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蛍越しに見る小さなトンネルの奥

作者: 神永遙麦

 ――平和の月はもうすぐ終わるのか……――。

 そんなことを考えながら走っていたらバスを乗り過ごした。仕方がない、と咲楽(さくら)は肩を竦めた。


 咲楽は周囲に何があるのかを確かめた。

 背後には茂み。野良猫がいる。奥には公園がある。しかも良さげな川がある。何か明るいなぁ。満月が近いから? いや、月で水面が照らされてる感じじゃない。蛍かな? スポットらしいし。

 よし、一旦家に帰るのは置いといて、ぶらぶらしよう。鞄はどうしよう……重いんだよなぁ。そうだ、貴重品だけ抜いてその辺に置いていこう。パスケースと生徒手帳とスマホくらいならポッケに入るし。


 周囲を見渡すと、バスが出たばかりで人はいなかった。咲楽は安心して鞄を茂みに隠した。そのまま茂みを突っ切ると、足元の感覚で土手があると気がついた。気をつけながら降りたが、勢い余り靴を濡らしてしまった。

「あっちゃ〜」と顔を上げた。蛍が何匹かいた。「すげ〜」とだけ呟くと、川で足浴を始めた。靴を履いたまま。

 この時期だし、平家蛍かな? ジャージのポケットからスマホを取り出し、蛍に向けた。ふと、蛍の生態を思い出した。確か閃光に弱かったよね、蛍。ピカピカ光ってる癖に弱いなぁ。だからスマホをなおした。騒音にも弱いから、足で瑞をバッチャバチャしない方が良いのかな? いや、それくらい大丈夫か? いや、君主危うきには近寄らず。止めとこう。


 いつもバスの時間ギリギリにバス停に着くから、蛍なんて見る時間なかったけど、光ってて綺麗。いかにも「儚い美しさ」って感じ。触ったら冷たいのかな、あったかいのかな?

 少し首を傾げ、ぽわぽわと飛ぶ蛍の、向こう側にもある土手に視線を向けた。土手にある小さな小さなトンネルが目に入った。大昔に掘られた防空壕だ。立ち入り禁止の柵が作られている。けど、小さい頃はかくれんぼに使ってたな〜。で、よく近所のおじいちゃんに怒られては、何があったかをコンコンと聞かされたわ。

 この辺にはよく空襲が来たって。だから市民の命を守るために作られたのが防空壕。あのおじいちゃんも何度かここの避難してたらしい。小かったけど、どうしようもない蒸し暑さが苦しかったのと町がどんどん燃えていったのを覚えているらしい。


 通過して行ったバスのエンジン音を聞いていると、急に虚しくなりそのまま川に浸かった。川の中は歩く時の感覚が重いけど、のっしのっしと歩いた。そのまま蛍の輪に入った。咲楽は祈るように目を瞑り、空を仰いだ。


 もうすぐ8月が終わる。

 太平洋戦争で苦しんだ日はいくらでもあるのに、何で8月だけが特別なんだろう?

8月が終わる前に載せます。

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