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3 「クソババア」とティナは怒鳴った (幕間)
「あんたっ!なんで兄ちゃんの服を持ち出そうとしてるの!」
ティナの母親がティナの首根っこを捕まえた。
「うるさいっ」
ティナは両腕に服をたくさん抱え込んでいる。かなり新しい服だ。
「あんな馬鹿兄貴に服なんて要らないでしょ!布でも紐でも巻きつけていればいいんだから!」
ティナの兄貴の名誉のためにいっておくが、兄貴君は別に馬鹿ではない。布を巻きつけていていいわけもない。紐はもっとまずい。
「どこに持っていくの!待ちなさい」母は声を張り上げた。
ティナはもがいて母親の手を逃れようとした。
「このクソババア!」とティナは怒鳴った。手を振り払う。
「あんた、実の母親になんてことをいうの!」
母親は言ったが、ティナはもうそこにはいなかった。
メンデス・池先輩こそが正義。どうしてそんなあたりまえのことが、お母さんには分からないのだろう。かなり理不尽ながらも、ティナはそう考えて、胸にひっかかる良心を捻じ伏せた。急がなければならない。うかうかすると、どこかの性悪女が、先にメンデス先輩に着るものを持っていくかもしれない。先を越されるわけにはいかない。