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0と1について知る必要がある。 そのⅡ




「おかえり、継」

「只今戻りました、悠紀」


入学式を端から見ていた悠紀は、横に立った気配で囁きかけた。

勿論、相手も囁き返して来る。


「やっぱり継に名前で呼ばれると嬉しいな。親しい感じ満載で」

「…今は、友達同士、ですから」

「じゃあ敬語も止めてよ」

「敬語はいつものことでしょう。寧ろ止めたらクラスの皆が心配します」


むぅっと悠紀が頬を膨らます。


「継の馬鹿。…高山朔は理事長のもとに届いた?」

「はい。徹が無事に」

「そう。じゃあそろそろスピーチか。…そういえば継、先程この中に露国つゆくにのものの気配がした」


 継が今まで合わせなかった視線を悠紀に向けた。その表情は焦りを感じている。


「…まさか」

「狙いはボクじゃない。高山朔だ。敵意は感じなかった。だけど負の感情が溢れ出ている」


 悠紀はゆっくりと継を見た。


「絶対に、高山朔を守れ。これはちょくだ。他の者にも伝えろ。万が一の場合、ボクも…」


右目に眼帯越しに触れる。


「これを使う」

「悠紀、ここでは駄目です。隣国から通達が来てしまいます」

「知るか。先に露国がボクの領土に私兵を送り込んで来たんだ。高山朔はボクの友人だ、とでも言えば十分理由になる。そもそもボクの民を攻撃した時点で理由になるから」


継は溜め息をついた。この主は少々…いや大分、過激なことが多い。


「…承知致しました。仰せのままに、勅を伝えて参ります」


 継が言うと、悠紀は嬉しそうに継の腕に自分の腕を絡ませた。


「ちょ…悠紀」

「継は優しい。その優しさが、いつか自分を傷付けないといいけど」

「え…?」


 継の訝しい表情に悠紀は優しく笑い掛けた。


「いや、何でもない。そうならないように、ボクがいるんだから」


 そうして小さく、継の首を撫でた。


「うわぁ…広い、ですね」


 朔は入った瞬間、そう声を漏らした。


「そうかしら?ここがあなたの部屋よ。ある程度の家具は揃ってるし、防犯防音、何でも機能をつけてあるわ。欲しいものがあれば言ってくれて構わないし、自分で買いに行きたくなければこちらで手配するし。友達を呼ぶのもありよ。まあ、つまりは好き勝手して頂戴、ってこと」


 理事長の言ったことが半分くらい理解されないまま、朔の頭を通り過ぎた。色々凄すぎる。特待されすぎな気もする。


「い、良いんですか?」

「勿論。その代わり、勉強頑張ってねってことよ。青春していってね」


 意味ありげな視線と言葉に顔が赤くなる。それも良いのか。


「じゃあ、今日は自由だから荷物整理とか部屋の場所確認とかしていて。連絡事項は後で生徒会長に向かわせるわ」

「えっ、そ、そんなことを生徒会長にやらせて大丈夫…じゃないですよやっぱり!いくら息子だからって!」


 いいのいいのーと理事長は手を振りながら部屋から出て行ってしまった。




「…勅です」


 継のその一言で二人の顔が強張る。


「露国の私兵の気配を感知。狙いは主でなく高山朔と思われる。全員なんとしても彼を守るように、と」

「…露、国…だと?!どうして今仕掛けて来るんだよ!だって今内部は…」

「今はそういう話をしていても仕様がないだろう、雷。今出来ることをすべきだ」


 雷の言葉を遮って、徹がゆっくり膝を折った。


「勅に、従います。…雷、お前も早く」


 雷は渋々徹と同じように膝を折った。


「勅に、従います…継、悠紀は高山朔に会いに来るんだよな?」

「ええ。…そろそろ生徒会室に行きましょうか。高山君が来てしまう」


 継は二人に背を向けると、小さく呟いた。


「…私は跪かれるのが嫌いです。貴方達だけは、友人でいてくださいね」


 雷と徹は一瞬驚いて、嬉しそうに笑った。


「「当たり前だろ」」


 継は振り返りかけて、また背を向けて小さく笑った。




「生徒会室…生徒会…室、あ、あった」


 理事長に借りた自分の部屋をでてから、さまよい迷って30分。

 やっと生徒会室のプレートを見つけた朔はその扉に唖然とした。


(なんだこの飾り…っ?!)


