11 月刊オンドレの発行
「なんだねそれは。」
片桐組長が尋ねた。
「つまり、雑誌を作ります。内容は、このオンドレの町の立派な人たちを紹介するものです。別に売れなくてもいいんですけどね。収入源は広告料です。形ばかり発行して、無料で配ればいいでしょう。」
そうだ。オンドレ町の名士たちを褒め称える記事を書いてそれを雑誌にする。そうするとそれに広告を出すということは、中小企業とかにとっては結構美味しい話だったりする。偉い人とつながりができるもんね。少なくとも名前は覚えてもらえるだろう。自分の記事が出てたら、読むだろうしね。逆に、広告出せって言われて断るのも怖いだろう。記事がつまらんと言っているに等しい。偉い人を敵に回すかもしれないんだぞ。
「なるほど。それでも断ったらどうするんだ。」
「素直に引き下がるのがいいです。粘ると恐喝罪になりますしね。ただ、数ヶ月して、庭に猫の死骸とかが投げ込まれるかもしれません。それは私は知らないですけど。」
さりげなくやり口を教えてみた。本当は猫の生首の方が効果的なんだが、そこまでいうと、人格を疑われるので、比較的穏当な方法を教えることにする。
片桐組長がにやりと笑った。俺もにやっとした。
「じゃあ、俺が紹介状を書いて、偉い人のところに取材に行かせればいいんだな。先生取材と記事お願いできるか。」
「最初はやります。ただ、取材ばっかりやってると時間がきついので、ある程度コツがつかめてきたら、アンケート用紙みたいなのを作ります。それからは、誰か取材に行かせるようにして下さい。それを元になんか書きます。」
「そうか、そうすると、結構な金を作れそうだな。」
「あ、そうだ、そもそもこれは騎士団長対策としてやるものです。記事を書くということでいい気分にさせておいて、上納金を待ってもらうんです。その間に対策を考えましょう。」
「おお、そうか。そっちの対策もやりつつ、別のシノギもできるんだな。先生すごいな。」
俺がすごいのではなく、現代日本の文明を褒めて頂きたい。多くの人の知恵の蓄積が結集して、こういう手法が編み出されている。日本では、もう許されないことになっているし、道徳的にもよくないことだけど、この世界の片隅で俺がやるくらいなら、まあ問題ないだろ。
取材に行くときは、日当として金貨1枚を請求することにする。組の人間がとってきたアンケートを元に文章を書くのは無料とする。その代わり広告収入から発行費用を差し引いた利益のうち2割を頂くことにした。記者の名前としては、俺の名前は出さないように頼んでおいた。
数日後、今度は三丁目の健太がやってきた。オンドレ町の商工会議所長のアポが取れたそうだ。ペンと紙を持って会いに行く。
お読み頂きありがとうございました。
明日は、お昼くらいに投稿させて頂こうと思ってます。