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4 雇うなら可愛い秘書を

そんな感じで数日が過ぎた。


疲れた。地上げの手配と刑事弁護と掛け持ちで走り回っている。敏腕弁護士ってやつだな、俺。現代日本と違い、電話もないし、コピー機もない。銀行もないから、金の受け渡しも全部手作業だ。電車もタクシーもないから、町の端から端まで徒歩で移動するしかない。一つのことを済ませるのにすごく時間が掛かる。


今は、刑事弁護が1件だ。これは最初の日に大まかな形は作っていたから、あとはそれほど大変ではなかった。それから西島組の地上げだ。これも工事が始まってしまうと、俺はやることがない。たまに顔を出すくらいだ。建物が完成したら、賃借人との契約締結をしなければならないが、これも契約書はもう作ってある。呼ばれたらいつでも持っていけばそれで終わりだ。


それだけなのに、ここ数日でへとへとに疲れた。現代日本がどれだけ恵まれている世界か本当に実感した。これで仕事を増やすと、すぐにパンクしてしまいそうだ。もっとも刑事弁護の報酬だけで、この世界の物価水準では食べていくのには十分な額にはなる。でも、そうやっているうちに同業者が増えてくるかもしれない。今のうちに、あちこちに仕事の幅を広げておいて、しっかりと基盤を固めておきたいのだが、俺の体力では、今でもしんどいぞ。


ベッドに寝転がって、そんなことをつらつら考えていたら、ドアをノックする音がした。控えめな音だ。これはぼんくら亭主じゃないな。そう思ったが、起き上がる元気もない。「どうぞ!」と声を上げた。


ドアが開いた。ティナちゃんだった。ティナちゃんは、おずおずと俺の部屋に入ってきた。そういえば最近忘れていたな。どうしてくれよう。いや、相変わらず可愛いけど、それとこれとは別だ。可愛い顔をして、愛想がよくて、それで裏では平気で人の悪口をいう。前の世界で俺が一番嫌いだったタイプだ。そういうタイプの女に何度も馬鹿にされてきた。


ティナちゃんが口を開く。

「あの、メンデス先輩」


俺は起き上がる必要も感じなかった。ティナちゃんの顔も見ずに言った。

「悪いけど疲れているので、このままで失礼するよ。机の上に袋が置いてある。君がくれた古着は、着る気になれないので古着屋に売った。その金は持って帰ってくれ。」


「メンデス先輩・・・。わたし・・・ごめんなさい。」

床に座り込んで泣いていた。立ち上がって、机の上の袋を持ち上げ、口をあけてティナちゃんの目の前で銀貨や銅貨を振り撒いてやった。

「これをもってとっとと帰れ。俺は裏表のある人間が大嫌いなんだ。」


ティナちゃんが顔を上げた。

「もう、会えないんですか?」


何を言っているんだ。別に俺とティナちゃんは付き合っていたわけでもないし、友達でもない。単なる近所の人じゃないか。いや、違うな。そういう意味ではなく、俺とティナちゃんは、親しかったのは確かだ。そして俺はティナちゃんとの縁を切ろうとしている。いわゆる絶交という奴だな。改めて考えてみた。絶交て。なんか懐かしい言葉だったな。幼稚園や小学校の頃とかだと、友達との関係では一番重たい言葉だった。喧嘩してるとか、お前嫌いだとかそういうのと全然重みが違った。


改めて考えてみる。そもそもティナちゃんは、俺のいないところで俺を酷く馬鹿にしたように話していた。でも、正直それがティナちゃんの本当の俺に対する気持ちだとは思わない。友達との会話のノリでそんな風に言ってしまったんだろうと思う。それは大人でもやってしまう人間はいる。ティナちゃんはまだ13歳だ。それくらい言葉が勝手に出てしまうのは仕方のないことで、ティナちゃん自身の人間性を全否定するほどのことではないとも思う。

そして絶交。俺は、この世界に来てから、そこそこ大変だったと思う。もういやだと思うことも多少はあった。全般的には大丈夫な生活だったと思うけど、嫌な出来事もあった。そういうささくれだった気持ちがティナちゃんに対して爆発したということ自体は否定しがたい。

改めて考えると、絶交というのは、重すぎることだということは分かった。


ティナちゃんが言った。

「あの、メンデス先輩。私、確かに先輩のこと、酷い言い方しました。本気じゃなかったんです。お友達に自分の気持ちをいうのが恥ずかしくて、でも先輩とお知り合いになれたことが嬉しくて、なんだか気持ちが浮ついていたんです。本当にごめんなさい。」


うん、それはかなり納得しやすい謝罪だ。


「あの、メンデス先輩、お仕事始められたんですよね?そのお仕事、私お手伝いできませんか?実はウチの雑貨屋さん、ちょっと売り上げが悪くて、私が外で仕事を探した方がいいって言われているんです。一日大銀貨2枚で如何でしょうか。お使いとか、得意ですよ!配達とか一杯していたので。勉強は得意じゃないですけど、一応文字は書けます!」


変化球で攻めてきた。


「えっ?」素で反応してしまった。

「でも、俺はしばらくは、この部屋で仕事をするつもりだ。俺と二人っきりになるんだよ。」

思ったことをそのまま口に出してしまった。なんか、下心ありますって、モロバレだよ。恥ずかしいじゃないか、俺。


「構いません!お母さんに聞いたら、メンデス先輩なら信頼できる人だって!」


どういう根拠で信頼できるんだよ。ああ、まあ俺、イケメンだもんな。しかしお使いしてくれる子というのは、確かに魅力的ではある。字が書けるのなら、図書館の本とか書き写して貰えたりもするのか。身元もしっかりしているから、金の持ち逃げの心配もない。


「ちょ、ちょっと考えさせて貰えないか。ニ・三日考える。あと、俺は君に対して愛想よく振舞える自信がない。」


「はいっ!では、明後日にまたお伺いしますね!イカの塩辛を作って持ってきますから、食べて下さいね!」


イカの塩辛?この世界にもあるのか。この町の近くに海があったっけ。っていうか、いきなり塩辛持ってくる女の子って、なんだ。びっくりしてしまって、ちょっと動きが止まってしまった。


「イカ?」


声に出したときには、もうティナちゃんはいなかった。ああそうだ、ティナちゃんは、すぐに消える子だったわ。


結局、二日後、ティナちゃんに働いてもらうことになった。塩辛は絶品だった。お茶も持参していたところがポイント高かった。


週末なので多い目に投稿致しました。

明日も夕方か夜に投稿させて頂きたいと思います。

読んで頂いてありがとうございました。


ここがつまらんとか、ご指導頂ければとてもうれしいです。

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