エネルギーとEVについて
最下層階級の絶望騎士の登場人物である、第10位『狂王』がもし今の日本にいたら、日本をどう思うかを書きました。アメリカによるイラン攻撃で浮き彫りになった問題点が、日本社会で問題として捉えられていないような気がしたので書きました。
拙い説明で申し訳ないが、一意見として読んでもらえれば幸いです。
非常に奇妙なこともあるもので、最高峰の能力者の一人として共同体を牽引してきた俺様は、とても似ている別の世界に転移してしまったらしい。
友人であるリヨンと共に転移した俺様たちは、どうしてか始めから国籍を有していて、この国での生活を許されていた。
「オーエン、大変なことになったぜ」
俺様とリヨンとの共同生活、これにおいてまず真っ先に選んだのは生活する地域である。
これには地価が安く物価も都市部に比べれば安い地方を選んだ。
それからすぐに仕事を見つけて働き始めてから1年、次に決めたのは家である。
移動は全て自転車で行っていたが、家を買えば車が必須となる。
とはいえ、車には数多のリスクが伴うため、家が優先である。
移動に時間は多少かかるようになるが、しばらくは自転車で繋ぐこととしようという俺様の言が採用された。
「しっかし、どうして家より車を先に買わなかったので?」
「日本の金利は非常に安い。俺様たちが暮らしていた彼の地において、金利はインフレ率にほぼ並ぶ2%前後だった。しかしこの国は1%を下回る。インフレリスクの方が高いのなら、先に買っておく方が貯金して購入するより安く買える。待てば待つだけ貯蓄している金の価値が下がるからだ。故にフルローン」
住宅ローンの金利については、それより気持ち高い程度だが、インフレリスクの方が日本は高いと見ている。
「車もローンで買うのでは?」
「それなら金利がかかるならどっちを先に買っても同じだろうと?むしろ移動手段の方が便利だろうと?」
「そういうことだ」
「俺様が考えなしに購買行動を行うとでも?」
「というと?」
「単純に家がある分家賃がなくなる。代わりに発生するのがローンの支払いだ。年数長めで、二人で払うのだから、無理な額ではない」
「たしかに」
「それに、ソーラーパネル付きの家を購入した。つまり、電気の高騰リスクについても担保しているわけだ」
「はえー、色々考えてるんだなぁ」
外部に依存しない生活、これぞ理想形であるというのは、俺様の目指すヘテロトピアというか、かつての世界て実現させたヘテロトピアというか。
「では、車はEVを買うので?」
「無論だ。ガソリン車にはリスクがある。俺様がどうしてかつてEVの普及に力を入れていたか、今の東南アジアでの普及状況から、すぐにでもその優位性に気付くことになるだろう」
そうリヨンと語りあったのが数ヶ月前のこと。
今では中古で驚くほど安く買えた中国製EVを納車して、乗り回す日々である。
「いやー、最新の車が100万円台で買えることがあるんだなぁ〜」
「中国車だからだろう。日本の消費者は中国製をあえて選ばないという回答が5割を越えるというアンケート結果を見たことがある。典型的な、国とメーカーを紐付けて考える遅れた思想の持ち主だということだ。中国製品は現在、コストが安く性能が高いものが多い。日本製の家電、とりわけテレビやパソコンなどの電子機器系統は、中国メーカーの型落ち品より性能が低く高コストであることが多いくらいだ」
思考をアップデートしていかなければ、ラガードになるだけだというのに。
まったく、愚かしいことだ。
ともあれ、そのおかげで品質のいいEVが100万円台で買えるのだから、感謝しなければ。
「オーエン、大変なことになったぜ」
「アメリカとイスラエルがイランに攻撃したみたいだな」
「さすがに耳が早いな!でも、どうしていきなりそんなことをしたので?」
「俺様が知るわけがないだろ。とはいえ、予測はできる」
