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5 おい、そこのエルフ、下品だぞ

本作はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません。

書くのを忘れていました。

ふらりと外に出た。そろそろ晩御飯の時間だしね。

なんとなく町を歩く。いつも行くお店は、そろそろ飽きが来た。いくつかローテーションを組んでいたんだけど、それでもそろそろ限界だし。

明日は裁判の日だ。松本俊彦被告人(強盗傷害罪)の事件だ。準備は全部終わっていたので、ちょっとのんびりした気分だ。


おしのさんのことを考える。あれから、暇さえあれば病院を回っている。病院マップとかリストとかないから、あちこち歩いて探さなければならない。それでも、この町中のほとんどの病院は回っているはずだ。

それでも見つからない。


久しぶりに町の中央区まで来た。中央区は、東京でいえば銀座みたいな雰囲気があって、俺みたいな子供が一人ではいる雰囲気の店がない。

ないと思っていたら、妙に裏寂れた店が見つかった。ここなら大丈夫そうだ。居酒屋っぽいな。


入ってみた。カウンターに座って、食事を頼んだ。そこそこ美味しかったが、それよりも居心地が良かった。ちょっとゆっくりしたくなって、ジュースを頼んだ。


エルフらしき男が入ってきた。2メートルくらいある。細身だ。なかなかの男前だ。俺ほどじゃないけどね。で、カウンターについて、コートのポケットからコップを出した。なんか薄汚い感じのコップだ。

「マスター。俺のコップに、発泡酒入れてくれ。この分だけだ。」

エルフはそういって銅貨を数枚カウンターの上に置いた。


「マイコップを使うんだから、その分割り引いてくれよ。」

おおっ、コップ持参の上、量り売りで頼んでいるぞ。酒場でそんな飲み方する奴、見たことがないわ。店主も嫌な顔をして、とくとくと酒を注いだ。5センチくらい入れてストップだ。それをエルフはちびちびと飲み始める。と、ふと目を上げた。俺と目が合った。まずいぞ。かかわらないようにしようと思っていたのだが。


「兄ちゃん、なかなかの男前だな!俺ほどじゃないけどね!」

話し掛けられてしまった。


・・・


「ぎゃははははは!」

エルフは、大声で笑った。うっかり一杯だけ奢ってしまった。俺も人恋しかったのかもしれない。そうすると、エルフは、ゼットという名前を名乗り、お礼にナンパしてやると言い出した。

酒場の隅っこの方で座っている二人組の女の子に声を掛けた。

OLのジェニファーちゃんと女子大生の真由美ちゃんだ。

女子大生ってなんだよ。この町に女子大があるというのはチェックしてなかったぞ。

いや、ないらしい。ないけど、女子大生はいるらしい。

よく分からないけど、とりあえず深く考えないことにした。


真由美ちゃんは、そろそろ就職活動をしなければならないから、先輩OLであるジェニファーちゃんに相談をしにきたところ、飲みながら色々お話を聞いていたらしい。リクルートスーツが初々しいぞ。ゼットが、


「そういうことだったの!俺、社会経験長いから!エルフの森から来たから!385歳だよ。王都で修行して、文武両道を極めたゼット様だ!」と語り始めた。


385歳って、なんだよ。この前も調べたが、この世界では、経歴詐称は重罪だ。もっともあまりにありえない発言は、詐称と呼ぶにも値しないということで不問になるようだ。なお、エルフは、人間よりは多少は寿命がながいが、それでも120歳くらいだ。もっとも老化はかなりゆっくり。


「エルフの森?いいとこだよー。一度おいでよ!あ、でも俺、出てきちゃったんだ。」

こいつ、何をしたんだ。酒で失敗した口か。


「酒?酒は大丈夫だよ!結構飲む人多いから。」

エルフって、そういうのだっけ?結構飲むんだ。


「俺、狩りが好きなんだけどね、鹿とか猪とかよく捕まえるんだけど、なんか、エルフって、あんまりそういうイメージじゃないじゃん!」

そうだな。花の香りとかで生きてるイメージだった。


「猪はみんな喜ぶんだよ!猪は鍋が一番だね。で、鹿もみんな喜ぶんだよ!でも、みんな一回、悲しそうな顔をしてから、それから奪い合って食べるんだよ!まあ儀式だね。」

なんだその建前みたいなやつ。それより猪はその儀式はしないのか。悲しめよ。


「一度、村の長老が、お酒飲みすぎちゃって。酔っ払うと、ふらふらと森の外側に行く癖があるんだよ。森の外側は、人間の女の子がリンゴとか取りに来るからね。木陰から見てるの!長老はそういうの好きなんだ!低いところのリンゴは捨ててしまって、高いところのリンゴだけ残すんだよ。それで、その下に脚立おいておくんだよ!美脚がーとか三角形がって言ってる。酔っ払ったときによく話しているから、村のみんなは知っているけど、長老は、記憶がないからみんなには知られてないって思ってるんだ!」


