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掲載日:2026/09/17

 目を覚ますと、私は白い世界にいた。

 どの方向を見ても、ただただ白色。

 脳が混乱しそうなほどに白い世界。

 ここは夢の中なのだろうか。

 そしてその世界には、私以外にもう1人、女性の姿があった。

 頭には金色に光る輪っかが。そして背中には白鳥のような白い羽。

 あぁ、この人は天使かなんかなんだろうな、と私は思った。


「貴女には2つの選択肢があります」


 女性が言った。


「1つは、何も持たずに新たな人生を始めるか。もう1つは、この箱の中身を受け取って人生を歩むか」


 女性はそう言いながら、右手の平を上に向けると、そこに小さな箱が現れた。

 鍵穴が付いた、小さな宝箱だった。


「人生を始める? 歩む? どういうことですか?」


 私は女性に聞いた。

 でも、女性は何も返してはくれなかった。


「どちらの選択肢を選びますか?」


 まるでRPGの初期イベント。

 もしかしたら、あの宝箱の中には初心者にとってのお助けアイテムなんかがはいっているのかもしれない。

 そう考えると、宝箱を選んだ方が良いような気もする。

 私は女性の手の平に載っている小さな宝箱を指差しながら、


「箱の中身を受け取ります」


 女性は目を閉じ、どこか残念そうな表情を浮かべながら、そうですか、と呟いた。


「詳しいことは言えませんが、私は貴女にこの選択肢を与えなければいけない使命があります。ただ、こんなことを言ってはいけないのですが……」


 女性はそこで一旦言葉を切る。

 そして私を、どこか憐れみの目で見つめながら言った。


「貴女には、何も持たずに人生を始めてほしかったです……」

「それは、どういう──」


 気が付くと、女性の手にあった筈の宝箱が、私の手の中に存在していた。

 開けようとしてみるけれど、やはり鍵が掛かっていて開かなかった。


「この箱の鍵は?」


 女性に聞く。

 女性は私を指差しながら、鍵は貴女の中に、と小さく言った。

 そして、女性の姿が徐々に薄くなっていく。


「え、待って、どういうこと? 何で薄くなって──」


 女性の姿が消えていく中、どうか強く生きて、と声が聞こえた。

 白い世界に、宝箱を持って、1人残される。

 鍵は、私の中に? どういうこと?

 瞬間、意識が遠のいた──



 □ □ □



「────あ」


 目が覚める。

 目の前には知らない天井があった。

 白い世界じゃない、ちゃんとした天井。

 そして、その天井を見ている視界の中に、女性の顔が現れる。

 かん……ごし……さん?

 目があった。


「せ、先生! 意識が! 意識が戻りました!」



 少しして、男性の医師が来た。

 私に話しかけたり、目を指で開いて何か確認したり。


「覚えているかい? 君は事故に遭って──」


 事故? 私は事故に……。

 ふと頭に宝箱が浮かんだ。


 ──鍵は貴女の中に。


 宝箱が、開く。


 家族で乗っていた車。

 山の中。

 後続車の煽り運転。

 怯える私達。

 迫る後続車。

 慌てて運転する父。

 近くなるガードレール。

 突き破り、飛んだ。

 痛み、世界が回る、痛み、悲鳴、衝撃。

 ぐちゃぐちゃになった車内で最後に見た、ひしゃげた家族の姿。


「ああ……ああああああああああああああああああ!」

記憶の箱、開ける時はご注意ください。

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