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0と1について知る必要がある。 そのⅠ



 東京の真ん中に、財閥や大企業の子息子女が通う中高一貫の有名校、私立夕星ゆうずつ学園がある。

 校舎は日本最大級の広さを誇り、その生徒や教師であっても全てを使うことはない。

 その校舎の南端に生徒達の中枢機関、生徒会は位置している。

 豪華な飾り扉を開けると――――――



「―――いよいよ明日ですね、会長」


 執務机の側で、資料を見ながら男子生徒が話し掛ける。


「ああ…夕星初の特待生、だっけ?」


 座っていた会長、と呼ばれた男子生徒が眼鏡の奥の目を楽しそうに細めた。


悠紀ゆうきは、何か見出だしてるのか?けい


 継、と呼ばれた彼は資料から目を離して顔を上げる。……不自然なほど黒い髪が少し揺れる。


「…いえ、何も。悠紀は…主は、『面白くなりそうだ』、と…」


 そして、目を伏せた。


「それと、主からもう一つ。とおる、あなたとらいに護衛を、と」


 会長…もとい徹の顔つきが厳しいものに変わる。


「それは…何かある、と言っているも同然じゃないか。悠紀は何を考えてる?俺が直々に護衛したら、他の生徒が何事かと思うだろうが」

「主が何をお考えか、などいつも解らないでしょう。…恐らく、昼間は他生徒からの、夜間はいつもの、護衛でしょう」


 はあ、と二人とも溜め息をつく。彼はいつも言葉が足りない。


「とにかく、その件は雷に伝えておく。…お前は一時も早く悠紀のもとに帰りたいだろうから」


 その言葉に継が少し困ったように笑う。


「…本来ならいけないのでしょうけれど……お言葉に甘えて、行かせていただきます」


 継が踵を返して窓辺に脚を掛ける。

 そして一気にそれを蹴って空に跳ぶ。

 一瞬光が見えて馬が駆けるような音がしていった。


「…連絡するか」


 徹が立ち上がり、傍に置いていた鞄を持って生徒会室を後にした。




 その頃、浅川雷は明日入学する特待生について調べていた。


「高山さく…ね…ん?」


 突然鳴り響いた携帯の着信音に、少し驚きつつ携帯に手を伸ばす。


「…何?今日の会計に何か不備でもあった?」


 いつも通りの台詞を言うと携帯越しに溜め息が聞こえた。


『…何故俺が電話するとお前の会計ミスの話、って決まってんだよ』

「だってそれ以外にあまり電話して来ないだろうが。お前が俺に初めてした電話も会計の話だったろうに。まあ?あん時はミスじゃなかったけど。まさか会計の話するためだけに携番聞いてきたのかと思ったし。…で?こんな時間に何の用だよ早く言え何もないとか言ったら噛み付くからな」

『雷…あのな、早く言え、って言うなら言わせる暇を与えろよ。その弾丸みたいに次々言う癖どうにかならないのかよ』


 相手の呆れた声に少しむっとする。


「無理。って何度言ったらわかんだよ。つうか何回この話すれば気が済むんだよ用件早く言え。まさか本当に何もないのか?」

『あーあーある!…悠紀から明日の特待生を護衛してくれ、って。だから情報くれ』

「…なんで悠紀は徹にばっかり継を寄越すんだ。俺だって継と話したいのに」


 拗ね始めた雷に、徹は何度目かの溜め息をつく。


『お前と継が話し始めたら、継が話すタイミング逃して、お前が一方的に話す羽目になるのが目に見えてるだろうが』

「そうだけど……。継が元の姿になった時って俺ら対等じゃなくなるじゃん…そしたら聞けるもんも聞けないじゃんか」

『…そうだな。じゃあ諦めろ。お前じゃ無理』

「はあ!?徹ふざけてんのか!俺は真面目に…」

『なんでもいいから情報くれ。浅川の力使えんだろ』


 更にむっとしつつ、つい先程まで見ていたパソコンを開く。


「名前は高山朔。当たり前だけど高校一年。夕星学園入学予定。男。髪は染めていない。背は160前後。出身中学は青羽あおば。私立だけどここでも特例特待生だったらしいな。」

『そうまでして特待でいる理由はなんだ?頭がいいっていうんだったら夕星の特待より上もいるだろうに』

「つっても?やっぱり私立な訳だろ。つまり金がかかる。理由はそれだ。父親が借金背負ったまま死んでる。母親は寝たきり、兄弟もいない。生活費はバイトしてるみてぇだな。よくある話だ」

『…ベタすぎるだろう…』


 また溜め息が聞こえた気がしたがスルーしよう。


「夕星も頭が悪い訳じゃない。寧ろいい。それの特待生枠なんだから更に頭が良いはず。昼間は他生徒からのイジメ対策ってことか…で?悠紀は彼に何か起こる、って言ってんのか?」

『…言ってないらしい。だが、俺を持ち出してる時点で何か起こるって言っているも同然だ。ただ、何が起こるか知っている筈なのに何も言わない』

 

 徹の言葉に雷が厳しい表情に変わる。


「…我等の王は、いつも言葉が足りない……」


 雷の呟きに、携帯越しの徹が同意するように頷いた。



 高山朔は夕星学園の南門の前で立ち尽くしていた。


(相変わらず、大きいな…)


 朔がここに来たのは二度目だ。一度目は受験のため、今回は入学式。

 前回はどうにか案内してくれる人や友人がいたからどうにかなったものの、特待生枠は一人。同じく受けた友達もいない。そして何故か係の人もいない。


(これは困った…入学式に遅刻とか最悪過ぎる)


 第一、この門が何処かわからない。

 事前に貰ったパンフレットは現在地が分からなくなった時点で意味を成さなくなった。


(とりあえず入って、誰かに聞こう。ああでも、誰にも会わなかったらどうしよう…!)