「核開発がどうのって」
「お得意の口実だ。もはや定型文だな!」
かの大統領は、以前の任期終了間際にも一度、イランにミサイル攻撃をしかけていたみたいだが、おそらくイスラエル人の支持者の票を集めるためだろうというのが、俺様の読みである。
「理由はどうあれ、イランとの戦争が始まったのなら、日本は対米従属外交をしているのたから、無関係ではいられない。ホルムズ海峡の封鎖に伴う石油価格の高騰が起こるぜ」
「そ、そうなのか?」
「間違いない。オイルショックの再来か。ところで、俺様が以前話したガソリン車のリスクについて、わかったか?」
「まさか、ガソリン代高騰をリスクだと言っているのか?」
「そうだ。ガソリン、石油は中東からの輸入に依存している。つまり、中東で何かが起これば、それは日本のガソリン代に直結するわけだ」
「でも、それは電気代も上がるのでは?それだけでリスクだと言うなら、EVにも影響があるように見えるが」
日本の発電方法の比率、わかるか?」
「さあ……?火力が多いとは聞くけど……」
「火力は多い。全体の3割を石炭火力が占める。それから、天然ガスが3割ほど、その中で中東が占める割合はさらに低く、石油が1割ほどだから、15割ほどが中東依存だろえか?原発はそもそも危険で発電コストも高く、地方を中央依存にさせるための装置であり、住民の分断を生む諸悪の根源だから、論外だが、その他発電方法は中東に依存しない」
「つまり、あまり高くならない、と?」
「そう。そして、電気は国内生産になるから、その国の物価水準に合わせて金額が設定されることになることがほとんどだ。発展途上国では、原油価格が先進各国と同じ価格で取引される中、電気代は国民生活に準拠した値段設定だから、電気自動車が非常に合理的だと言えるわけだ。戦争などで輸出が止まれば、必然的に値段が上がるガソリンより、電気の方が有用だろう?」
「しかし、日本は補助金を出し、尚且つ備蓄の放出もするみたいだ。それに産油国であるアメリカに出資もするようだが?」
「一つずつ順に説明していこうか」
俺様は人差し指を一本立てて、日本の補助金の問題点について説明する。
「まず、ガソリンは他国からの輸入であり、外貨を他国に流すだけのものだ。つまり、補助金を出す国など他にない。出す理由が迷子だ。単純に、運輸会社への業界支援のつもりで、ついでに人気取りをしている現状と見るべきだな」
続けて二本目、中指を立てる。
「備蓄の放出はさらに理解不能だ。足りない分の補填のつもりかもしれないが、戦争の長期化リスクを度外視した行いだ。需要と供給は、経済の最も基本的なことで、そもそもものがなければ買えないのだ。備蓄を現段階で放出して、後々足りませんとなった時、日本人の多くは移動手段を失うことだろう」
もちろん、戦争が短期で終われば問題はないがと付け加える。
そして三本目、薬指を立てる。
「最後にアメリカへの投資。これは採算が合わないだろうというのが結論であり全貌だな。採算がとれるのなら、すでにアメリカ企業が開発していた。日本もアメリカから輸入していただろう。そうではないのであれば、それは中東から輸入するほうが安いということだ。そもそもあれはアラスカの開発の話だが、地中深くにある油田から取り出すのには金が要る。それに、機構が整うまでに時間も必要だ。その前にイラン情勢が落ち着くか、国の資源が枯渇すれば、その投資は無駄投資で終わる。それに、結局のところ中東の情勢が落ち着いた時点でお払い箱だ」
「難しいな」
「難しく考えすぎなだけだ。事態はとても単純なことだ」
「というと?」
「入ってこなくなるリスクが浮き彫りになった。高騰リスクも見える化した。いや、これに関してはオイルショックから学ばなかったのかと甚だ疑問であるわけだが。世界のEV化は加速する」
「しかし、世界的にEVインフラが整っていない問題はどうする?」
