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10 ドワーフヤクザのシノギ

「先生、困ったよ。騎士団長がケチつけてきやがった。」

片桐組長が言った。

「連れ込み宿は周辺の風紀を害するって言ってきた。」


それは正論だ。しかし、そういうのを取り締まる法律も条例もない。更に言えば、西島組の連れ込み宿は外見上は普通の建物だから特に風紀を害することもないはずだ。


騎士団長の名前を聞いた。そういえば名前を知らなかった。ゼットの上司だ。ゼットは検察官を兼務しているから普段は忘れているが、騎士団の副長だから、そういう関係になる。


四万十川しまんとがわっていうんだよ。四万十川土佐守とさのかみ権三衛門ごんざえもんだ。麝香猫人族だ。


猫人族の親戚らしい。いい匂いがするのだろうか。


四万十川土佐守権三衛門は、オンドレ伯爵領に近い土地を領地として持っているそうだが、若い頃に王都に出て王の小姓をしていたそうだ。その後、王の直轄軍の主計官をしていたそうだが、13年前の隣国との戦争に司令官の一人として参戦したということだ。


13年前の戦争は、この町に来てから誰かから聞いた記憶がある。たしかオンドレ伯爵軍が主体となって闘ったんだが、王軍も少数ながら援軍として駆けつけたと聞いた。敵軍に惨敗して多数の捕虜を出したと聞いていたが。


「当時、四万十川土佐守権三衛門は、44歳、伯爵軍が総崩れになったときに、王軍を率いて敵の進行を食い止めた。その功績が評判になって、「盾の権三」と呼ばれている。その後、王都を離れ、ここの伯爵に仕えることになった。まあ、引き抜きだな。」


「王軍の指揮官からここの騎士団長って、降格じゃないですか?」

「指揮官というのは、あくまでも一部隊の長だ。軍隊のトップではない。それに王の直轄領は狭い。伯爵の方が数倍裕福で権力がある。給料も高いはずだ。転籍は格落ちにはなるが、実質的な地位はここの騎士団長の方がずっと上だ。」


ほう。そんなものなのか。

「もっとも、本人が有能というわけではない。ああいうのは、ほとんど補佐が仕切るんだ。優秀な士官がたくさんついている。四万十川にしても、あの戦争のときは精鋭が守っていた。だから本人が命を張ったわけじゃねえ。それは分かっているんだろうが、伯爵は、四万十川の名前を買ったんだ。騎士団長というのはほとんど名誉職に近い。名前が売れている奴を雇っていると、舐められない。要するに看板として買っておいているというわけだ。どっちにしても、伯爵の軍事力は、騎士団を頂点に相当なものがある。伯爵自身も有能な方だと聞いている。トップが誰かはそれほど重要じゃないんだ。」


「難癖を付けるだけなら構わないんだが、巡回と称して宿の入り口に騎士を張り付かせている。入ろうとする客に職務質問をするもんだから、誰も入らねえ。」

うわー、それはすごく嫌だな。


ちょっと見に行った。西島組の連れ込み宿は大通りに面しているが、入り口は裏通りにある。確かにそこに騎士が一人立っていた。すごく居心地が悪そうだ。


男が一人、両脇に女を抱えて歩いてきた。

「とまれ!お前は何者だ。ここで何をしている。」

騎士が職務質問を始めた。かなり高圧的な職務質問だな。これがこっちでは普通なのだろうか。

男が答えた。


「俺は、北区に住む乾物問屋、柳屋英輔、39歳だ。俺の右にいるのはキャバ嬢のピーコちゃんだ。何日も通い詰めて、プレゼントを渡したりして、今日やっと口説き落としたところだ。左にいるのは、愛人のシャーリーだ。今から、この宿屋で3・・・をするつもりだ。集中しなければならないので、できるだけ静かにして頂けるとありがたい。それから俺の家に問い合わせたりはしないで欲しい。嫁にばれると死人が出る。俺の小遣いも減るので困るのだ。」


ピーコちゃんだ。高級寿司いさり火で片桐組長の隣に座っていた子だ。俺の傷の手当てもしてくれた。あの胸の谷間は、俺のものだと思っていたんだが。どうやら柳屋氏39歳に先を越されることになりそうだ。

組長も口をあけて固まっている。ピーコちゃん何をやってるんだ。


いや、それより、この乾物問屋さん、大物だな。男としての格の違いを見せ付けられた感じだ。騎士も怯んでいる。

「そ、そうですか。」

道を開いた。


「すまないね。」

と控えめに微笑みながら、乾物問屋は連れ込み宿の入り口に姿を消していった。


「ま、まあ、ああいう客もいるな。みんながああだったら問題ないんだが。」

片桐組長も目が泳いでいる。ピーコちゃんが入るのはいいのか。まあその辺は自由なんだろうな。


「それで騎士団長の狙いは、金だ。上納金を出せっていうことだろうと思う。噂だが、金に困っているというのを聞いたことがある。」

事務所に戻って組長と相談を続けた。


「しかし、連れ込み宿の当初の投入資金もまだ回収していない。それで上納金といわれても困る。騎士団長に払うとなると、更に町兵や警備隊にも払わなければ筋が通らなくなる。そこまでの出費には耐えられない。」


困ったな。


「ところで、さっきの乾物問屋は、お知り合いですか。」

さっき会釈をしていた。

「ああ、町の名士会でよく顔を合わせる。そうだ、先生も近々入会するといい。俺が推薦するよ。あ、俺が推薦しない方がいいな。誰かに頼んでおくから、その人に推薦して貰うといい。今後の付き合いを考えると、いろいろと有益なはずだ。」

そういうのがあるのか。


「この町の名士は、だいたい知り合いだよ。俺はヤクザだから、そんなにおおっぴらには顔を出さないが、一応会社もやっているということになってるから、入会資格はあるんだ。それで一応お付き合いはあるんだ。」


なるほど。ひらめいた。

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