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第4章 エルフヤクザ  1 離婚裁判は、宗教裁判だぞ。

教会は、宗教活動をつかさどる。もっともこの異世界では宗教といってもそれほどすごい教義とかはない。


教会の主な仕事は、暦の作成と洗礼と婚姻だ。あとは戸籍管理くらいだな。

お葬式は地域社会の役割だ。オンドレの町では自治会が中心になるらしい。なんでも、お葬式については、「死」の概念を巡って、論争になって収拾がつかなくなったらしい。そこで、教会は死については一切タッチしないということに決めたのだそうだ。割り切りすぎだろ。


そういえば、年号もあったな。検察官が「平成」って言ってた。ついでなので司祭さんに仕組みを聞いてみた。


「この国の各教会にお告げがあるんですよ。一斉にお告げがあって、これから平成を使いなさいっていうことになったんです。だから今は平成です。その前は昭和です。」


おお、日本と連動しているのか。どういう仕組みなんだ。余計に分からなくなってしまった。しかも今は平成23年。俺のいた日本から少し遡っている。まあ、あの神様のやることだもんね。まともであろうはずがない。分かっていましたよ。


で、教会の仕事である戸籍管理の一貫として、家族関係の訴訟は、裁判所ではなく教会の宗教裁判所に持ち込まれる。もっとも、法律は日本の民法とほとんど変わらない。


「で、今日はどういうご用件ですか。」

司祭が聞いてきた。

俺はナーナとティナちゃんを連れてきている。ティナちゃんは、一応カバン持ちとして連れてきた。自分でもカバンくらいは持てるけど、一応形としてだ。


「訴状を提出します。請求の内容は、


1 ナーナとナーナ夫は離婚させる。

2 ナーナ夫の所有する東区2丁目21番地の土地建物は、慰謝料として、ナーナの所有とする。


というものです。」


司祭は、

「分かりました。」

といって、訴状の内容を読み始めた。


「なるほど。離婚原因は、夫の経済DVですね。そうか、収入額を妻に明らかにしないことも経済DVとして離婚事由になるのですか。知らなかったな。」

そう、一般には知られていないが、ちゃんと文献があった。ティナちゃんに書き写させて証拠として添付している。


「妻に対し、収入を明らかにしなかった事実を証明する証拠として、ナーナさんの陳述書が付けられているのですね。」


これはよく誤解されることだが、人の供述も立派な証拠だ。ただ、人の供述は嘘である可能性がかなり高いから、そのまま信用されるということはない。その評価も含めて証拠としては証拠だ。今回は、ナーナに事情を説明させて、俺がそれを文章に書き直し、ナーナに内容を確認させてから署名させた。これで、ナーナの言い分が証拠となる。


「その他にも、違法薬物の使用による逮捕歴があり、今回はついに実刑判決を受けたということですね。ああ、ドリーミング・ゴブリンですか。これはいけませんね。あれを始めて、止められた人は聞いたことがありません。」


なんでも、最後は購入資金がなくなって、一人でふらふらと森に狩りに行くらしい。たどり着くまでに魔物に食われる場合もあるけど、仮にドリーミング・ゴブリンを見つけて、勝ったとしても、その場で爪を粉にして飲んで前後不覚になるから、集まってきた仲間たちに殺されるんだそうだ。そういうわけで、どう転んでもロクな結果にはならないらしい。


この薬物使用による逮捕歴については、ティナちゃんが判決文を裁判所で受け取ってきた。裁判所の文書だから、そのまま確実な証拠として使える。


「分かりました。この訴状は、相手方、つまりナーナさんの夫に送付しておきましょう。それで相手が反論してくるということになります。」


「司祭様、相手方は懲役中です。」

「ああそうですか。そうすると、刑務所に訴状を送ることになりますね。刑務所が本人に渡すかどうかは分かりません。面倒臭かったら、本人に渡さずにそのまま捨てるでしょうが、それは宗教裁判所の関知するところではありません。仮に手渡されたとしても、おそらく紙もペンもないので反論はないでしょう。そうなれば、教会としては、相手方が事実関係を認めたものとして扱います。ですから、ナーナさんが勝訴することになります。」


いわゆる欠席裁判だ。すごく安直だと思うが、こういうやり方が可能だとはこの世界では俺以外知らない。


相手方の反論提出期限が定められ、その日に判決予定日を入れてもらった。司祭も反論がない可能性が高いと思っているのだろう。あとはその日に出頭するだけで全て解決する。


司祭さんにお礼をいう。そうすると、遠慮勝ちにお布施を求められた。

特に断る理由もないが、相場が分からない。ティナちゃんに財布を預けて、払っておいて貰うことにする。


司祭さんが、

「ありがとうございます。当教会では、慈善事業もしておりますので、大変助かります。医療機関も付設しているのです。」

といった。

医療機関という言葉に反応した。


「ひょっとして、ここにおしのさんという方が入っていませんか。」

司祭さんが、当然のように答えた。

「ええ、お預かりしていますよ。お知り合いでしたか。」

そうか、こんなところに入院していたのか。病院ばかり回っていたが盲点だったな。

「お見舞いできますか。」

読んで頂いてありがとうございました。

休日だけあって、意外と早く作業できました。

次回はおしのさんとの再会シーンになりますが、まだ全然書いていません。おそらく明日にまた投稿できるかと思っております。

第4章は、エルフヤクザが登場します。お楽しみ頂ければ幸いです。


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