16 分隊長、あんた責任問題になるぜ
町兵南区屯所に行く。昨日ちょっと話した分隊長が席に座っていた。特になにもしていない。ちょうど良かった。
「どうもです。」
「おや、昨日の君か。昨日はありがとう。結局、犯人は見つからなかったんだけどね。目撃者もそのまま行方不明さ。やっぱり目撃者だという犬人族が怪しかったんだろうな。君のおかげで無実の男を逮捕しないで済んだ。礼をいうよ。」
「いえいえ、余計な口出しですみませんでした。みなさんでしたら、遅かれ早かれ、六郎さんが犯人じゃないことには気付いただろうと思います。ところで、屯所には留置場もあるんですね。」
「ん?あるよ。今も何人か入っている。泊まってく?」
分隊長さん、冗談がきつい。
「刑訴法上、弁護人選任権の告知が必要ですが、やってます?」
「・・・」忘れてたっていう顔をしているぞ。それも当然だな。弁護士がいないこの町で、頼むといっても頼む相手がいない。そうすると「お前には弁護士を頼む権利があるぞ」と告知しても意味がない。
「一応、黙秘権は告知してるんだぜ。ただ、弁護人の件はすっかり意識から抜け落ちていた。言い訳になるが、この町の留置場ではどこもそうだろうと思う。それで問題になったことはない。理由は分かるだろう?」
そうだろうな。そういう知識が普及していないのだから、問題になるはずがない。
「困りましたね・・・。違法な状態がそのまま続くと、責任問題になるかも。」
不安を煽ってやった。
「そうだな、君の言うとおりだ。これからは告知をすることにしよう。どっちにしても形式だけのことだ。」
あと一押しだ。
「それで選任したいって容疑者が言ったらどうします?」
分隊長が笑う。
「そりゃ、知り合いの弁護士がいれば連絡とってやるというさ。いないだろうけどね。そういえば、以前、王都の弁護士を呼んでくれっていう奴がいたな。手紙を出させてやったよ。何日かしてから本当に弁護士がきたからびっくりした。金持ちだったんだな。そういう知り合いがいない容疑者はどうしようもない。気の毒だと思うが、俺たちの仕事としては、その方が楽ではある。」
「なるほど。これからは、そういう容疑者がいたら俺に連絡して下さい。今日から、俺、弁護士になるんだ。」
分隊長さんは、わっはっはっと笑って、承知した、といった。捜査側としても、わけのわからん弁護士が来るよりは、多少なりとも気心のしれた弁護士の方が安心だということらしい。話が早くて助かった。本当は他の屯所にも話を通しておきたいのだが、遠いところで何度も呼び出されるのも嫌だし、そもそもいきなり15歳の俺が行っても相手にされないかもしれない。とりあえず南区で実績を作ろうと思った。
ちなみに、今日は屯所は静かだった。
聞いてみると、隔日で警備隊と回り持ちになっているらしい。今日事件が起きたら、巡回している商工会議所所属の警備隊が処理する。その間、町の軍隊である町兵は、休暇を取ったり、城壁警備に人を回したり、城外で訓練をしたりする。所内で取り調べをすることもある。
今日の外でやる仕事はこれで終了だ。そろそろ帰ろう。少し暗くなってきた。