 ただの扉のはずなのに、至る所に宝石が嵌め込まれている。これは開けるのにかなり慎重に行かないと…。

 それにしても、趣味が悪い。会長…はそんな人じゃなかったし…誰だ。


 「ってこんなこと考えてても仕方ない…先輩待ってる」


 朔は重々しい扉に手を掛けて、開いた。


「待ってたよ、高山君」


 執務机に座る徹が手を組んでにこりと笑った。

 その側に机に寄り掛かりながら腕を組んでいる人がいる。


「雷、自己紹介」


 徹が催促すると雷と呼ばれたその人は溜め息をついた。

「徹が他己紹介して」

「なんだそれ」

「他人を自分から見て紹介するやつ。で、やってあげたらやってもらうの。面白いだろ?お前が俺のことどんな風に見てんのか聞いてみたい」

「面倒だから却下。ほら早くしろ」


 雷が寄り掛かるのをやめて朔の目の前まで歩いてきた。


「初めまして、だよな。浅川雷、だ。親は情報のやり取りで金稼いでる。あとセキュリティとか。生徒会じゃ会計をやってる。よろしくな。俺のことは雷、って呼んでくれ。朔、って呼んでいいか?」


 雷にしては珍しくゆっくりとした口調で話すと、朔は嬉しそうに「はい。雷先輩」と小さく言った。


「じゃ、行くか」

「えっ」


 突然の事に朔は声を上げる。


「何処に、ですか?」

「会わせたい人がいる、って徹が言ってただろう?」


 そういえば、そうだった。

 徹が雷を手招きする。…のに目線はこちらを見ている。


「雷、抱えてこっちこい」

「はいはい。朔、ちょっとごめんな」


 よっと、と声が聞こえて身体が浮く感覚と共に視界がぐるりと回った。

 横抱きにされている、と認識するまで一秒はかかった。


「ちょ!?」

「落ちたくなかったら首捕まってろー。セキュリティかけてあるからお前一人じゃ入れないんだ。我慢してくれ」


 そう言い、つつ雷は笑っている。恥ずかしい……。

 だが、落とされては困るのでしっかりしがみついた。

 徹が机の下をまさぐると、近くの壁が開いた。


(隠し、扉……?)


