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10 朝食は涙の味がした

俺は宿屋に戻って自分の部屋に入った。机の上に紙が敷いてあって、その上にサンドウィッチが置いてあった。瓶に飲み物が入っていた。水じゃなくて、何かの果汁みたいだ。もう一つ、これは水が入った瓶も置いてあった。お皿じゃなくて紙なのは、俺が返しにこなくてもいいようにというおしのさんの気配りだろう。座って食べ始める。昨日の夜から、流せなかった涙が流れていく。飯を食うときには、人の心が無防備になる。こらえていたものが押し流されていく。俺は一人で泣きながら、おしのさんの作ってくれた朝食を食べ終えた。


机の上にろうそくとマッチが置いてあった。おしのさん、昨日の俺の話を聞いて、用意してくれたのだろう。


一晩、外で寝ていたので、身体が痛い。ベッドに転がりたい。でもそうしたら、今日の一日、俺は全然動けないだろう。立ち上がって、着替えることにした。ティナちゃんは色々持ってきてくれたので、着る服には困らない。下着はさすがに貰わなかったので、昨日のまま替えないことにした。今日帰ってきたら、洗って部屋の隅に干しておこう。寝るときは、すうすうするだろうが、構うものか。


部屋の外にでる。勇気がいる。階段を降りる。あの亭主と顔をあわせたくない。何か言われるんじゃないか、また馬鹿にされるんじゃないかって思うと怖い。深呼吸した。腹を据えた。あいつが何をいおうが、俺は俺だ。俺が一番弱っているときにあいつが俺のことをどう思おうが、俺の知ったことじゃない。俺なりに死に物狂いになって生きる道を探す。それでもあいつが俺を馬鹿にできるというなら、好きなように言えばいい。


食堂には誰もいなかった。カウンターに行って、おしのさんの顔を見る。心配を掛けた。もう俺は大丈夫だ。安心して欲しい。おしのさんの目をまっすぐに見た。


「おしのさん、ちょっと出かけるよ。晩御飯には戻る。」

おしのさんの目が大きく開いた。俺の口調に驚いてる。いままでは丁寧語だった。

おしのさんは、人妻で、年上の女だ。でも、いつかおしのさんを俺の女にする。働いて、あいつからおしのさんを奪って俺の女にする。幸せにする。そう決意した。


おしのさんは、ふふっと笑って小さな声で答えた。

「いってらっしゃい。早く帰ってきてね。」そのあと、もっと小さな声で、「あなた。」と聞こえたような気がした。


本日分です。お読みいただいてありがとうございました。

明日も同じくらいの時間帯に投稿させて頂きます。

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