長老、それはよくないことだぞ。みんなも長老に教えてやれよ。どうして生温かく見守るんだよ。あとリンゴ捨てるな。欲望に直線で進みすぎだろ。


「それで、そのとき長老が、鹿を矢で仕留めたハンターたちを見つけたんだ!別にいいんだよ別に。鹿を捕まえるの当たり前だよ!逆に、鹿を殺さないで、どうやって食べる?でも長老酔ってたしさ。女の子見にきたら毛皮纏ったハンターだったんで、怒っちゃったんだよ!」


うーん、まあエルフって、怒ってるイメージあるよね。エルフの森に迷い込むと、怒ったエルフが通常出てくる。あれって、そういう事情があったのか。まともに話ができないくらい激怒するのはそういうことだったのか。せっかく手間掛けてリンゴのトラップとか用意してたのなら、怒るかもしれないな。


「『人の子らよ。なにゆえ、かよわきものを殺めるのか。』って!一回言いたかったみたい!酔ってたし。あの人、絡むときがあるんだよね。」

そのセリフ、絡んでいたのか。


「そのとき、俺、別のところで鹿を捕まえて殺したところだったから、それを担いで歩いていたんだよ!ちょうど鉢合わせしてしまって!ちょっと俺状況わかんなくって、『こんにちは。エルフだけど、鹿捕まえたよ!』って声を掛けたら、長老もハンターも固まってるんだ!」

なんだこいつ面白い奴だな。でも出世しないぞ。


「長老が、『おっ、お前は!敵対する離れた村の若いエルフ!』とかって叫ぶんだよ。いや、敵対してないし離れてないよ。お隣さんだよ。長老、昨日、奥さんに言われてうちに醤油借りに来ただろ。帰り際に、俺のお姉ちゃんのお尻触って帰ったから、姉ちゃん大激怒だよ!いきなり離れた村にするなよ!そんな設定、事前に言ってくれないと、俺も合わせられないよ。あと、うちのお姉ちゃんのお尻触るなよ。」


ゼットはそう言いながら、隣の女子大生のお尻を触った。こんな風に触ったんだぞ。とか言ってる。おお、エルフのわざだな。真由美ちゃんも、ケタケタ笑っているよ。


「長老も昨日のこと思い出したみたいだった。俺が言い返そうとすると、ちょっと気まずい顔して、『むむっ、西の森で、樫の木たちが救いを求める調べを奏でている。急がねば』とか言いながら、戻っていっちゃった。」

すごい言い訳だな。


OLのジェニファーちゃんが食いつく。紺のタイトスカートからこぼれる白い太ももがまぶしい。

「えー、木の調べって、やっぱりエルフさんたちは聞こえるんですか?」

目をわくわくさせながら聞いている。可愛いな。俺もお尻撫でてもいいだろうか。太ももとかも撫でたい。


「えっ、調べを奏でるかって?うーん、木はねー、木は、基本ざわざわいってるよね。」

ああ、いってるね。それのことか。それなら俺も聞こえるよ。


「それで、長老と気まずくなってしまってさ!村の雰囲気とも、俺、合わないし、みんなひそひそ俺の悪口言うし。「あの人は常識がない」とか、「配慮がない」とか、「みんなと違う」とかさ。中身のない悪口いうんだよ。俺がとってきた肉は食うのにさ!それで悪口いうんだ。ひどくない?それで出てったんだ!」


悲しい話だな。それで金がなくて酒も飲めないのか。

「それは給料が遅配されてるからだ。」

ゼットは急に悲しそうな顔をして言った。

俺たちは、なんだかしんみりしてしまって、それぞれのグラスの酒を飲んだ。なんだか悪い気がして、ゼットも含めてみんなに一杯ずつ追加で奢った。


それからは、ゼットの、「給料を払う雇い主の探し方」講座が始まった。女の子も自分の仕事場のことや、就職活動のことを話している。真由美ちゃんは、スライムの平均移動速度を専攻しているそうだ。ゼミのレポートが辛いと言っていた。就活で、「スライムの平均移動速度を学ばれたそうですが、それが当社にとってどのようなメリットがありますか。」って質問されるらしい。おい、ここ異世界だよな。ゼットは、女の子に尋ねられて、「職業?正義の味方さ!」とか言ってる。なんだよ、その職業。それから真由美ちゃんの膝から手を離せよ。俺は、どっちかというと聞き役に回っていた。エントリーシートの書き方とかは話したけどね。


なかなか楽しかった。いい感じで酔った。女の子たちを送っていこうとしたが、すぐ近くだから大丈夫って言われた。ゼットも一人で帰っていった。明日も仕事が忙しいって言ってた。

俺もぶらぶら帰ることにする。この前襲撃されたことは忘れていた。まあ大丈夫だろう。明日は裁判だ。緊張するわ。

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