第2章 弁護士になってみよう 1 片桐です、とヤクザが名乗った
先代の跡を継いで、西島組を預かっております。片桐です。」
ものすごく横幅があって、迫力のあるドワーフが、重く低く響く声でそう名乗った。スーツだ。ネクタイつけてる。ちなみにネクタイは白地にうすい模様が入っていて、ワンポイントにバラが入っている。片桐さんだ。ドワーフだけど片桐さんだ。とにかく迫力がある。ブルドーザーの前で体育すわりをしている気分になった。もっとも今は体育すわりではない。なんか毛がふさふさしているソファに座っている。身体が沈み込んでしまいそうだ。これはこれで却って緊張するな。
組長もソファに座っている。ソファの後ろに、黒光りする鎧兜が飾ってある。日本刀もおいてある。ヤクザかよ。まあ、ヤクザだよ。
「丁寧なご挨拶、まことに痛み入ります。南の方から避難して、宿屋に入っております。メンデス・池です。」
よく分からない挨拶になってしまった。
「兄ちゃん、そんなに固くならなくてもいいよ!」三丁目の健太と六郎が声を掛けてくれた。
片桐の眼がぎらりと光る。
「おい、てめえら先生に向かって、なんて口を利くんだ。」
先生?俺のこと?
「特に六郎。先生はお前の命の恩人じゃねえか。」
いやいや、そんなおおごとにしないで。頼むから。
「逮捕勾留で23日って考えてただろ。今回の事件は、誰かがてめえをはめようとしてた事件だ。下手をすると起訴されて有罪になってたかもしれねえ。殺人罪の法定刑は最高で死刑だ。運が良くても無期懲役か5年以上の懲役だぞ。そうでなくても、殺人の取調べは厳しい。ましてやおめえはヤクザだ。取調べの途中で死んでたっておかしくないんだ。」
そうか。そんなに厳しい状況だったのか。
片桐組長が俺の方をみる。
「先生。おれたちはヤクザもんだ。犯罪に手を出してしまうこともある。この町の警察は、一応はまっとうだ。法務官も性格は悪いが、仕事はおかしくはない。それでもおれたちにとっては厳しいって思うような裁判になることが多い。」
法務官?ああ、そうか、オンドレ伯爵に仕える人で、この町の裁判をする人だったな。
三丁目の健太がいう。
「法務官は、本当に性格が悪いんだぜ!」
どんな人なんだろう。異世界だからな。長くて白い髭とか伸ばしているんだろうか。ん?それは魔術師だったっけ。
「髭?ああ、あるよ。法務官は猫人族だから。」六郎がいう。
「猫人族?」聞きかえした。
健太が興奮しているようだ。昔のことを思い出したらしい。
「そうだよ!法務官は、マイケル・リチャード・デイヴィス三世っていう名前の猫人族のじじいだ。代々、法務官を多く出してる法官貴族の家系だ。俺が4年前にカツアゲでつかまったとき、
『被告人は、素直に事実を認める一方で、被害者について、「俺も悪かったが、あいつも悪かったところがある」などと供述しており、真摯な謝罪の言葉を述べているものとは到底評価できず、反省の気持ちが全くみられないにゃ!』
っていいやがったにゃ!」
健太、お前まで語尾がおかしくなっているぞ。それに裁判で、「あいつも悪い」って、それはまずいだろうよ。
「検察官もヤクザには厳しい。」片桐組長が呟く。
そうか。でも、あんたたちには悪いが、司法機関や捜査機関がヤクザに厳しいのは当たり前だと思う。逆に緩かったら、その方が問題だろうよ。
ここまでありがとうございました。
今日の夜にもう少し投稿したいと思います。