「整備を怠っていたのが悪いと切り捨ててしまいたいが、そもそもガソリンインフラが整っている国や地域がどれだけあるのかと問いたいところだ」
「ガソリンインフラが整っていないところなんてあるのか?」
「リヨンはフランスを出たことがなかったのだったな。実際多くの地域でまだガソリンインフラが整っていない。発展途上国はそのほとんどが月収を円にして7,8万円程度、その中で少ないガソリンスタンドに人が集中することで起こる給油待ち渋滞、乗っている車は二十年落ちの中古車もザラ。燃費の良くない車で、産油国でさえ日本と変わらない値段で販売されるガソリンを入れなければならない。月に1万円ほどガソリン代にしてみれば、割合で見たときに無視できない出費だろう?」
「たしかに、7,8万円中の1万円と考えると、洒落にならないな」
「家にEV充電器設置するだけで、行列に並ばなくて良くなるんだ。それに、向こうの物価に準拠したエネルギーコストになる。日本の比じゃないくらいにお金が浮く」
「航続距離の問題があるだろ?」
「毎日1000キロ走るのか?それなら問題が生じるかもしれないが、そうでないなら構わないだろうに。まず、向こうの車は二十年落ちの中古車もザラだと話しただろう?日本で大人気のハイブリッド車など、高くて買えないさ。それに、結局はただのガソリン車に過ぎない。ビンファストやドグなど、それぞれの国で産まれた自前のEVメーカーがあれば、そちらの方が車両価格が安く、エネルギーも安く乗れる。自国の産業も育つ。どうせ大して距離も走れない車に乗るのなら、EVだって変わらない」
「日本ではそうはいかないのでは?」
「EVが普及していかないから、インフラが整備されない。CHAdeMO開発者が利権を握っている。高速道路に設置されたEVスタンドが、各サービスエリア、パーキングエリアで一社だけだから、独占市場になっていて充電料金をつり上げている。テスラ車を充電できないように、高速から閉め出している。さまざまな問題があるわけだが、フラッシュの充電器を設置すれば、充電速度が速く、料金も良心的、テスラも充電可能と、どうして高速道路上に設置させないのか、日本各メーカーの思惑が感じられるだろうよ」
「日本メーカーって、トヨタとか?」
「トヨタもそうだが、日本の自動車メーカー全般、それに石油会社もそう。EV化が進めば割を食うのが、その辺りの企業だ。充電渋滞など、数設置すればいいだけ。ガソリンスタンドを建てる方がよっぽど金がかかるだろうに。水素ステーションなどさらにひどいものだ」
「色々裏がありそうだな」
「EVを悪く言う勢力だって盛んだ。やれ燃えるだの、やれ走らんだの、やれ充電に時間がかかるだの。全部技術が解決してくれることであるわけだが、燃えるに関しては、電気自動車10万台辺りの発火台数が15台だったのに対し、ガソリン車が10万台中1500台ほど、ハイブリッドにいたっては、3000台の大台を越えた。現在主流となりつつあるLFPバッテリーがどんなものかも分からずに、スマホの電池と同じだという馬鹿丸出しの理屈を語る。大いに遅れてくれ。俺様は車が安く買えてうれしいからな!」
「でも、日本メーカーも電気自動車ってイメージあるくないか?」
「たしかに、昔は日産、三菱が世界の首位を独占し続けていた。リーフ、アウトランダーPHEVで1位2位を守り続け、そこにプリウスPHVが加わり、非常に勢いもあった。だというのに、ハイブリッドの成功に固執してしまったんだ。初期投資がかさむEVは、利益が低いなどと考えて。ところが、ここ数年ギガキャストの導入や電池生産のコストが下がったことで、大幅に値段を落としている。bydなど、もはや営業係数がトヨタと変わらない。値引き合戦をしているにも関わらずだ。それだけ安く作れるようになっているということが一つ。日本メーカーでトヨタより営業係数が良いメーカーはないのだから、これまで日本メーカーが続けてきたコストカット戦略が覆されつつあることも同時に挙げられる。時代はAIとロボティクスなわけだ」
