通の馬と違うのは、よく分かった。」

「そう。」

「あ、あれ、ターニャさん、また無口キャラに戻った?うーん、それはそれで可愛いね。」

「私の顔なんか見てなかったでしょ。」


困った。さっきはあまりにも欲望を剥き出しにしてしまっていた。さすがに怒らせたらしい。戦車の話で和ませようと思ったけど、どうもうまくいかない。ここは逆から攻めるしかあるまい。


「ひょっとして、なんか怒っているみたいだけど、俺、全然悪くないから!何怒っているのか、わけわかんねえよ。」

逆ギレしてみた。

「え?」とまどっているぞ。


「お前のおっぱいは、俺のものだろ。」

言ってみたかった。

「そんなに綺麗な身体しやがって、他の誰かのものにされていいわけがないだろ。だから俺のもんだ。それを俺が見て触ってなにが悪い?ターニャ何が悪いか言ってみろ。」

動揺している。ターニャの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「・・・悪く、ない。」


二人でちょっと黙ってしまった。

抱きしめたら、そのまま抱かれているだろうと思ったけど、それよりも俺はちょっと戦車乗ってみたい。

「ちょっと俺戦車乗っていい?」

「・・・最低。」

なんかぶち壊してしまったらしい。


それから戦車に乗った。なにこれ、すっごい楽しい!スピードは出せば出すほど良いものだ。馬力は強い方がいい。ターニャ様は正しかった!戦車はやっぱ魔獣馬の2頭立てじゃないと駄目だよ。だって、ぶっとばせないじゃん。ほぅほぅほぅ「ひゃっほぅ!とりゃあ!」とターニャの叫び声を真似して走らせると、たまらんくらい楽しい。一頻り走り回って、堪能してたら、ようやく若いのが、1頭立ての普通馬の戦車で追い付いてきた。


「比べてみて」

「はい。」

乗ってみた。1頭立ての奴。普通の馬。ペシッ!って叩いてみた。まあ、俺はお尻叩くのは、結構よくやるし。その辺は経験の差だね。

馬がもそもそ進む。ちょっと進んで、立ち止まって、「はあ」って一息つく。なんか、すごくかったるそうに歩いていく。

「いや、もうちょっと頑張れよ!」声を掛けてみた。

馬がもうちょっと頑張ってもそもそ進む。ちょっと進んで立ち止まり、「ふう」っていう感じで草をかじった。


仕方があるまい。いったん戦車を降りて、馬の前に立った。

「君はやればできる子だ。僕のために頑張ってくれないかい?」にっこり微笑んだ。そうだ、俺の無敵のイケメンスマイルだ。

馬が顔を上げた。目が合った。見詰め合う。俺はもう一度とどめの微笑みを放った。馬の目に力が戻った。乗せて価値あるもの。運ぶ価値のある男。それが俺だ。そのことを馬も理解したらしい。


「二人で頑張ろうよ。」そう話しかけると、馬も「頑張りましょう」というような顔をした。


再度、戦車に戻って、ペシッとしようと思ったら、それだけで察したのか、馬はさっさと走り出した。ぽこぽこ進んでいく。おおっ!なんかさっきの2頭立て戦車と比べると全然だけど、なんかリズムが良くて、心地よい。これはこれで、結構いいぞ。ゆっくりだけど。


戦車から降りて、

「一緒に頑張ったね。」と馬をねぎらった。一緒にっていいつつ、俺は乗ってただけだけどね。


それからターニャの知っている戦車屋さんに連れて行って貰って、1頭立ての戦車を売ってもらった。操縦しやすくて軽くて疲れない奴ということで大金貨30枚で買った。調整してから届けてもらうことになっている。あとは帰り道に貸し馬屋に寄ろうと思う。


「ターニャ、ありがとう。」

そういうと、ターニャが、じっと俺のこと見てる。

「もうお昼過ぎになった。お腹すいた。事務所に戻る時間もあまりないし、お財布忘れた。」

あ、そうだった。今日のお礼をしないといけないしね。

「お昼ご飯、何かご馳走するよ。」

「ありがとう。私、ボルシチ食べたいの。中央区にボルシチ専門店があるから、そこに行こうよ。美味しいの。あとケーキ屋さんにも寄ってね。」


そう言って、それからターニャは、若いエルフに戦車を預けた。1頭立ての方に乗らせて、2頭立ての方は、「付いて来い」って言ったら、後ろから勝手についてきてくれるらしい。賢い子たちだな。

それから歩いて中央区に向かう。


ボルシチのお店に入った。いや、熱いな。店自体が暑い。厨房で盛大に火を使っているから仕方がないんだろうけど、この季節にボルシチは間違いなんじゃないかと思う。冷房っていうのもないしね。

でも、美味しそうなので席について注文した。

雑談しながら料理が運ばれてくるのを待っていたら、アンドロポフが店に入ってきた。どうしたんだろう。

読んで頂いてありがとうございました。

戦車って、どんなのかさっぱり分からないので、ものすごく書きにくかったです。更に、ターニャのキャラは、全然考えていなかったので、ものすごく中途半端な人物像になってしまいました。いっそのこと無口キャラで通した方がよかったかも。難しいですね。新しい人物を他のキャラにかぶせないで書くことの大変さがよく分かりました。

アンドロポフと合流してから、話の本筋に戻っていけるように頑張りたいと思います。また明日の夕方くらいに投稿できるかと思いますので、よろしければお読み下さい。

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