第10話:魔王様のプライベートバスと、ご褒美のシャンプー
節目の第10話! いつも頑張るリリアに、魔王様からの素敵なプレゼントです
フィオナ王女に
「究極の掃除キット」を
託して送り出してから
数日。
魔王城は、
かつてないほどの
静寂と――
そして
「輝き」に
包まれていました。
「リリア。
少しは
休めと言っただろう。
今日も朝から、
フェンリルの
ブラッシングに
余念がなかったようだが」
夕暮れ時。
テラスで
モップの手入れをしていた
私の背後に、
ゼノス様が
立っていました。
その手には、
見たこともない意匠の、
黒水晶でできた
鍵。
「あ、ゼノス様。
ちょうど
良かったです。
このフェンリルさん、
毛並みが良すぎて、
動くたびに
城中に
『聖なる輝き
(物理的な光)』を
撒き散らすように
なっちゃって」
「……それはもう、
汚れとは
無縁の悩みだな。
だが、
今日は
別の用件だ。
リリア。
貴様に
『ご褒美』を
やる。
ついてこい」
案内されたのは、
城の最上階。
そこには、
これまで
私が一度も
立ち入ることを
許されなかった――
魔王専用の
居住区が
ありました。
ゼノス様が
鍵を差し込み、
重厚な扉が
開いた瞬間。
――私は、
言葉を
失いました。
「……っ、
綺麗……!」
そこにあったのは、
見渡す限りの
雲海を望む、
全面クリスタル張りの
大浴場。
湯気は
真珠のように
白く。
浴槽の縁には、
最高級の魔石。
そして何より、
私の
掃除センサーが
告げていました。
――埃ゼロ。
水垢ゼロ。
呪い、ゼロ。
「私が……
いや、
魔族の技術の粋を
集めて作った。
リリア。
貴様が
毎日毎日、
他人の汚ればかり
拭っているのが
気に食わなくてな。
……誰にも
邪魔されず、
貴様自身の
汚れを落とす
場所を
作った」
「ゼノス様……
これ、
全部
私一人のために?」
「そうだ。
……あと、その。
……私も、
時々入るがな」
最後の方は、
消え入るような声。
ゼノス様は
顔を赤くして、
そっぽを
向いていました。
私は
感激のあまり、
気づけば
服を脱ぎ捨て――
……ようとして、
慌てて
思い止まります。
まずは、
このお風呂の
「性能確認」です!
「すごいです!
このお湯、
浸かっているだけで
魔力が
自動洗浄される
『高浸透浄化泉』
じゃないですか!
ゼノス様、
ちょっと
失礼します!」
私は
足先を
お湯に浸け――
「はぁ〜……」
思わず、
声が
漏れました。
聖王国で
酷使され、
魔王城で
毎日掃除に
明け暮れていた
私の疲れが、
魔法のように
溶け出していきます。
ふと見ると。
ゼノス様が
脱衣所の椅子に座り、
不器用な手つきで
何かを
用意していました。
「リリア。
……今日は、
私が
貴様を
『掃除』してやろう」
「えっ……?
魔王様が、
私の髪を……
ですか?」
「不満か?
貴様の髪は、
少しばかり
自分を
蔑ろにしすぎだ。
……こっちに
来い」
私は
恥ずかしさに
震えながらも、
ゼノス様の
膝の間に
座りました。
大きく、
温かい手が、
私の髪に
触れます。
魔界最高級の
薬草から
抽出された
シャンプー。
彼は、
もろい宝物を
扱うように、
丁寧に。
優しく。
私の頭を
洗ってくれました。
「……リリア。
貴様が
この城に来てから、
すべてが
変わった。
私の心も、
城の空気もだ」
耳元で
囁かれる
低い声。
泡は
虹色に輝きながら、
静かに
流れていきます。
いつもは
掃除する側の
私が――
今は、
世界で一番強い
魔王様に、
一番
甘やかされている。
「……あ、あの。
ゼノス様。
……私、
このお城に
来て、
本当に
良かったです。
……毎日が
ピカピカで、
とっても
幸せです」
「……。
……そうか。
ならば、
一生
ここにいろ。
汚れは
私が
払ってやる。
貴様は
ただ、
私の隣で
笑っていればいい」
湯気に
溶けていくような、
甘い約束。
私たちの距離は、
このお風呂の
湯加減以上に、
熱く。
近くなっていました。
◇◇◇
――その頃。
王国へ
帰還した
フィオナ王女は、
リリアから
託された
『黄金のタワシ』を
抜き放ち。
王宮の廊下を
埋め尽くす、
「しゃべる
人食いカビ」の
大群を前に――
凛として
宣言していました。
「お兄様、
覚悟なさい!
今日から
このお城を――
強制大掃除
(オーバー・クリンナップ)
いたしますわよ!」
黄金のタワシが
放つ
聖なる輝きが、
王国の闇を
切り裂く。
物語は、
ここから――
「王国の再生」と
「魔王城の恋」。
二本立てで、
さらに
加速していくのでした。
ついに10話まで来ました!
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
ゼノス様の不器用な優しさが爆発した回でした。
この先の展開も応援よろしくお願いします!




