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0と1について知る必要がある。 そのⅣ


「な、…何」


 咄嗟に出た言葉はそれだった。




 買い出しに出掛けた帰りだった。

 誰もいない、普通の道を歩いていたのだが、そこに急に人が現れた。


 そう、いきなり降って湧いたかのように。


 歳はちょうど朔と同じくらいの、そして同じ制服を着た女の子。

 そして、彼女は突然話し掛けた。


「初めまして、高山朔君。抵抗せずに一緒に来ていただきましょうか」

「え…?い、嫌です」


 知らない人について行ってはいけない。そんなのは子供でも知っていることだ。

 反射的に答えると、彼女は不気味に、笑った。


「そう、ですか。仕方ないですね。少々強引にいかせていただきます」


 彼女の身体がぴくっと反応したかと思うと、一気に変貌した。

 灰色の毛に覆われ、手を地面に着けて低く唸る。

 凶暴な牙を剥き出しにし、こちらの出方を窺っている。


 その姿は、まさしく狼。


「な、…何」


 そうして、最初に戻る訳である。


「貴方には我々の力になっていただきましょう」

「…い、嫌です」

「…だから、」


 苛立ったように彼女、いや狼がこちらに向かって突進してくる。


「貴方には拒否権がないと行ってるのよ!」

「ひっ、」


 こんな、死に方で僕は終わるのか。

 母さんを、助けてあげられないまま、高校生活を、送らないまま。

 助けてくれると言った、先輩方に何も言えないまま。


 …助けて、くれる?


 その言葉が浮かんだと同時に、雷の言葉を思い出す。


『……。何かあったら俺の名前を叫べ。すぐ行く。』


 目の前に迫る狼が、急にスローモーションになったように見えた。

 そうだ。まだ、僕は死ねない。



死んでたまるか。



「雷っ!」



叫んだかと思うと、視界は鮮血に染まった。




「朔、怪我してないか」


 狼の首筋に顔を埋めたまま、見慣れた制服と、髪色の男が声をかける。

 その声、その姿。


「雷、先輩」

「なんだ。さっきは呼び捨てだったのに。で、無事か?」


 狼から離れて、背を向けたまま荒々しく口元を拭う。下ろした腕には、血がべっとり付いている。


「大丈夫です。…どうして、こちらを向いてくれないんですか」


 恐怖か、それとも驚愕か。

 そのどちらでもあって、どちらでもない気がする。


 声が、震えた。


「……お前に、嫌われたくないからだ」


雷の声も、震えていた。


「嫌ったり、しません」

「言い切れんのか?」


 即座に返されて、黙り込む。


「俺は、人間じゃない」


 目の前で、見せられたから別段驚きはしない。


「俺は、コイツと同じ半獣だ」


 ぐったりしている狼を指差して、言う。


「……どうして、逃げないんだよ」

「助けてくれた人を怖い、とは思いません」

「無理すんな」

「してません」


 だから、こっちを向いて下さい。


 そう言うと、雷はそれでも渋り、「なんで」と呟く。


「…お礼が、言えないでしょう」


 ぽた、と音がして地面に染み込んだ。

 雷が、ゆっくり振り向く。

 口には、まだ血が付いている。

 それでも、怖くない。

 優しい、思いやりのある人だと、知っているから・・・・・・・


「ありがとう、ございました」


 ゆっくり頭を下げると、雷は血の付いていない手で頭を撫でた。


「雷、悪いがもう一仕事してくれ」


 何故か頭上から声がして、そちらを向くと、徹が屋根の上に座っていた。


「お前、いつから!」

「お前がちょうど泣きはじめたところから」

「み、見てんじゃねぇよ!」

「別に見たくて見た訳じゃない」


 すっと屋根から徹が降りてくる。

 その人間離れした動きに、朔は不審に思う。

 

(まさかこの人も、半獣……?)


「高山君、悪いんだけど、囮になってくれるか?」

「囮、ですか」

「な、…ふざけ」

「雷は黙ってろ」


 雷の口にどこから出したのか、ハンカチを当てて押さえる。


「むぐ、んん!?」

「絶対に、守る。悠紀も、継も来る。二人はコイツなんかより遥かに強い。…まあ君が断ったところで、こういうのがぞろぞろやって来て危険な目に合うんだけど」

「んーん、んんん!(それじゃ、脅しじゃねえか!)」

「わかりました。お願いします」

「んん!(おい!)」


 即答した朔に、雷が叫ぶ。


「んんんんーん!」

「ちょっと何言ってるかわからないです先輩」


 朔が真顔で言うため、雷がぴき、と固まった。


「コイツは無視していい。…で、お願いなんだがこれから普通に部屋に帰ってくれるか?」

「え?」


 普通に、帰る?


