表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/103

2 おしのさん

部屋に入った。ベッドが置いてある。修道女っぽい人が案内してくれた。

「運び込まれてから意識が全くないのです。」


部屋は、妙にいい匂いがした。お香でも焚いているのだろうか。

ベッドに近づいた。おしのさんだ。血の気がない。静かに呼吸している。

「なにがあったのですか?」


修道女さんが答えた。

「運び込まれたとき、腕に切り傷がありました。何らかの薬をつけた刃物で切られたのだろうと思うのですが、このような症状は聞いたことがありません。ご主人からも、事情は知らない、客室で倒れていたとだけ聞きました。」


治療法はないのだろうか。

「奇跡を待つしかありません。」


しばらくおしのさんを見ていて、それから部屋をあとにした。

司祭さんとティナちゃんが待っていた。ナーナは先に帰っている。


司祭さんがいう。

「おしのさんは、慈善活動にも、よく協力してくれていた人です。ただ、ご主人は、おしのさんを運び込んだきり、お見舞いにも来ないですし、その、寄付などもされません。」


適当に処理してくれと言わんばかりの対応だよな。

まあ、そういう男だとは分かっていた。


「すみません、一日当たり、どれくらいの費用がかかっていますか。」聞いてみた。

「うちは、営利でやっているわけではないので・・・。一日大銀貨1枚あれば充分なのですが。」1000円か。身の回りの世話とか栄養補給などを含めて考えると、ものすごく良心的な値段だと思う。


「今はこれくらいしか出せませんが、足りなくなる前にまた必ず来ます。」

金貨6枚を渡した。2か月分になるはずだ。


「申し訳ありませんが、領収書頂けますか。」


おしのさんが心配なのは事実だ。それとおしのさんのために金貨を払うことに異存はない。ただ、領収書は貰っておくことにした。


帰り道、黙ってティナちゃんと歩いていた。ショックだった。おしのさんを見つけられた喜びよりも、意識がないことのショックの方が大きい。


「あの、メンデス先輩。」ティナちゃんが話し掛けてきた。

「ああ。」生返事をした。

「先輩がおしのさんのこと、好きだとしたら。」

そうだよ。そのとおりだよ。

「そうだとしても。」ティナちゃんが続けた。

「わたしのお尻は、先輩の、です!」



お尻。ああ、俺が毎日叩いているお尻な。いきなりの話題なんで、全然繋がらなかった。ティナちゃんは、相変わらず変化球でくる子だ。

横を歩くティナちゃんを見ると、顔が真っ赤になっている。


「胸も?」

聞いてみたら、そのときにはティナちゃんは先に走って行ってしまっていた。


宿の部屋の前に着いたら、亭主とティナちゃんが喋っていた。

「おい、あいつはどこをほっつき歩いているんだ。宿賃を払わないのなら早く出て行けと伝えておけ。」

ティナちゃんが答えるのが聞こえた。

「メンデス先輩は、宿賃を滞納するような人ではありません。出て行く筋合いはありません。」


ティナちゃんには、宿賃のことは簡単に説明している。曖昧なままになっていることも知っているはずなんだが、どうやらおしのさんから色々聞いていたのだろう。宿屋の亭主のことも嫌っているのだろう。


「お前は、あいつの妾になったのか。ろくに食うもんもなかろうが。あんな奴の下で働くくらいなら、俺のところで働いたらどうだ。住み込みで雇ってやるぞ。」

手を出したらしい。ティナちゃんの「キャッ!」という声がした。おい、どこを触ったんだ。胸とお尻は、さっきから俺のものになったんだぞ。


物陰で様子を見ていたが、慌てて出て行って、亭主を軽く突き飛ばしてやった。

「うちの秘書になんてことをするんだ。警備隊に突き出すぞ。」


亭主が言い返す。

「一人前の口を叩くじゃねえか。宿賃払ってからものをいえ。考えてみれば、お前はここに来てから一度もまともに払ったことがない。」

まあ、一応は、そのとおりだ。そして、俺はこれからもこいつにまともに宿賃を払うつもりはない。


「お前こそ、まともな宿屋にしてから宿賃を請求しに来い。それから自分の女房の入院費用くらい、ちゃんと負担しろ。」


カバンから教会に書いてもらった領収書を出して、目の前でぶらぶらさせた。


「お前が、女房を教会に押し付けたきり、ほったらかしだから、教会でも困っていたんだぞ。俺が肩代わりして払っておいてやった。これで宿代はチャラだ。」


亭主は、意表をつかれたらしく黙ってしまった。

他の客たちがドアを開けて顔を出している。おしのさんは、ここの看板女将みたいなものだった。そのおしのさんを亭主が見捨てているというのは、相当外聞の悪いことだろう。


固まった亭主をそのままにして、部屋に入った。これで、俺の宿賃は、またよく分からないままになった。次に文句を言い出す前に、また教会から領収書を貰っておくことにしよう。


宿に帰ってから、少しだけティナちゃんを誉めておいた。それから、いつもどおり仕事した。いつもどおりだよ。ほら、資料を読んだり、ティナちゃんに筆写させたり。別に変なことをしてたわけじゃないぞ。

読んで頂いてありがとうございました。

お見舞いシーンはうまく書けませんでした。

今日は、もう少し投稿させて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