「行くぞ」


 ちらっとそちらを見ると『0』のプレートが入り口と思われる場所の上にあった。

 その意味を深く考えさせる隙も与えず二人はその場所に入った。




「やあ、待ってたよ」


 雷の首にしがみついていたため相手の顔が見えなかったが、声が聞こえた。


「彼が、高山朔君?」

「ああ、そうだ」


 徹が答え、雷は朔を降ろしてやった。

 改めて声のした方を見ると先程見たような光景が飛び込んできた。

 同じ執務机に、一人、同じ夕星の制服を着た、徹ではない誰かが座って手を組んでいる。

 その机に寄り掛かりはしていないが、同じく制服を着て、側にきちんと立っている、一人。

 そして異様なのはその雰囲気だろうか。それとも、右目の眼帯か、不自然な程黒い髪だろうか。


「会わせたかったのは彼だよ、高山君」


 徹が指し示すのは――眼帯をした、座っている彼。


「あの…高山朔です。…初めまして」


 恐る恐る自己紹介をすると彼は優しく微笑んだ。


「先に名乗ってくれてありがとう。ボクは相手に名乗られないと名乗らない主義でね。初めまして、ボクは仲里悠紀。コレは勝瑞継。そこの会長とか会計とかは友達だよ」


 コレ、と言われた黒髪の人は綺麗に一礼した。

 その動きに見とれていると、視線がばっちり合ってしまった。


「…何か」

「い、いえ…」

「継、怖がらせてどうするの。来客用の椅子出して」


 悠紀が指示すると、継が椅子を運んできて悠紀と向かい合う位置に置いた。


「どうぞ」


 またも綺麗な動きで椅子を勧められ、ぎこちない動きでそこに座る。


「ごめんね、急に。こんな堅苦しい雰囲気で会うつもりは無かったんだけど、継が聞いてくれなくて。君に会いたかったんだ」


 悠紀の笑顔に、少し違和感を覚える。

 そもそも、会う理由はなんだ?それに、この部屋もおかしい。そして、生徒会長よりも偉そうだ、この人。

 なんというか…そう、この人を守るように勝瑞先輩や凪沢先輩、雷先輩がいるような。


「…僕に、何か用ですか」

「君が、死にたくなかったらボクの言う通りにしてほしい」


 即答されて一瞬、頭が真っ白になる。

 そんな朔を無視して悠紀は話を進める。


「君がもし、ボクの言う通りにしなかった場合、君の命の保障はしない。お母様も」


 最後の言葉にはっとして顔を上げる。


「母に…何をしたんですか」


悠紀はその問いに答えず、眈々と話を進める。


「ボクを信用するか、しないかは君が選べる。ボクを選んだ場合、ここにいる全員が君の味方。選ばなかった場合、君は一国…いや下手すると三国、かな。を相手に一人でどうにかする。どうする?」


 どうする?も何もない。こんな言われ方したら、誰でも答えは決まっている。

 だが、引っ掛かる。国に狙われるようなことをした覚えはない。それに、話が…大きすぎる。

そもそも、彼らは何者だ(・・・・・・)


「…僕は、狙われるようなことをしたんでしょうか」


 声を発して自分でも驚いた。こんなに震えるなんて。

 悠紀は終始変わらず笑顔で、少し困ったように眉を下げた。


「君が何もしていない、というなら、ボクにもわからないな。君が何か重要なモノを持ってる、とか言うなら別だけど。それも心当たりないんだろう?」


 コクリ、と頷く。

 とりあえず、この人は自分の知らない何かを知っている。


「あなた方は…何者ですか?そもそも僕が狙われるという話が本当である証拠は?…会ったばかりの人に、そのような話を聞かされても、信用出来ません」


朔の言葉に悠紀は微かに瞠目する。

彼は、少なからず頭の回転が速い。それなのに、何故この場所まできてしまったのだろうか。

この部屋に入ったら二度と、その縁は切れることはないのに。


「そうだね。…ボクはただの一生徒に過ぎない。こんな私室を与えられるような役職についているわけでもない。…君は賭け事は好き?」

「えっ?」


突然訊かれて一瞬何を言われたかわからなかった。…賭け事?


「賭け事…ですか?」

「そう。…君はボクに賭けるんだ。もし何か起こったら、ボクが君を守る。何も起こらなかったらそれはそれでいいに越したことないだろう?」


朔の脳内の思考がぐるぐると渦巻く。この人がいきなり何故こんなことを言い出したんだ?…あぁ、そうか。


「賭けになってないですよ。最大限譲歩したように聞こえますが、賭けてるのは僕の命だけ。…そしてそれが出来るのは、あなたには絶対の自信があるから、でしょう?」


くすっ…と声がしたかと思うと、悠紀の笑みが変わった。

まるで人が変わったかのように。


「正解。…やはり君はボクを楽しませてくれそうだ。この争いに参加してよかった。ーー君がボクの民でいてくれたこともね」


最後の方は小声過ぎてよくわからなかったが、朔は悠紀に目を合わせた。…賭けに乗るために。


「…僕を、守って頂けますか」

「勿論。目の前で死人がでるのは御免だからね」


 悠紀はすっと手を伸ばし、朔の頭を撫でた。


「いい賭けをしたね。きっと賭けたものの倍の利益が帰ってくるよ。これからボクたちは全力で君を守らせていただく。雷、部屋まで送ってあげて」

「はいはい。朔、行くぞ」


 雷が朔の腕を掴む。


「あ、ありがとうございました」


 雷に引きずられながらも頭を下げると、悠紀は変わらず笑顔で手を振った。





彼らの正体は何者なんでしょうか。

悠紀の性格がアレすぎて悪者集団になりかけてますが、一応ヒーローなはず。多分。

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