「はえー、よくわかんね」
「つまり、極力人を雇わず、ソフトウェアで車両を管理できるようECUを減らすことで必要な工程を削るわけさ」
「だからテスラは納車が早いのか」
「そうだ。一カ月で納車できるのは、ギガキャストがそれだけ生産性が高いからだ。日本の工場より何十倍も高い生産性を持っているメーカーが、車を安く作れないわけがない。そんなメーカーと競争なんてしてみろ。確実に負けるぞ」
「それが勝負をしかけてきている、ということか」
「そうだ。日本は排他的な国だから、海外メーカーが売れない。そのおかげで耐えているわけだが、合理的に考えられる消費者であれば、航続距離も延びてきているEVを選ぶのは当然の選択だろうな。トヨタbz4xを筆頭に、バカみたいな補助金を含めれば、圧倒的に買いな車も多く出ている。地方に暮らす民であれば、戸建ての住宅も多いことだろう。ならば、1台くらいEVを所有してみればいい。切り替えが遅いから、日本の地方を痴呆だと揶揄する者まで現れ始めているのだから」
「情報がないから仕方なさそうだけど、それは可哀想な」
「発想がないことが可哀想なんだ。消費者を育ててこなかったつけを払わされているんだ、日本は。金利が上がれば消費が滞るクソザコ経済で、ガソリンを買い続けるリスクも考えられず、イラン情勢について関係ないという立場を貫こうとする国民。しかし、対米追従外交をしていたのだから、そんな政府を選んだ国民には、イランに敵視されるだけの理由がある。だというのに、そんなことは棚に上げて、ガソリン代が高いと文句を垂れるばかり。どうしようもなく乞食ばかりが暮らす国だ。ガソリン代が今安くなったところで、赤字国債を発行し続ける日本国は、借金の価値を下げるためにインフレを進めるだけだというのに」
「インフレ?」
「そうだ。例えば、今借金が10万円あったとして、十倍インフレが起きた社会ではその価値は借りた当時の価値で一万円相当になるわけだ」
「ふむふむ」
「つまり、円で借金を作っている以上、日銀にそれだけ紙幣を刷らせればいいだけのこと。その分、インフレが進んで、それでも上がらない給料。日銀が所有する株式の株価を安定させるために、株式市場ばかりを安定させようとする国。素晴らしいではないか!そうすることで、先進各国は経済が行き詰まった時生き残ることができる。その前列となったのだ」
「はえー、エネルギー問題への対策もまた、インフレを助長することになるのか。EV、エネルギー、AI、インフレ、これって別々の話じゃないんだな」
「そうだ。全て繋がっている問題だ。急進的に進めれば反発も起こることだし、とりわけ現在既得権益となっている企業からすれば、目障りなことこの上ないだろう。まあ結局、最終的には市場が判断してくれることだ。国際的に開かれた市場は、日本社会よりよほど合理的な判断をするだろう。東南アジアでの新車販売におけるEV販売の占める割合のように。或いは欧州の電気代で再エネに切り替えたドイツより原子力を続けるフランスの方が電気代が高いように」
「あれ?オーエン、お前さんがやめたんじゃなかったっけか?」
「ここは異世界だ。我々がいたかつての世界ではないんだよ」
「はっ、そうだった……!」
「次は何について話そうか?」
「日本の補助金についてとか?」
「またEV中心の話にはなるけど、いいのか?」
「俺たちが買った車、聞くところによると、新車の補助金額が日本車に比べると相当に少ないらしいだろ?その理由がよく分からなくてさ」
「D'ac。また今度時間がある時にでもしよう。今日はもう寝ようか」
気が向いたら続けるかもです