 予想にもしなかったことを言われ、面食らう。


「なるべく、人通りが少ない広い道を選んで、ね」

「それだけですか?」

「簡単だろう?」


 確かに、と頷く。

 つまり、道の途中でどうにかする、って事なのか。


「…わかりました。あの、気になることがあるんですが」

「何?」


 朔は少し口ごもり、そして俯いた顔を上げた。


「皆さん…雷先輩みたいに半獣、なんですか?」

「いや、違うよ」


 思い切って言ったにも関わらず、あっさりと答えられて面食らう。


「コイツはトラの半獣、俺が人間離れしてるように見えるのは、そういう訓練を受けた、ってだけ。詳しくは面倒だから言わないけど、俺はただの人間だよ」


 あー、でもあれか、と徹が頭を掻く。


「悠紀と継については、本人から聞いた方がいい。あれは0と1だから」

「0と、…1?」


 問い掛けるように呟いたが、徹は笑って何も答えてくれなかった。


「さて、朔はもう行け。二人がいるから大丈夫」


 徹の顔を見て、強く頷いて朔は歩き出した。




「雷、ちょっと白まで走って情報貰ってこい」

「んん!?」


 くぐもった声が聞こえ、今更口を押さえていたことを思い出す。


「ああ、悪い悪い。忘れてた」

「ぷはっ、ふざけんなほんと!で!?なんで白なんだ!?露じゃないのか?露だったら向こうの親玉ぶっ潰してくんのに!?」

「やめろ、落ち着け。今回、露国に白国が協力していて、悠紀が白国をこちらに取り込んだ。だから、次の露国の動きの情報を貰ってこい、って」


 お前の大好きな継から伝言めいれい

 徹が囁くと、雷は少し顔を赤くした。


「や、やめろ。…白国の、誰に会いに行けばいい」

「もちろん、戴氏」

「た、…た!?」


 あまりに大物の名前が出たため動揺して声が上擦った。


「まあ、悠紀の使い、って言えばすぐ通してくれるだろう。それに、覚えてるだろう?」


 その後に略された言葉を悟って、頷く。


「わかった。いつまでに戻ればいい」

「明日の一時限目に間に合うように。厳守な」


 此処から白国まで、飛行機で8時間はかかる。

 だが雷は、走って行こうとしている。飛行機だと、遠回りになるからだ。


「んじゃ、行ってくる。悠紀と継、あと…朔を頼んだ。絶対守れよ、あとお前自身もな。死んだら殴ってやるから覚悟しとけ。あ、あと俺がいなくてもちゃんと…」

「わかったわかった。そういうお前も無事帰ってこいよ」


 雷の弾幕発言を遮って、徹が苦笑する。


「おう、じゃあな」


 雷が、屋根の上にジャンプしていく。

 姿が見えなくなったところで、徹は血まみれの狼を見下ろした。


「…生きてるんだから起きろ」


 先程まで、雷や朔と話していた声とは比べものにもならないくらい、冷たい声。


「聞きたいことがある。目を開けろ」


 そう言っても動かない狼に、徹は足を踏み付けた。


「ぐっ…」

「拷問がお好みか?それとも単に、痛いのが好きか」


 ぎりぎり、と音がするくらい体重をかけていく。


「うあ…ぁあ…!」

「目を開けろ。そして質問に答えろ、永嶋閑ながしましずか


 名前を呼ばれたことで、驚いたのか目を薄く開ける。

 その目が、徹を捉えるといっそう目を開いた。


「生徒…かい、ちょ、…?」

「ああ。お前は露国の者だな」


 その言葉一つで目を泳がせる。

 徹は表情一つ変えず、また体重をかける。


「ぐあああっ!」

「目を、逸らすな」


 狼―――永嶋閑はその冷酷な目を、もう一度見上げた。

 こんな、冷酷な動物は他に見たことがない。


「露国は、何故朔を狙う」

「しら…ないっ!…ぎ、ぁぁあああ!」


 ぐしゃっ、と音がする。

 骨を踏み砕いたのだ。それでも徹は涼しい顔をしている。


「ああ、左前はもう使えないな。次は左後ろ、だな」


 そう言って閑の後ろ足に足を乗せる。


「ひっ、」

「お前が喋るまで、次は右前、右後ろ、それでも喋らないなら…」


 徹は右手を制服のポケットに入れ、何かを取り出した。


「これで、皮を剥ぐ」


 閑の顔がわかりやすく青ざめた。

 徹が取り出したそれはナイフだった。しかもかなりしっかりしている。


「お前の皮を剥いで、喋る気になった頃には血だるまだな」


 くす、と冷酷な動物は笑う。


「俺はやるよ?お前が死ぬまでずうっと、ね。喋らないで済む、なんてこと考えたり出来ないくらい、残酷なやり方で、聞き出すからな」


 じゃあ、道端だとうるさいから移動しようか、と言って閑を抱き上げる。


「お前が回復してから、やるのも面白そうだな」


 叫びすぎて肩で息をする閑に、徹はニヤリと笑って手刀を落とした。




やっと少しだけ彼らの正体がわかってきた…(遅い


雷はトラの半獣ですが、人を襲ったりはしません。でも定期的に動物性の血を飲んでます。

徹はただの人間とか言ってますが中身は…という感じです。幼い頃に訓練を受けてました。

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