 軽くパニックになってきた朔の肩にいきなり手が掛けられた。


「大丈夫?」

「うわぁぁあああ!?」


 背後からだったため人の気配に気付かず驚き、大音量で叫んでしまった。


「あ…す、すみませんっ!」


 がばっと勢いよく頭を下げると相手の人も謝ってきた。


「いやいや、驚かせてごめんね。…君は新入生だろう?見かけない顔だし」

「えっ…全員の顔を覚えてらっしゃるんですか?」

「これでも生徒会長だからね。あと人の顔を覚えるのが得意だから」


 にこにこと自分のことを面白そうに見詰めてくる。


「せ、生徒会長さん…?」

「そう。ようこそ、夕星学園へ。君は特待生かな?」


 言い当てられてびくっとする。


「な…どうして」

「特待生だけこちらの門に呼んである、と理事長に言われてね。連れてきてって言われてるんだ。入学式はでなくていい。…というか、出たら駄目だ」


 入学式に出てはいけない…?どうして…

 僕が何かした…?


「あ、君の名前を教えてくれるか?俺は凪沢なぎさわ徹」

「えっと…高山…朔です。凪沢先輩…僕は……何かしましたか?」


 自分より背の高い徹を見上げる。


「…君は、特待生だからね。他の生徒は皆親の地位で入ってくる。嫉妬の嵐だろうな。そういう奴らだから。その嵐に、巻き込まれたくないだろう?」

「…っ!?」


 優しい目をしてそんなことを……。

 徹はまたにこりと笑って朔の肩に手を掛けた。


「さあ、行こうか。理事長が待ってる。寮代わりに理事長の住まいを貸してくださるそうだ。ああそれと、荷物整理が終わったら生徒会室においで。会わせたい人がいる」


 会わせたい…人?

 生徒会室はパンフレット見ればすぐわかるから、と言う徹にまた迷子になりそうだ…とうなだれた。



「あーれが高山朔か?ぱっとしない奴だな…悠紀は何考えてんだ?継」

「さあ…解りかねる。私に彼の全てがわかるとでも?」


 いや、そうじゃないけどさ…、と雷が口を尖らせた。

 二人は理事長室から徹と朔のやり取りを見ていた。


「…仲里なかざと君が、どうかしたのかしら?」


 別の声が入り込んできて、二人はぱっと振り返る。


「…理事長」

「これから高山君達が来るわ。それに今は入学式の最中よ。そろそろここを出なさいな。特に、勝瑞しょうずい君」


 理事長は継ににこりと笑い掛けた。


「その仲里君から伝言よ。早く自分の元へ来てくれ、と」


 継が僅かにぴくりと反応する。


「…そうやって笑うところは、徹に似ているのですね」

「あら?そうかしら。生徒会長も、やはり友達には甘いのかしら。…さあ、行きなさい」

「理事長、窓から失礼してもいいですか?廊下から気配がする」


 雷がゆっくり目を扉に向けて、閉じた。


「…ああ、やっぱり徹達だ。先に着かれちまったみたいだな。継、行こう」


 継はコクリと頷いて理事長に頭を下げた。


「失礼致しました」

「いえいえ」


 そして二人は窓から飛び降り―――消えた。

 それとほぼ同時に、扉がノックされる。


「失礼します。高山君を連れて来ました」

「どうぞ」


 重々しい扉を開いて、二人が入ってきた。


「初めまして、夕星学園へようこそ。理事長の凪沢です」


 理事長が執務机から立ち上がる。

 朔は聞き覚えのある名前に首を傾げ、徹を見上げた。


「凪、沢…?凪沢先輩と、同じ…?」

「そりゃあそうだろ。親子なんだから」


 徹が苦笑しつつ言うと、朔は目をぱちぱちて瞬きさせたあと、


「え…えぇぇぇえええ!?」


 叫んだ。


「そんな驚くことなのかしら。よく叫ばれるんだけど、そんなに似てない?」

「に、似てないとか言う訳じゃないですが…なんか雰囲気が違うというか…そもそも凪沢先輩のお母様、っていう歳に見えないです。歳の離れたお姉様みたい」


 朔が「だけど、」と呟く。


「そうやって笑った時は、凪沢先輩とそっくりです」


 理事長は朔の言葉にくすりと笑った。


「面白いこと。―――仲里君が気にかける理由がわかったわ。…生徒会長ご苦労様。そろそろスピーチでしょう?入学式に戻って良いわ」

「はい。では失礼しました」


 徹が出ていくと理事長は朔の手を取った。


「どうかなさりましたか?」

「…いいえ、なんでもないわ。じゃあ、あなたの暮らす部屋を案内するわ。荷物はもうそこに運ばせてあるから大丈夫よ」


 朔ははっとして理事長に頭を下げる。


「本当に、良くしていただいて…ありがとうございます」

「いいのよ。部屋なんて有り余ってるんだから。さ、行きましょう」


 理事長に連れられて、これから住む場所へと向かった。






初めまして。月彩と申します。

とりあえず終わらせることを目標に少しずつ更新していく予定です。

拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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