第4話:今さら帰ってこいなんて、どの口が言うのですか?
魔王城が綺麗になっていく一方で、元いた国では不穏な空気が漂っているようで……?
「リリア。
少し休めと言っただろう。
貴様は、
働きすぎだ」
魔王城の中庭。
かつて
『死の毒沼』と呼ばれ、
猛毒の霧が立ち込めていた場所は、
今や、
クリスタルのように澄んだ
噴水広場に
変わっていました。
「いいえ、ゼノス様!
この噴水の裏側、
まだ少しだけ
『古代の怨念(水垢)』が
残っているんです。
これが、
私の仕事ですから!」
私は
デッキブラシ――
(神器・海神の三叉戟)を手に、
ガシガシと
床を磨きます。
その様子を、
魔王様は
淹れたてのハーブティーを飲みながら、
まるで
保護者のような目で
見守っていました。
「お前が掃除を始めてから、
城の魔族たちの
定着率が上がった。
……皆、
清々しい顔で
働いている。
私への反逆を
企てていた連中まで、
『空気が美味しくて
やる気が失せた』と、
掃除を
手伝い始める始末だ」
「それは
良かったです!
やっぱり
環境が人を……
いえ、
魔族を作りますからね!」
そんな
平和な(?)
ひとときを破ったのは、
城の門番を務める
ミノタウロスさんの
慌てた声でした。
「ゼノス様!
門前に、
聖王国の使者を名乗る
厚かましい人間どもが
来ております!
『リリアを返せ』と
騒いでおりますが、
いかがいたしますか!」
私の手が、
ピタリと
止まりました。
……聖王国。
私を
「無能」と呼び、
ゴミのように
捨てた国。
「……ふむ。
リリア、
どうする?
会いたくなければ、
今すぐ
私が塵として
処分してきてもいいが」
「いえ……。
一度お話しして、
ハッキリと
お断りしてきます」
◇◇◇
魔王城の
重厚な正門前。
そこには、
かつて私を冷遇していた
聖騎士の一人、
カイルが
立っていました。
彼は
私の顔を見るなり、
安堵したように、
しかし相変わらず
高圧的な態度で
口を開きます。
「リリア!
探したぞ。
こんな魔物の巣窟に
逃げ込んでいたとはな。
さあ、
すぐに荷物をまとめろ。
エリオット殿下が、
『戻ってきて
掃除をしてもいい』と
仰っている」
「……はい?」
あまりの言い草に、
私は
思わず
首を傾げました。
「あの、
カイルさん。
私は
国外追放された身なのですが。
戻ってきて
『いい』とは、
どういう意味でしょうか?」
「言葉通りだ!
今の王宮は、
理由のわからぬ汚れと
呪いで、
まともに
食卓も囲めない
惨状なのだ。
あの新人聖女では
話にならん!
だから
貴様の『掃除』で、
さっさと城を
元通りにしろと
言っているんだ。
感謝しろよ?」
カイルは、
後ろに控える
魔王様の存在に
気づいていないのか、
それとも
恐怖で麻痺しているのか、
勝手なことばかり
並べ立てます。
私は、
手に持っていた
デッキブラシを
ギュッと
握りしめました。
「お断りします」
「……何だと?」
「私は今、
魔王城の
専属掃除婦として
契約を結んでいます。
ここは、
汚れを
『無能』と笑う人は
いません。
皆、
私が綺麗にすればするほど、
喜んでくれるんです。
……それに、
エリオット様には
お伝えしましたよね?
『こまめに換気をしないと、
カビが生えますよ』って」
「貴様……!
聖王国の命令が
聞けないというのか!
この、
ただの掃除女が!」
カイルが、
怒りに任せて
剣に手をかけた――
その瞬間。
世界が、
凍りつきました。
「――おい。
私の大事な
掃除聖女に、
汚らわしい指を
向けたな」
私の背後から、
絶対的な
「死」を凝縮したような
プレッシャーが
放たれます。
ゼノス様が、
いつの間にか
私の隣に
立っていました。
その瞳は、
深紅の殺意で
燃え上がっています。
「リリアは
言ったはずだ。
断ると。
……それとも
何か?
その首を切り落として、
我が城の門飾りに
『掃除』されたいか?」
「ひ、ひぃぃっ……!?
ま、魔王……
本物の、
魔王……っ!」
カイルは
腰を抜かし、
無様に
地面を這いずりながら
逃げ出しました。
「覚えていろよ!
聖女を魔王に
売り渡した
反逆者め!
聖騎士団が
黙っていないからな!」
捨て台詞を残し、
走り去る背中を
見送りながら、
私は
深く
溜息をつきました。
「ゼノス様、
助かりました。
ありがとうございます」
「気にするな。
……それより、
リリア。
やつらは
また来るだろう。
あんな
不潔な連中に、
お前を
渡すつもりはない。
……これからは、
私の側を
片時も離れるな。
いいな?」
「えっ、
あ、はい……。
……お仕事中も、
お側で
掃除していて
いいんですか?」
「……。
ああ、
構わん。
むしろ、
そうしてくれ」
魔王様は
顔を背けましたが、
その耳の先が
少し赤くなっているのを、
私は
見逃しませんでした。
一方、その頃。
逃げ帰った
カイルを待っていたのは――
呪いによって
『生ける廃墟』と
化した、
聖王国の
無残な姿だったのですが……。
ざまぁ展開、お待たせしました! 捨てておいて都合が良すぎますよね。
リリアはもう、ここ(魔王城)が気に入っているようです




