8レオルカの心中(2)
俺は少し寂しそうな顔を見せるエルディに結婚指輪を選ぼうと誘った。
「でも、まだ早いんじゃ?」
「いや、遅いくらいだエルディ。今注文しないと間に合わないぞ」
「うそ!やだ。レオルカ様急いで指輪を選びに行きましょう」
エルディが慌てたように椅子から立ち上がる。
俺はそんなエルディが可愛くて…はぁぁぁ、たまらんな。
そして宝石店で結婚指輪を選んだ。
テネグロール国では結婚指輪は金や銀で出来た飾りのないリングの指輪だ。
店の人に色々なデザインの指輪を見せてもらう。
エルディは色々な指輪を指にはめては外して悩みまくる。
「あっ!これ…素敵」
エルディが思わず漏らした。
その指輪はふたつを合わせるとハート型になるデザインで女性の方にはハートの片割れ部分に小さなダイアモンドが散りばめてある。
「気に入った?」
「でも、レオルカ様こんな指輪…嫌ですよね?」
「どうしてそう思う?」
「だってぇ、ハートですよ。男性には‥ううん、男らしいレオルカ様には似合いませんよ。やっぱりだめです」
エルディが一人で納得して勝手に決める。
「でも、気に入ったんだろう?俺はエルディが気に入った指輪がいい。この指輪だったら離れていても繋がってる気がするし、それに片割れだけじゃハートにはならないんだ。ほら、なっ。これにしよう」
俺はすぐに指輪をこれにすると店員に言った。
「でも、それダイアモンドもついてて値段も高いし」
「エルディ!そんな事はいいんだ。俺だって蓄えくらいある。心配するな」
「いいの?」
「当たり前だろう。俺はエルディが気にいったのがいいんだから」
エルディはやっと納得して「ありがとうレオルカ様」って言った。
頬をピンク色に染めて少し俯いて恥ずかしそうにしながらも口角は上向いているエルディに俺は悶絶したのは言うまでもなかった。
指輪には互いのイニシャルを刻印してもらう。今から出来上がるのが楽しみだ。
それから数日後エルデイのドレスが誰かにだめにされたと聞いた。
俺はまたエリクにそれとなく聞いた。
「エリク。アンリエッタはまだルーズベリー教会で結婚式を挙げたいって言ってるのか?」
「なんだ?」
「いや、エルディが気にしてたからさ」
「いや、アンリエッタはいつまでもそんな事にぐちぐちするような女じゃない。まあ、ちょっとばかり嫌味は言ってたが…でも、もう気持ちは切り替えてるみたいだし…俺達はクワイエス領にある教会で結婚式を挙げるつもりなんだ」
エリクがそう言ったので俺はほっとはしたが。
「それでアンリエッタ嬢はどうしてるんだ?」
「ああ、もうすぐ王都から引っ越すんだからとお茶会やら買い物やらに忙しいらしい」
「そうか。そう言えばドレスはどうするんだ?」
「ああ、もう頼んであるって言ってたぞ。この前一緒に見に行ったんだ。ほら、それに合わせてアクセサリーなんかも必要だろう?アンリエッタならどんな宝石もかすむだろうが、なあレオルカやっぱ、サファイアがいいか?それともダイアモンドかな?俺、迷ってるんだ。そうだ。今度一緒に見に行かないか?お前も買ってやるんだろう。そのエルディに。さぁ」
「まあ、そうだが…お前なんかと一緒に行けるか!」
「ちぇっ!」
エリクはそう言うと俺から離れて行った。
それにしてもドレスにまでそんな事をするとしたらアンリエッタではないのかもしれないとも思ったが気をつけるに越したことはない。
それにしても宝石か…俺としたことがそんな事に気づかないなんて。
エルディに話してみないとな…
俺の気持ちはドレスどころではなくなった。
俺はそれから数日後やっと勇気を振り絞ってエルディに宝石を買いに行かないかと誘った。
元気のないエルディを少しでも元気づけたかった。
「レオルカ様、私、母の形見をつけたいんです。勝手を言ってすみません。でも、真珠のネックレスとイヤリングなんですけど、あっ、今度お見せします。それでもし気にいって頂けなければレオルカ様に選んでいただいてもいいですので」
「いや、そうじゃないんだ。エルデイはそう決めてるならいいんだ。お母さんの形見をつけてくれ。きっとお母さんも喜んでくれるしな」
「はい、ありがとうございます」
「いいんだ。余計な事を言った。すまん。じゃあ、俺は仕事があるから」
「はい、お気をつけて」
「ああ、エルディも」
俺は気もそぞろにそう言って部屋を出た。
まったく、せっかくエルディが決めていたことなのに余計な事を言ってしまった。
いや、女心って言うのは難しいな。
俺はしばらくエルディに気軽に話す事が出来なくなった。