第13話:魔王様の婚約発表と、伝説の「ワックスがけ」
ついに婚約発表!……ですが、リリアにとっては『パーティー』よりも大事なことがありました
魔王ゼノス様からのプロポーズから一夜明け。
魔王城は、
かつてない熱気に包まれていました。
――なんと。
ゼノス様が全魔族に向けて、
「リリアとの婚約」を正式に発表すると宣言したのです。
「リリア殿が正式に魔王妃に……!」
「これほどめでたいことはない!」
「我が調理場総出で、世界一清潔なフルコースを用意せねば!」
将軍たちは泣いて喜び、
城内はさながらお祭り騒ぎ。
――ですが。
私の「掃除聖女」としての魂が、
この状況を見過ごすはずがありませんでした。
「皆さん、落ち着いてください!
婚約発表パーティーを執り行うなら、
この大広間……まだ『光り』が足りません!」
「な、なんだと!?」
「我らが毎日磨き上げているこの床が、
まだ足りないと仰るのか!」
驚愕する将軍たち。
私はカバンから、
秘蔵のアイテムを取り出しました。
それは――
聖女の魔力で極限まで精製した、
伝説の『神聖ワックス・ダイヤモンド鏡面仕上げ』。
「今日という日は、
ゼノス様の威厳と、
私たちの新しい門出を示す日です。
……この広間の床を、
鏡どころか『世界を映す水面』に変えましょう!」
私の号令とともに、
魔族の精鋭たちによる『決戦の大掃除』が始まりました。
私がワックスを撒き、
将軍たちが全魔力を込めたモップで高速回転。
摩擦熱でワックスが石材に浸透し、
大広間の床はみるみるうちに透明度を増していきます。
――数時間後。
完成した大広間に足を踏み入れたゼノス様は、
自分の足元を見て、絶句しました。
「……リリア。
これは……床なのか?
私は今、星空の上を歩いているのではないか?」
そこにあったのは、
天井のシャンデリアだけでなく、
外の夜空までも完璧に映す――
『深淵の鏡面』。
埃ひとつ。
曇りひとつ。
存在しない。
もはや魔王城ではなく、神殿。
「はい!
これが私の、
ゼノス様への愛の輝きです!」
「……くっ。
貴様というやつは。
掃除で愛を語るとは、
どこまで私を驚かせるつもりだ」
ゼノス様は顔を赤らめながらも、
私の手を引き、広間の中央へ。
数千の魔族たちを前に、
彼は堂々と宣言します。
「皆に告ぐ!
私はこの掃除聖女リリアを、
我が唯一の伴侶とすることをここに誓う!
彼女が磨き上げたこの美しい世界を、
私は命を賭して守り抜く!」
――地鳴りのような歓声。
魔族も、
フェンリルも、
そして、私も。
すべてがこの上ない幸福に包まれていました。
……しかし。
その光景を、
魔王城の結界の隙間から、
遠見の魔法で覗き見ている――
「真っ黒な瞳」がありました。
「……笑っていられるのも今のうちだ、リリア。
お前が磨いたその輝き、
私がすべて『絶望の泥』で塗り潰してやる……」
聖王国の牢獄から脱獄した、エリオット王子。
その手には、
禁忌とされる『万物を腐らせる暗黒の魔導書』。
幸せの絶頂に忍び寄る、
最悪の油汚れ。
リリアの最強洗剤でも落とせないかもしれない、
復讐の嵐が――静かに、近づいていました。
鏡面仕上げの床でダンス。
滑って転ばないか心配ですが、魔王城の将軍たちなら完璧にエスコートしてくれそうです




